週刊レキデンス ~第10回~ 糖尿病の初期の RCT は一体いつ?
糖尿病の治療に対して、インスリンが使われるようになりました。
ただこの時点では、「糖尿病の犬」に対して「膵臓抽出物≒インスリン」を投与したことで、血糖値が下がった。 というだけです。果たして、これがヒトに投与した場合、同様の結果を得られるのでしょうか?
DCCT試験が初期の大規模臨床試験?(糖尿病の場合)
インスリンを人に投与して問題ないのか?同様の結果が得られるのか?という疑問について、現在であれば、臨床試験が行われているのか?また、その試験はしっかりとランダム比較試験(RCT)が組まれているのかどうか等を確認する必要があります。調べてみますと、糖尿病の大規模臨床試験で古いもので検索に引っかかるのは、1993 年に発表された、DCCT 試験(1)でした。 これより前の試験は本当にないのだろうか。
文献が何か残っていないのだろうかと検索をしてみました。PubMed で「insulin」と検索し、一番古い年代を確認してみると「1945 年」が一番古く、「RCT」を追加すると「1965 年」が一番古いことが分かります。
また私が、日本語で文献を調べるときに利用している、糖尿病トライアルデータベースにおいても、一番古く出るのは 1980 年の文献でした。(2) インスリンが使われ始めた 1920 年代には大分遠いです。これは一体なぜなのでしょうか? 恐らく臨床試験の確立が原因かもしれません。
初めての RCT(ランダム化比較試験)?
RCT が初めて実施されたのは、1948 年のイギリスにおける肺結核に対するストレプトマイシンの臨床試験(3)が最初とされています。 ただこの時点では、ランダム比較試験が定着していません。
日本では、1885年辺りに高木兼寛(1849年10月30日~1920年4月13日)が脚気の原因を調査する目的で比較試験が行われています。(4)
この時期に臨床試験に対して統計学的手法を導入するようになりました。
統計学的手法を導入した理由として、介入者による割付がバレている。つまり割付が盲検化されていない=バイアスが生じているのです。また介入自体も操作ができる状態だったからです。
そのために、 1931年に ジェームズ・バーンズ・アンバーソン(James Burns Amberson 1890年6月8日-1979年12月3日)は、コイントスによる割付を用いて、介入試験を行いましたが(5)、ここではまだランダム化が主流になっていませんでした。ようやく 1940 年から 1950 年にかけて、オースティン・ブラッドフォールド・ヒル(Austin bradford Hill 1897年7月8日– 1991年4月18日)らが、ランダム化比較試験を発表した(6)以降に RCT が主流になっていきます。(7)
このことからインスリンを使い始めた 1920 年代前半では RCT を実施して、有効性や妥当性を吟味するという作業は出来ていなかった為、インスリンを用いた初期の大規模な臨床試験は、1993 年に発表された DCCT 試験(PMID:8366922)が当てはまるのではないかと考えられます。
参考:
(1)N Engl J Med. 1993 Sep 30;329(14):977-86. PMID:8366922
(2)JAMA 1980; 243: 450-457. PMID:6985989
(3) Br Med J. 1948 Oct 30;2(4582):769-82. PMID:18890300
(4)Takaki K. On the cause and prevention of Kak'ke. 1885. Nutrition. 1992 Sep-Oct;8(5):376-81; discussion 382-4. Takaki K.PubMed PMID: 1421790
(5)A clinical trial of sanocrysin in pulmonary tuberculosis. American Review of Tuberculosis 24:401-435.
(6)Yoshioka A. BMJ. 1998 Oct 31;317(7167):1220-3.PMID: 9794865
(7)N Engl J Med. 2016 Aug 11;375(6):501-4. PMID:27509097