【レポート】初めて文学フリマ東京に出店した話
5月19日に東京流通センター 第一展示場・第二展示場で開催された文学フリマ東京38に参加しました。
出版業界での実績も知名度もないので、出店料の6,500円分が売れればラッキーくらいの気持ちでいたのですが、それどころか、閉場時間の1時間半前に持っていった分が完売、参加者としても大興奮の楽しい時間を過ごせました。
初めての出店ということで、見て回る時間も十分に取りたく、長机半分の狭いブースなのに5名という手厚い体制で挑み、入れ替わりで行動していたので、全員集合した写真はありません。笑
それでは、いつもながらではありますが、我々がいかに無知だったかを、申し込みのところから振り返ります。
あれは、発売日を1週間後に迎え、毎晩、「あれ大丈夫だっけ?」と夜中にふと目が覚めて確認していた時期のことだった。
SNSで「文学フリマ」というワードを見かけるようになり、フォローしている本屋さんや出版社さんも出店されると知り、「これ、出てみても良いのでは?」と思い立った。
この時点で、申し込み締切日の3営業日前の夜だった。
少し話を逸らすが、インターネットは便利だが、自分の属性や興味・関心の範囲からはみ出るものと偶然出会うことは難しい。
いやはや、複数の異なる業界・事業・職種を兼務したり、全く知見のないことをやり遂げる係になったりの人生なので、新しいことが始まるたびに、属性を変えて、別のアカウントを作り、できるだけ未知の情報が流れてくる環境をつくる。同一人物だと特定されるのは免れず、悪あがきの域を出ないとはいえ、これまでのインターネット上の人格ではタイムラインに全く出てこなかった情報を一時的に引き出すことはできる。
毎度、「こんなに偏るもん!?怖っ!」と思える程度には景色は変わる。
そんなこんなで、文学フリマに出会ったときには、すでに先着1,200ブースを超える申し込みがあり、出店できるかどうかは抽選次第だった。
「そんなに人気なんだなー」とのんびり見ていたら、去年11月に開催された前回の出店は1,843出店・2,086ブース、来場者数は12,890人(出店者3,062人・一般来場者9,828人)と書かれていて、それはもう、たまげた。
出店料は6,500円。私たちの本の場合、人件費・交通費・販促物の制作費を度外視すれば5冊以上売れば回収はできる。チームで「ダメ元で申し込んでみるか」という判断をし、申し込んだ3営業日後には、運よく出店できることになっていた。
幸い、私たちが出せる本は、3月9日に発売しBASEと5軒の書店様(5月15日現在)で販売中の『私はロボットではありません』の一択で、新たに作る必要はなかったので余裕はあった。
出店料を支払い、出店者情報を登録し、webカタログも早々に登録した。
4月の終わりに、吉祥寺ブックマンションのお店番のお手伝いをしたので、テーブルクロス、衣装(エプロン+缶バッジ)、ブックスタンドなどの備品もだいたい揃っていた。
本の内容と読者の声がわかるものを用意したいね、とチラシだけは先行して準備した。
また、キャッシュレス決済対応をするかも話して、手数料3.45%(税別)がかかるが、PayPayを準備した。2営業日強で審査が下り、審査が下りればwebでQRコードをダウンロードできたので、想像以上のお手軽さに驚いた。
最低限のものは揃ったと油断していたら、気付けば、開催2週間前になっていた。
経緯をまったく覚えていないのだが、イベント限定のフリーペーパーを作ることになった。ふざけ始めたら思いつく限りボケ続けたい面倒な体質で、その日も何らかのスイッチが入った産物だとは思われる。
それが、この『くらしょぼ!』なのだが、表紙に記載のとおり、メンバー全員に担当パートがあり、全体デザイン担当のOshima以外は、ほぼ、一発手書きで5~10分程度しか時間をかけていないというゆるさを心掛けている。ちなみに、Oshima以外は、得意だから担当しているわけではなく、その場でのノリなので、各々、初めての試みである。
Oshimaは、本のブックデザイン・イラストレーション・DTP以外のすべてのクリエイティブを担当しており、ラジオCMまで作ってくれるのだが、ギリギリに頼んでも対応してくれるので、母の日、父の日のように、年に1回は感謝を伝える「Oshimaの日」があってもいいのではないかと思っている。
さすが、そんなOshimaデザインのフリーペーパーは、ご来場者様の目に留まり、手に取っていかれる方も多かった。皆様の反応から、文学フリマに参加された方以外が見られないのはもったいないと感じたので、ニュースレターの登録をしていただいた方には公開しようかと目下検討中だ。
Oshimaには、その後、追加でパネル3種を作ってもらっただけでなく、保有しているプライスカードまで分けてもらって、なんとか開催日を迎えた。
店番は、著者を含め4名+ヘルプ1名の5名体制にした。出版業界に知見のないメンバーで立ち上げた出版社ゆえ、チームに文学フリマの参加経験者がおらず、会場を見て回りたかったからだ。特に私は、行きたいブースリストが2ページにわたる大作になっていたので、店番の時間を融通してもらうようお願いした。
