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運任せの親交

何度も書いているけれども、美術館のバイトネタを今日も。
美術館のバイトだけでも、結構な人数が働いている。1つの展覧会で監視員は複数名立っているし、休憩を回していくために、その立っている人数以上にいるし、チケットのモギリ係もいるし、受付の人もいるし、と考えると、なかなかの人数であることを想像していただけるだろうか。

私が勤めている美術館では、監視員とチケットのモギリ係は、同じ控室で休憩をしている。
この中で仲良くなるのは、ちょっと時間を有する。
まず人数が多いので、その中から名前と顔を一致させる必要がある(私が苦手とするところ)。
そしてなんとなく顔見知りになったとて、シフトが重ならない限り、会うことはない。
更に、勤務中は1人ずつぽつねんと立っているような仕事なもんだから、親交を深めるのは、勤務前の数分か、休憩時間しかない。
休憩時間が被る確率はそんなに高くない。

人見知りをこの歳でもしてしまう私は、知り合いすらできるのか心配になってしまう環境だが、幸いなことに、コミュニケーション能力の高い方たちに話しかけてもらったり、そこから話す人の輪が広がって、各休憩時間に話せる人が1人はいるくらいになってきた。「話せる」というのは、「今日は忙しいですよね」みたいなスモールトーク含む、である。

個人的に、シフトが一緒になるかどうかの運と、シフトが一緒でも同じ休憩時間になるかどうかの運、というように運が重なっていくような、こんな職場の交友関係をとても気に入っている。
楽しく喋る仲の人と休憩時間が一緒になるとラッキー感が高まるし、逆にそんな喋る人がいなくても静かな時間は苦ではないし、そういう場合があるからこそ、次に会うときのラッキー度が上がる。

こうして運よく出会えた人たちと話すネタとしては、勤務時に一人でじっと立っている間に起こる様々なハプニングの話が多い。
こんなことを突然言われてとっさにうまい返しができなかったとか、こんな素敵なお客様がいたとか、こんな面白いことがあったとかとか。
何せ一人でじっといるわけだから、どんなにすごいことがあってもその場で同僚と共有できない。やっと出会えた休憩時間で、このすごさを共有できる、これ以上の楽しみはないのだ。
もちろん共有したいような内容はいつも持っているとは限らない。
そうなるとぽつぽつとプライベートな話が展開されるようになる。家族の話やら、これまでのキャリアの話やら、どんな人生を送ってきたかやら。
これがまた、本当に様々で聞くとびっくりなことが多い。

このプライベートの話を聞けるのは、非常に稀なことである。
繰り返しになるが、同じシフトに重なる確率×同じ休憩時間になる確率×ひょんなことでプライベートな話に及ぶ確率である。
しかも主に休憩時間か、帰り道が一緒の15分~30分という限定的な時間の中での話になる。
小出しで語られる大変に興味深いプライベートな話に出会うのは、まるで希少動物にひょいっと出会うような驚きと、感動すらある気がする。

アルバイトという気安い環境で、気負ったり張り合ったりする必要もなく、宝くじのような確率で少しずつその人となりが分かってくる。
そんな人間関係に面白さを感じる今日この頃である。

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