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桃太郎、その前【400字小説】

わしは「ごしたいなあ」と思いながら、川で洗濯を始めた、あの衝撃で忘れてしまっていたが。じいさんの採ってくる山菜を「天ぷらにするしない?」とか考えるわしもいた。山は緑でもりもりだったが、鳥たちがいない雰囲気だった。風がいつもよりも冷たい気がした。今年の米が豊作だったのが救いだったのか、そうではないのか。お偉いさんにたくさん貢がなくてはいけない。こんな老いた人間にも手厳しくて、まるで鬼。(鬼ヶ島にはそんなお偉いさんたちが住んでいるんだな。)

今晩もじいさんと添い寝できることを妄想していたかもしれない。しかし、それはでっけえ桃が川下から流れに逆らって流れて(?)来たことに驚きを隠せずに、すべての思考がぶっ飛んだ。布団を干し忘れてきたこともどうでもよくなって、気づいたら夢中で川に足を踏み入れていた。とにかく大きいから必死で抱きしめて川辺へ。何度か溺れそうになり、川の水を飲み込んだ。ほのかに甘かった。

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