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ユーロ・ステップ【400字小説】

「マイケル・ジャクソンのステップはキレがあっただなんて、素人でもわかるよ」とアヤホは苛々を押し殺して言う。真夜中の文化ホール前で踊りの練習。ガラス張りの壁面に向かって踊っている。ダンス経験0のドコカがアヤホのダンスにダメ出し。でも、アヤホが頼んだことだ、自業自得。「マヌ・ジノビリのステップは革命的だったよ」とドコカは誰だかわからない名前を出すからアヤホはますます苛々。怒りのせいか、踊りが荒ぶる、雑になる。素人のくせにそういうところには敏感で、すかさずドコカはアヤホに注意する。
「怒りの感情で踊っちゃいけないよ。誰も楽しくすることができないんだからね」
どのアドバイスもいちいち的を得ていて、苛立つ。
「アヤホらしく踊ろう」
「わたしらしいダンスって何さ」
「そうだなあ、感情に振り回されるダンスかな」
言っていることが矛盾していて苛々する。だからその感情のままステップを踏んだら、4小節だけマイケルになれた。

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