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tr413
スティール【400字小説】
リキが駅の改札で待ち合わせをしていたら、元カノらしき女性が改札機を通ろうとしていた。視線こそ合わなかったが、よく見れば、やはり元カノ。会ったのはコロナ禍前だが、目元のそばかすは思い出のそれと同じだった。「ヨォ」と気軽に声をかける。するとあからさまに舌打ちして、目線を外した。そのままスルーしようとさえする。「ちょ、待てよ」とリキは言うが、キムタクではないのでブサイクなだけだった。振り返ってみた元カノの背中は尖っている。怒りのような悔しさのようなさみしさが胸でかき混ざる。その直後「リッくん!」とガールフレンドが呼ぶ声。でも反応できない。元カノはリキから良き思い出を盗んで去っていった。「ちょっと!」と強めに肩を叩かれて、リキは現実に返る。ガールフレンドの明るい笑顔が弾けていた。リキはガールフレンドの何を盗み、自分の何を盗まれるんだろうと思う。結婚したら、そんなことはなくなるんだろうなと、漠然と。
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