ただ、前回までは入場料は無料だったそうなのだが、今回から入場料が1,000円になっており、出店者の入場票をもらえるのは2名までだったので、3名分をイープラスで購入し分配した。一般入場券だと開場前には入れないので、設営は他の2人にお願いした。
設営といっても時間はかからないので、一般入場券で列に並び、開場時間と同時に入りたい私の方が入り時間は早い。11時過ぎに着けば軽くご飯も食べられるだろうと思っていたのだが甘かった。
当日朝に運営から11時までの到着を推奨するメールが入った。臨機応変にこまめに連絡をくれる運営が手厚いと感じたし、モノレールの対応も臨機応変で素晴らしい。
こんなに大規模のイベントなんだ、とようやく実感した、当日の朝だった。
そして、予定を早めて、11時前に入ることにした私だが、モノレールの乗り換え前から、「出店者だな」というキャリーバッグの人たちでいっぱいだった。羽田空港行きではあるが、旅行の感じはない。
乗り換えがうまくいき早めに着いたので、さくっとそばを食べ、コンビニで飲み物を買い、11:15には第二展示場の列に並んだ。すでに列は2往復目あたりだった。そうこうしていると、設営メンバーから設営完了の連絡が入る。列に並んでいるのは暇だろうと思って持って行ったのは、前日に、江古田の百年の二度寝に出張販売とイベントで来ていらっしゃった本屋lighthouseで買った『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』。面白くて、あっという間に開場時間になった。ふと周りを見ると、同じように本を読んでいた人がおり、開場前にして文学フリマらしさを感じるのであった。
開場して5分で無事入場。
開場してすぐ、お買い上げいただき、30分くらいで3冊売れたのには驚いたし、嬉しかった。「働き方」や「プログラマ」というワードでの知名度は少しあるものの、出版レーベル名の「倉貫書房」にも著者の「長瀬光弘」にも知名度はない。私が仮で公式として運用しているX・instagram・noteのアカウントもフォロワーは50人以下、言うならば、出版業界は完全にアウェーで、ご来場者様の反応は見当も付かなかったのだ。
まず、第一印象で、鈴木成一デザイン室のブックデザイン、大桃洋祐氏のイラストレーションに目を引いていただけたのが嬉しい。
手に取っていただくと、語らずとも、使っている紙、デザインの素晴らしさに、すぐに気付いていただける。
内容については、文学を愛する人たちにビジネス小説は敬遠されるかと思っていたのだが、ビジネス要素の前に小説として面白くあることを重視していると知っていただけたことも嬉しい。
事前に何度か確認したものの、PayPayのみで販売すると言われていたのだが、サービス業界での私の経験上、絶対に無理とわかっていた。結果、現金での購入率は38.9%だったので、多めの小銭と100均のコインケースを用意していったのは正解だった。
参加者として購入する立場からすると、手持ちの現金が足りるか不安になるのと、どれだけお金を使ったかが把握しやすいので、出店者の利益を度外視すると、キャッシュレス対応はありがたい。
というわけで、現時点の倉貫書房では、現金・PayPayの併用が良さそうな気がした。
少しして、著者とヘルプの方が到着した。13時前だったのだが、10分くらい待てば入れたそうで安心した。
私はすでに見て回りたくて、うずうずしていたので、13時頃から見て回らせてもらうことにした。
私たちは第二展示場1階Eホールだったので、まずは第二展示場2階Fホールから。
双子のライオン堂出版部で、『対話1 本屋とことば』『本屋発の文芸誌 しししし 5』『めんどくさい本屋 100年先まで続ける道』『窓/埋葬』の4冊。
「本屋とことば」を目当てに行ったのだが、最近『落としもの』という本を読んで面白かった横田創さんの本を見つけ、もっと買おうとスイッチが入ってしまった。
胎動短歌会(胎動LABEL)で、「チャリティー百人一首」。
話題になっていたから、やっぱり並んでいたのだけど、エプロンを装着していて本屋さんと間違えられたことから少しお話ができて良かった。私自身にバンドの経験はないのだが、昔からバンドマンと波長が合う。
この本は、すぐに読んだけど、短歌を嗜まない私にも面白く、読んだ人とどれが好きだったかを話してみたい。
第一展示場の混み具合がわからなかったので、後ろ髪を引かれながら、第二展示場を後にする。第一展示場に入るには建物の外から並び、第二展示場より、人がいっぱいで驚いた。会場内に入っても、身動きがとりづらい。
いろんなブースに目を引かれつつ、奇妙出版で、『「犬の看板」から学ぶいぬしぐさ25選』。去年、太田靖久さんの『ののの』を読んで面白かったので、見つけられて嬉しい。
百年で、『百年の一日』。
