#23 「鬼さん来るよ」をやめてこそプロ 【子育て職の専門性】
子どもが言うことを聞かない時の大人側秘密兵器「〇〇が来るよ」。
鬼、お化け、妖怪、幽霊
「日々の親子バトル」市場を発見&開拓している会社が参戦してきて、子どもにいうことを聞かせたいあなたにおすすめ!と鬼から電話がかかってくるスマホアプリが流行ったりもしていますよね。
私の意見としては、日々の子育てに疲れ切って消耗してしまうことを回避できるなら、親が使う分にはOK、と思っています。
ただ、「仕事」として子どもと関わる場面については別です。
今日は、いかに「鬼さん来るよ」的な手段以外で子どもをその気にさせられるか、が腕のみせどころ=専門性だと思う、という話です。
「育てる」とは、子どもの「行動」を変化させること
食べさせて、病気にならないよう清潔を保って、死なないようにキープする、だけが「育てる」ではもちろんないですよね。
子どもたちの振る舞いに注目すると、こんなふうに表現することができます。
幼児期の子育てを例に挙げれば、
「夜ふかし」「トイレ以外での排泄」「思い通りに行かないと起こすかんしゃく」といった行動を減らし、
「成長を促す睡眠リズム」「一人で排泄@トイレ」「感情や要求は言語で伝える」といった行動が増え、習慣化することが目標の一つとされていますよね。
「出現頻度」という表現をしているのは、行動や習慣の変化は「すぐに・完全に・一度に」起こるものではなく、行ったり来たりしながら徐々に割合が増える形でゆるやかに変わっていくものだからです。
では、行動の出現頻度に影響を与えるものは何か。
行動は「結果」によって変化する
人間がとる行動は、何をきっかけに起き、どういう時に増えたり減ったりするのか、といった内容を研究する「行動分析学」という学問分野があります。行動分析学を現場に応用した支援技法がABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析)です。
ABAでは、行動の出現頻度を左右するのは行動の「結果」であるとして、2パターンを考えます。
行動したあとに「良いこと」が起きると、その行動が増える(行動の強化)
行動したあとに「良くないこと」が起きると、その行動は減る(行動の弱化)
ほめられたら何度もする。叱られることは次第にしなくなる。当たり前やん
という話ですが、自分が子どもに対して行っている関わりがどちらにあたるのか、を自覚することは非常に大切です。
弱化対応のリスク
「鬼さんが来るよ」は「弱化」対応ですね。
シンプルに怒る・叱るの他にも「次やったら怒るよ」「早くしないと間に合わないよ」「ご飯食べないならおやつ禁止ね」「〇〇しないならもうゲーム捨てます」
これ全部弱化の対応です。
弱化対応には即効性があり、家庭での子育て場面では有効な時も多くありますが、欠点もあります。
怒られた人の前でしなくなっただけで、実は隠れてしている、といった事態になりがち
叱られることに慣れてしまうので、叱るトーンが次第に激しくなりがち
大人は弱化させようとしているが、本人は「構ってもらえた」「自分だけを見てもらえた」と解釈し、かえって強化させてしまう場合がある
といったものです。
仕事として子どもと関わる大人にとっては、特に2番の「エスカレートしがち」という点に自覚的でないと、心に深い傷を残したり、虐待につながってしまうリスクがあります。
安易な手段に頼らず、弱化以外の方法で子どもを動かすことができる引き出しを増やしていくのが、子どもと関わる仕事の「専門性を獲得していく」ということだと私は思います。
簡単じゃないんです、もちろん。
思いもよらない行動が次々繰り出される中で、その場の反応を調整するのは難しい。とっさに「怒る・叱る」言葉かけをしてしまったり、どうしても言うことを聞かせないといけない場面で脅迫めいた声のトーンになってしまったり。
それでも、仕事として子どもと関わることを選んだからには、「何も学ばなくてもできる手段」以外の引き出しを自分の中に増やしていくことが必要だと思います。
以上、ついやりがちな「鬼さんくるよ」的関わり方は何を意味しているのか、という解説と、そこに潜むリスクについての話でした。
ではでは。