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如月と迷ったことは内緒

 はじめまして。二五 恵(にいつか めぐみ)と申します。本名ではありません。私には「ぱちこ」をはじめとする割とキャッチ―でかわいいあだ名もあったので結構迷ったのですが、結果的に誕生日と本名を文字ってこの名前を付けました。

 私は2月5日生まれである。世間では「笑顔の日」「ふたごの日」「プロ野球の日」等として元日やクリスマスには及ばずとも、なかなかの知名度を誇り、ネイマール、カルロス・テベス、クリスティアーノ・ロナウド、長洲小力と言った著名人の誕生日として、やはり一部で圧倒的な支持を集めていると信じている。

 しかし、私の誕生日を間違い続けている人物がかなり近くにいる。私の母である。たいがい1、2日ズレていることが多く、間違えがあるたび訂正をしているのだが、末っ子特有の私悪くないもーん、結局許してもらえるもーん、をかまして一向に覚える気配がない。時々必要書類や申し込み時に子どもの誕生日を聞かれる場面では、メールか電話で確認してくることもあるが、だいたい「2月上旬」でファイナルアンサーを打とうとして各方面から困惑されている。

 この事実が発覚したのは約10年前。旅行先から帰ってきた母が「こういうのつい買っちゃうのよね~」と私に渡してきたのは、某有名キャラクターがご当地の特産品を被ったり観光名所に乗っかったりした絵と誕生日が記載されているハンカチ。修学旅行生が友達とお揃いでつい買っちゃうアレである。私自身、こうした類のグッズは好きだし何よりそのキャラクターが好きだったので「ありがとう」と言って受け取り、すぐさま開封した。しかし喜びもつかの間。そこに刻まれていたのは「2月4日」だった。

 当時反抗期真っただ中だった私は、母に即刻抗議をしたものの「うふふ、そうだったっけ?」の一言でスルーされ、最終的には「気に入らないならアタイが使うつってんだろうが!」と元ヤン仕込みのテンションで逆ギレし始めたところで私が地蔵の如く黙って自室に避難したため試合終了となった。あのハンカチが現在どこにあるかは分からないが、見つけるたびに(2月4日は佐々木蔵之介様の誕生日だからどのみちおめでたいんだよなぁ…)と複雑な心境で眺めていたことを今でも覚えている。

 母はこの件について後に「ちょっとマズかった」とコメントしたものの、その数ヶ月後に電話をよこした際には「これから家族旅行の申し込みをするんだけど、めぐちゃんの誕生日って2月…3日だったけ?」「ちがう」「4日か!」「ちがう」「6日だっ?」と言って絶妙に5日だけをハネてきたし、2月3日に節分の豆を買いに行ったついでに「アンタ明日の誕生日何が食べたい?揚げ出し豆腐でいいなんて言わないでよ。誰かの誕生日にこじつけて美味いものを食べるのが我が家なんだから」と当たり前のように放たれた誤射を聞き逃さずに「明日が私の誕生日?」と返したところ「4日でしょ?明日、アンタ誕生日じゃない。忘れた?」と笑いながら私の嫌いなわさび入りの寿司をかごに詰めるなど、母の中で私の誕生日は2月3~6日の中で変動している。

 私は元来あまり律儀な性格ではなく、むしろだましだましをモットーに、好きなこと以外は省エネ生活を基本としてきたが、誕生日を間違えられることにはなぜか大きな違和感を禁じ得ず、逐一訂正をしてきた。「にがついつか」という読みが覚えづらいのだろうか、ということで「にがつご!だよ!ご!」と言ったり「不愛想だけど誕生日はニコニコなんだよねぇ」と語呂合わせを試みたり、「25」とプリントされたTシャツを部屋着として購入し、母親と団らんする際にはそれを着るなど、様々な試行錯誤を繰り返してきた。しかし、ふとした時に「アンタ2月4日だっけ?7日だっけ?」と問われ、落胆していた。

 ちなみに、離婚した父の誕生日(12月18日)も、単身赴任中の弟の誕生日(10月7日)も間違えたり忘れたことはない。最近の母の推しである某アイドルの誕生日もすぐに答える。50を超え、脳機能などの病気が気になる年頃だが、普段の暮らしぶりや健康診断の結果などを聞いていると心配することはないようだ。しかし、私の誕生日は間違える。

 そんな母親に対しかつては「母親だから娘の誕生日を覚えておいて当然!」と思っていた。母が「娘なら母親の言うことを聞いて当然!」と私に言い続けていたように。しかし、そんな生活に嫌気がさして家を飛び出し、私の誕生日はおろか名前も知らない街に暮らすようになって、人には当然がなくて当然なんだとひしひしと感じている。

 誰だって間違えることも、忘れることもある。むしろ、それくらいの方が人間らしくていいかも。

 母親の中で私の誕生日が2月5日だろうが、3日だろうが、4日だろうがいいじゃないか。3日なら土屋太鳳、4日なら佐々木蔵之介様に加えて中条あやみとも同じじゃないか。サッカーやらせりゃボールに乗っかってすっ転ぶ運動音痴にサッカー選手に多い2月5日生まれをえらそうに語るのはおこがましいぞ、と思っている。時々だけど。それに先日送られてきたLINEで「今年はカレンダーの2月5日のところに『恵、誕生日』って書いたわよ」と言っていた。かつては裸の王様に見えていた母も、最近は股引くらいは履いてるんだなと思う。個人的には冷えるのでババシャツも着てほしいが、本人が寒いと思わなければ意味がないので口出しするのはよそう。

 誕生日なんて偶然だろうけど、何故か執着してしまう。それは自分が生まれた日だからというだけではないことをふと思い出したので、ペンネームにしました。

 

#名前の由来

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