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トラベリング【400字小説】

マコトは「宇多田ヒカル、取材したことあるんスよ~」だなんて吹聴しない。椎名林檎にも会った、草野マサムネにもインタビューした、音楽雑誌の編集者時代。自分の実力じゃなかった、業界大手の出版社のパワー、売り上げ好調だった時代の商業誌のエネルギー、それによって自分が助けられただけ。有名人に会うのは誰がすごいのか。そもそもそれはすごいことなのか。はっきり言えるのは、インタビューを受けるほど注目されているアーティスト自身だ。マコトは野球選手の松井秀喜の再従兄弟だった。でも、それも吹聴したりはしなかった、会ったこともないのに、恥ずかしいだけだ。できれば、取材する側ではなく、される側になりたかった。記事を書きながら、自分の時間を作って小説を書いていた。出版社にコネがあるから誰かを利用することもできたはずだが、しなかったのはプライドの問題。生き方がマジメすぎてトラベリング。マコトは本当に優れた編集者だったのに。

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