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鶴の恩返し、次の年の同じ日【400字小説】

雪が降りそうな日だった。空っ風が吹いていた。家はボロかった。扉をどんどんノックする音がした。もしかしてとわしは思った。「実は昨年、助けてもらった鶴ですが……」と扉の前に美女が立っていた。「去年は覗いてすまなかった」とわしと女房が謝った。美女は恐縮しながら「恩返しがしたいです」と言った。そんなことはいいからと思って、美女を家に入れた。本当に美しい女性でこの世のものとは思えなかったし、女房を前にデレデレしてしまった。雪が降り始めたのか、外はシーンとしていた。美女に最高の酒をご馳走した、熱燗。こんなこともあろうかと女房が用意しておいてくれた。その晩の飯はおいしく、わしも女房も酔っ払った。翌朝、目覚めたら美女は眠っていた。しかし、女房はいなかった。囲炉裏のそばに、置き手紙があった。
「わたしはいつか助けられた豚です。今までありがとうございました。鶴さんとお幸せに」
わしは大号泣したが時すでに遅しだった。

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