猫の不思議なチカラ
実家へ行って、頼りなくなり何かとおぼつかなくなってきた母の世話をしてきた。世話をしてきたといっても、本人はあまり自覚がないので、母の立場になるのであれば、「母に会いに行ってきた」程度の表現がよいのかもしれない。
多くの老人と同じく、母も薬が増えた。高血圧、骨粗鬆症、高コレステロール血症、便秘… そして、いつ、どの薬を飲むのかを理解し切れていない。
週に2,3度実家へ行き、都度、薬を整える。飲み忘れが出ないように、いっしょに飲む薬を全てホチキスで留める。
床に胡坐をかきながらその作業をしていたとき、視界の端に何かが見え、頭を上げた。一瞬、モモちゃんが見えた。
ワタクシの脳が捏造したのかもしれないが、はっきりと見えた。
長毛ではないがふんわりしていて、クルマエビのようなしっぽを持ったタイガーキャットのモモちゃん。モモちゃんは母のことが大好きだった。
ひとりで暮らす母のことが気掛かりで、様子を見にやって来ているのだろうか。
そういえば、入院中に似たようなことがあった。
あれは、同室さんが退院して、広い病室で夜をひとりで過ごすことになった最初の晩だった。
しーんとした世界に馴染めず、それでも何とかうとうとすることに成功した時分、「カリカリカリ…」という音が聞こえ、ハッと目覚めた。
「撫子ちゃん、どこにいるの…」
つい、声を出してしまった。
三毛猫の撫子さんは、ニコライ宮殿(拙宅のこと)の末っコだ。縞三毛なので、クルマエビのしっぽを持っている。
モモちゃんと違うところは、撫子さんは元気にこの世を謳歌しているという点だ。
「カリカリカリ…」という音は、夜中に撫子さんが寝室から出たいときにドアに爪を立てる音だ。これを聞くと、どんなに眠くても、起きて部屋の外に出してあげなくてはならない。
その音が、病院で深夜に聞こえた。
ワタクシが入院しているのを心配して、猫の不思議なチカラを使ってやってきたのだろうか。
実は、イイトシになってからの初めての入院が不安で、ワタクシは病院にこんなお守りを持っていっていた。
ジョゼフィンお嬢さんの毛玉だ。これを枕の下に入れていた。
もしかしたら、お嬢さんが撫子さんを病院に呼んだのかもしれない。「おかーにゃんのお世話をしなさいなのよっ」と、お師匠さんが弟子に言いつけたのかもしれない(笑)。
とにかく、空耳であったとしても、うれしかったことは確かだ。
モモちゃんも、母のことが心配なのだろう。いつまでたっても面倒を掛けるね。
今度、おやつでも持っていこうかな。
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