吉祥寺に行く時は必ず寄りたいお店なので、買えて良かった。
いか文庫で、『いか文庫のベトナム社員旅行 2023/10/18-21』。
ここでベトナムについての本を見るとは思わなかった。
すぐに読んでしまったのだけど、コロナ禍の直前までベトナムでも仕事をしていたのだが、最近の事情を知れたのもよかったし、こんなに本屋さんがあったなんて知らなかった。駐在して感じたこととか、歴史の背景とかにも触れられていてとても良かった。
機械書房で、『往復書簡 今夜、緞帳が上がる』と『群像一年分の一年』の2冊。
前から気になっていて、仕事の合間に行けないか、何度もGoogleマップを見ていたお店。
文フリから帰宅してすぐ2冊読んでしまっていたので、翌日以降の楽しみにするつもりで、『往復書簡 今夜、緞帳が上がる』をパラパラ見たらもう止まらなかった。お二人が話題に出している本は全部読みたくなったし、お店には絶対行く。
代わりに読む人で、『先人は遅れてくる~パリのガイドブックで東京の町を闊歩する③』。
いろんな本屋さんで見かけていて気になっていた。
『『百年の孤独』を代わりに読む』という本があるのを知ったきっかけで、『百年の孤独』もいつか読んでみたいと思っていた。気さくに話していただいて、7月にハヤカワ文庫から出ると聞いたので、一気に両方とも読んでみたい。文フリ出店から出版社を立ち上げ、ハヤカワ文庫からも出るなんて、面白過ぎる。
あかしゆかさんの、『THE DAYS OF aru』。
去年の夏、岡山で仕事があったので、足を伸ばしてお店に行ったのだが素敵だった。
いろんな色のスタンプ?をポンポンして、表紙を仕上げるのも楽しかった。
センスが問われると思ったけど、いい感じになって安心。
タイムトラベル専門書店で、『超個人的時間紀行』。
なんか気になって買った。置いてある3冊のどれにするかすごく悩んだ。
読むのが楽しみ。
山本飯で、『山本飯公式ファンブック 山本飯Vol.2』。
書店員さんのユニット。なんか楽しそうだったので買ってみた。
本屋lighthouseで、『Books(tore) witness you. vol.2』。
前日に百年の二度寝の出張販売で見ていて買いたかった本と、パレスチナ支援のグッズを購入。一度見に来た時には、人がいっぱいだったので、閉場30分前くらいに再訪した。お店にも行くつもりだ。
最後は、私たちの出店ブースの近くの鍵のかかった文芸誌で、文芸誌『アパート』。
4名の作家たちによる短編小説を、一冊ずつ中綴じの単行本として製本し、束ねられた素敵な本。今、気付いたのだが、印刷は藤原印刷さんだったのか!
まだまだ買いたい本・物があったのだが、我に返り、なんとか16冊+小物に留めた。
私は見落としてしまったのだが、著者が、サッポロカルトクラシックスというブースで怪文書についての本を買っており、「センスあるなー」と悔しい思いをした。
そういえば、著者は、学生時代、フリーペーパーのサークルにいたらしい。
何を買ったか話すのもめっちゃ面白い、文フリ。
店番に戻ったのは15時頃。2時間くらい回れたのは良かった。
ありがたいことに、列が並ぶほどではなかったが、絶えず、来場者様に足を止めていただき、15時30頃には、持参した分は完売してしまった。
前述したとおり、購入してくださった方は、全体を通しても、私たちのことを知らない方がほとんどだったのだが、見本誌をしっかり読んでくださり、戻ってきて買ってくださったりしたのが、とても嬉しかった。
また、鈴木成一デザイン室・大桃洋祐氏の豪華タッグに気付いてくださることもあるのか、書店や出版社の方など業界の方にも買っていただけたことには驚いたが、業界の仲間入りができたような気もして嬉しかった。
文学フリマに参加してみて、直接、幅広い読者の方と接することの大切さを感じた。
嬉しいという気持ちはもちろんあるが、私自身、好んで読んでいるのは、人文・ノンフィクション・ルボルタージュ・文学が多いということもあり、「文学を愛する人たちにビジネス小説とカテゴライズされたものは敬遠されてしまうのではないか」という不安があったのだが、人を分類してターゲティングしようとする職業病的固定観念に捉われていることに気付き、まず伝えてみようという気持ちになった。
今回の文学フリマ東京38は、1,878出店・2,096ブース、来場者は12,283人(出店者3,314人・一般来場者8,969人)だったそうだ。
これまであまりZINEは読んでこなかったのだけど、プロの作家かどうかに関わらず面白いものは面白くて、流通に出ている書籍より増刷の繰り返しで発行部数が多いものがあったり、つくりもしっかりしていたり、と認識を改めた。既存の出版社から取次を通して流通するものもあれば、本屋さんやECサイトでの直取引という手法を取っているものもあるが、どちらが優れている本かという価値観はどんどんなくなっており、つくり方も売り方も自由度が高く感じられた。自分たちはどうありたいかがより一層問われ、大きな変革期にあたるのだろう、と感じた楽しい一日だった。