団地とサイレントヒル ②
そうこうしているうちに、団地に引っ越す日が近付いてきた。
人生の絶頂にいた私は、仲のいい友達に前もって団地に引っ越すことを触れ回っていた。
団地に引っ越すから、いつでも遊びに来てや!
団地について何もわかっていない私は、周囲に団地マウントをとりまくっていた。
なぜそんなことになったのかというと、私は引越し当日まで、団地に足を踏み入れていなかったのだ。
母だけが内見に行き、私は団地を見せてもらえていなかったのだ。
団地の懸賞に当たるということは、当時倍率が高く、あれよこれよという前に入居が決まっていた。
女手1つで子供を育てていくのに、2LDKの綺麗なマンションは家計を圧迫していたのだ。
そんなこともつゆ知らない私は、団地に着いた瞬間、夢の国から目覚めることとなった。
まず到着して驚愕したのは、その外観であった。
まるでサイレントヒルの世界にでも迷い込んだかのように、建物が全体的に錆びていた。
雨に濡れた錆が壁に血のような痕跡を描き、サイレントヒル以上にサイレントヒルであった。
母が、意気揚々と血と錆の世界をつなぐ扉を開いた。
子供ながらに一抹の希望を抱く。
どうか、どうか内観は綺麗であってくれと。
私はおそるおそる、中へと進んだ。
つづく
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