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ジョゼフィンお嬢さんのお話 ~5. 最後の日
そして、10月15日になった。
(1) 朝の様子
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前日までに食欲が戻り、いつもと変わらないジョゼフィンお嬢さんだったので、この日がお嬢さんといっしょにいられる最後の日になるなんて、考えもしなかった。
朝、おしっこをした。いつも通り。お嬢さんがいちばんよく使うトイレだった。
10時ちょっと前、朝ごはんを食べた。半分くらい残したけれど、食べ始めはいつもそう。いつもあとから、「続きを食べるなのよっ」と言いに来るから、気にしなかった。ワタクシは変化を感じ取れなかった。
昼前、ワタクシはいつものペット用品のネットショップで、ジョゼフィンお嬢さんのためにウェットフードを探した。お嬢さんはフードの選り好みが激しかった。ウェットフードは特に。それまで食べていたものも食べなくなってきていたので、食べてくれそうなものを探した。
「おかーにゃん、あのね、アタシこれ、食べられないなのよ...」
においを嗅いで、食べないと決めたら絶対に食べないお嬢さん。涙目でワタクシの目を見つめて訴えた。その表情を見るのは切なかった。
ネットショップで原材料や形状、フレーバー等々を確認しながら、ワタクシは十数種類のウェットフードを選び、ひとつずつオーダーした。
「ジョジョ、好きになってくれるのあるかなあ」
声に出して言ったことを覚えている。
届いたのは翌々日。お嬢さんには食べさせてあげられなかった。
もしかしたら、激しい選り好みも単なる嗜好の変化ではなかったのかもしれない。
(2) 午後の様子
14時頃、ワタクシたちは外出した。出掛ける少し前、「ハコスキー」なお嬢さんは、お気に入りの箱の中にちょこんと座っていた。そのときは気に留めなかったが、ちょっと表情が暗い。
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出掛けるまで、朝ごはんの続きは、一度も催促されなかった。お嬢さんは自分に異変を感じていたのだろうか。
17時頃、ワタクシたちは帰宅した。少し疲れ気味だったダーリンは、リビングのソファの上に横になった。すると、お嬢さんがやってきてダーリンの上に乗り、ゴロゴロ治療を始めた。最後の施術は、おとーにゃんが受けた。
そして、これがジョゼフィンお嬢さんの最後の写真となった。
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この表情、お嬢さんはこれまで一度もワタクシたちに見せたことがない。ダーリンに寄り添いつつも、喉を鳴らしてお嬢さん自身をもリカバリーを図っていたのかもしれない。
(3) 夜の様子
20時30分、夕食。結局、ジョゼフィンお嬢さんは朝ごはんの続きを催促しなかったので、半分くらい残っていた。でも、夕ごはんはしっかり食べ、ほとんど完食した。お嬢さんは元気だった。元気に見えた。
夕食後も、お嬢さんに特に変わった様子はなく、いつもと変わらなかったのだと思う。正直、覚えていない。だから、ほんとうにいつも通りだったのだと思う。箱の中に入ったり撫子さんの毛づくろいをしたり。お別れすることになるなんて夢にも思っていなかったので、特別な注意を払っていなかった。特別気になることもなかった。
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実は、あとでワタクシたちの後悔を吹き飛ばしてくれるほどの不思議が、この夜起こっていた。この夜の、いつもとは違うワタクシたちの行動が、この後起きる悲劇によるダメージを軽減してくれた。
この夜、ダーリンとワタクシは行動ペースが遅かった。なぜかはわからない。いつも夕食は遅く、22時頃になる。その前に、二人とも先に入浴を済ませる。
この晩は、ダーリンが風呂から上がったのが21時半を廻ってから。ワタクシは22時少し前になってからようやく入浴した。
「あー、今日は一段とごはんが遅くなったー」
などと考えながら髪を洗っているときに、ダーリンの大きな声が聞こえてきた。
「ジョジョがおかしい! ジョジョ! ジョジョ、しっかりしろ!」
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