南魚沼市浦佐地域のサウンドスケープ(音風景)を捉える調査
※ 私は京都芸術大学大学院の学生(MFA課程)でもあり、デザイン思考と地域風土の研究を行っています。大学院ライフも残り半年となりましたが、今回は取り組んでいる研究についてのnoteです。
先日の現地調査にて行った、フィールドレコーディングの記録をまとめてみます。場所は、新潟県南魚沼市浦佐地域です。
この地域では、イギリス発祥の歩きながら自然を楽しむ「フットパス」というアクティビティを提案、展開しています。
今回、そのフットパスのコースを体験しつつ、道中の印象的な音風景を拾ってきました。
浦佐フットパスとは
浦佐地域づくり協議会が主催する、歩いて楽しむ小さな観光コンテンツです。
プロモーション動画はこちら。
このコースの中に、地域らしさを感じることができる音風景があるに違いないと思い、調査を進めています。(最終的にどうなるかわかりませんが!)
では、実際の音を聴いていきましょう。
音風景1:普光寺の手洗い場
約1200年の歴史がある、浦佐毘沙門堂、普光寺にある手洗い場の録音です。こちらは、日本三大奇祭の一つであり、2004年に文化庁から無形の民族文化財に指定された、「越後浦佐毘沙門堂裸押合大祭」の開催地でもあり、町の顔となる場所です。ちなみに、こちらのうがい鉢は大石を削って作ったものとのこと。長年地域の背景に流れ続ける、歴史ある水音です。
音風景2:毘沙門堂の鐘
続いて、毘沙門堂の鐘です。こちら、鐘の形状が珍しく銅羅のような音が出ます。弱中強と、アタックの強さを変えて叩いていただきました。聴くと雑念が飛ぶような音だと感じます。
音風景3:地蔵の清水
少し進むと、道路の歩道部分に水汲み場が登場します。お地蔵様のとなりにあるため、「地蔵の清水」と呼ばれています。
水質検査もしているので飲用可能です。大中小と、複数の口から水が流れており、その音にも存在感があります。
音風景4:交通の要衝
浦佐は宿場町であり門前町という出自をもつ町です。三国街道と魚野川と毘沙門堂の存在が背景にあることで、古くからの集落に新しいヒトモノが集まり融合しながら発展してきました。
現在も交通の要衝であるために、川、国道、在来線、新幹線が、幅150mくらいのなかで並走している特徴的な場所があります。
録音時、鉄道が走るタイミングではなかったので不在ですが、魚野川の流れと車の音が隣り合う音風景がありました。
音風景5:集落の入り口
各集落の入り口部分には、こういった「庚申(かのえさる)」と書かれた石碑が配置されています。60年周期(干支、すなわち十干・十二支の60通りある組み合わせのうちの1つ)で新たに石塔を追加するとのことで、集落にとっては結界の役割を果たしています。隣を通る交通線はここ50年で大きく変わりましたが、集落部分はかつての景色から大きく変わっていないようで、それらが混ざった音風景となっています。
音風景6:集落内の水路
こちらは集落内に流れるちょっとした水路です。水の流れを緩やかにしつつ補強するために配置された石によって、流れる水の音に変化が生まれています。平均dbは約50ということで、それなりに騒がしいはずなのですが、不思議と不快に感じない、むしろ心地よい音であることが印象的です。周辺に住まう方は、窓を開ければこのまろやかな水路の音を取り入れることができるのかもしれません。
音風景7:民家の水音
ひとつ前の水路を越えたところにある集落では、各家の玄関口にちょっとした水の仕掛けがありました。時期によっては、きゅうり、なす、すいか、あるいはビールが冷やされているようです。音風景としても存在感があり、遠くから踏切や新幹線が通る音が聞こえてきたと記憶しています。音としての水の存在は、この浦佐地域の人々にとって日常かつ特別なものなのかもしれないと感じる光景です。
音風景8:農村風景
魚野川が生んだ河岸段丘と、昔から続く農村風景が広がる場所の音風景です。虫や鳥、遠くからうっすら魚野川の音、サイレンのような音などが聴こえてきます。遮るものがない風景ゆえに、様々な音が抜けてくるように感じました。
音風景9:普光寺の梵鐘
最後に、普光寺の梵鐘(時刻を知らせる鐘)の音です。「梵鐘の会」という地域団体が、朝6時と夕方6時に鐘を鳴らしています。
時刻を共有するだけでなく、毘沙門堂や越後三山とともにある町の原風景を作り出しているように感じました。
(全部で12回鳴らすのですが、後半6回を体験させていただきました)
※ 歩いた日は鐘の音が鳴らなかったので、前回録音したときの音を載せます。
さいごに
浦佐フットパスのコースから、地域の音風景を探る調査を行いました。音から町の景色、歴史、生活、文化、信仰、そういったものが垣間見えたと実感しています。
地域の方々がこれらの録音を改めて聴いたときに、どのような印象を持つのか、どのような記憶が呼び起こされるのか、地域にとってどんな意味を持つのか。そういったことを引き続き調査していきたいと考えています。
スローでオーガニックな「浦佐フットパス」そのものも、魅力的なものでした。その魅力をさらに引き出すためにも、音風景の研究を深めていきます。
(つづく)
おまけ
浦佐地域づくり協議会のブログにて、フィールドワークの様子を掲載いただきました。
(よそ者の研究者を、興味深く見守っていただけている様子が描かれています笑。大変ありがたいです。)