「MANgaDARA(少年ジャンプ仏)」についての細かすぎる解説
お陰様で、これまで書いたnoteにスキやRT、感想など頂けていて、とても有難いです。
少年ジャンプ仏を作るに至った経緯を5回にわたり書ききったので、今回は最後に、完成したジャンプ仏たちの細かい解説をします。
岡本太郎現代芸術賞展に来ていただいた方に説明をする時にすぐ答えられるように、noteにまとめておこうという算段です。
いつも対面で質問されると、緊張しちゃってうまく話せなくなるので・・・・
作品名「MANgaDARA」について
これまで何回か中央の仏像のみを展示する機会があり、その度にタイトルを付け直していたのですがどれもしっくりきませんでした。
今回5メートル四方の空間を使わせて貰えるということで、今までとは格段にスケールの大きい作品世界を作れることになったので、ならばジャンプ仏で曼荼羅の世界を構築したいと思いました。
京都の東寺というお寺に、空海が考案した「立体曼荼羅」という仏像群があります。これは通常タペストリーなどで描かれる曼荼羅(万華鏡のように沢山の仏の絵が細かく描かれているもの)が立体で表現されたもので、碁盤の目状に仏像が配置されています。
2019年に東京国立博物館で東寺展が開催された時、VRで立体曼荼羅を間近で鑑賞する企画があり、サンバ仲間の友人が関わっていたプロジェクトだったこともあり観てみたんですが、これがとても良かった。まるで立体曼荼羅の世界に足を踏み入れたような臨場感があって、自分でもあのように身にひしと迫ってくるような曼荼羅世界を作りたいと思いました。
そんなわけで、マンガのマンダラで「MANgaDARA」です。
今の所マンガを用いた仏像はこれ以上作る気がなく、今作が集大成だと思っているので、難しくこねくり回さずストレートな名前にしました。
来て見てさわって ジャンプの仏像
(パソコンは富士通が好きです。)
MANgaDARAは中に入れます。仏に触っても構いません。
仏は接着を一切しておらず、雑誌を積み上げているだけです。なので、強く押したりすると崩れます。
崩れたらそれはその時です。私が東京の自宅からバイクで駆けつけて、積み直します。
基本的に心許ない作りなので指でつんつんするだけでもぐらぐら揺れますが、案外倒れなかったりもします。し、普通に倒れることもあります。
マンガ図書館では常にマンガの束に囲まれていたので、どれくらいの加減で接すると崩れるのか感覚で分かっているのですが、ジャンプ仏に触る人は大体皆さんおっかなびっくりで接するので、それがまるで生まれたての赤ん坊のようだといつも思います。
不確かで不安定で、でも意外としぶとい。そんな人間の生命力と通じるものがあるかもしれません。
変幻自在に形を変える仏
雑誌を接着していないので、形が変わります。
会期中、何度か会場にお邪魔して、仏のポーズを変えようかと思っています。
5体の仏の位置関係と方角
仏は全部で5体あり、中央には本尊と位置づけた原型の仏を配しています。
本尊を中心に東西南北に4体を配置。
会場の方位を調べた所、ちょうど入口から入って見える正面奥の壁が真北に当たったので、上から見下ろすとちょうど方位記号のように東西南北が分かるようになっています。
東西南北の4体は今回の展示に向けて新たに彫った仏です。背を削らないことで前面から見ると光背(仏さんが背中にしょっている後光のような模様)が見え、背面から見るとただ雑誌が積まれているだけのように見えます。
4体の仏はそれぞれ異なる年代の週刊少年ジャンプで作られています。
東の仏:【過去】
曼荼羅で東の如来にあたる阿閦如来にならい、地面に指先を向けたポーズ。
週刊少年ジャンプが創刊して10周年が経った1979年前後のジャンプで作られています。この頃はちょうど「こち亀」や「キン肉マン」が連載を開始して(まだ顔が青い)、サンデーマガジンから遅れて創刊した後発の週刊少年漫画誌という立ち位置から正に飛び出さんとしている頃です。南の仏:【飛躍】
曼荼羅で南の如来にあたる宝生如来にならい、与願印(下げた手のひらを見せる)のポーズをしています。
1980.90年代のジャンプで作られています。俗に「ジャンプ黄金期」と言われる時代で、ここには挙げきれない程沢山の有名作品が生まれています。発行部数653万部というギネス記録を打ち立てたのもこの時代です。西の仏︰【成熟】
曼荼羅で西の如来にあたる阿弥陀如来にならい、両手の指で輪を作るポーズをしています。
2000・2010年代のジャンプで作られています。出版不況の時代に入り部数が落ちるものの、「ONE PIECE」や「NARUTO」をはじめとした人気作品が軒を連ね、黄金期とはまた違った新しい風が生まれ、現在まで続く潮流となっています。北の仏【現在・そして未来へ】
曼荼羅で北の如来にあたる不空成就如来にならい、施無畏印(上げた手のひらを見せる)のポーズをしています。
この仏の制作時点で最も最新号であった2022.2023年のジャンプを用いて作りました。
MANgaDARAは東から中に入れるようになっています。
東から右回りに南→西→北と巡ると、週刊少年ジャンプの約40年間を歩む(床に散らばっているジャンプも東を起点にして少しずつ新しくなっていきます)ことになります。
時代ごとに紙質や一冊あたりの厚みが変わっていくので、仏のプロポーションや顔の造作もそれに合わせて変化しています。
余談ですが、この記事の7割はこのことを説明したいが為に書いたようなものです。本来はあまり自作の説明をこんなに細かくせずに鑑賞者の感じたままを大切にして頂いた方が潔いのですが、仏教様式を下敷きにしていて一見しただけでは意味が分かりづらいので、ここだけは字数を割いて書きたかったのでした。
お付き合いいただきすいません。
もうちっとだけ続くんじゃ
BGMについて
曼荼羅配置説明と並んで、これだけは書いておきたかったこと。
それは、作品内を回遊する際に聴こえるBGMのことです。
耳をすますと、お経を唱える低い声が聴こえてくると思います。
この音源は、私の20年来のサンバ仲間である渡邊英心くんに依頼して作成してもらいました。
英心は秋田県三種町の松庵寺で住職をしており、僧侶の傍らミュージシャンをしています。
ブラジル・レゲエ・仏教・秋田など多彩な文化を下敷きにした懐の深い音楽性を持つ英心に、ぜひ捨てられたジャンプを供養する経を唱えてもらいたいと思い、お願いしました。
下記リンクは、英心がボブ・マーリーを仏具で演奏した動画がバズった時の記事です。
MANgaDARAに流れている音は、普通の読経のように聴こえますが、耳を凝らして聴くと、週刊少年ジャンプの歴史的代表作とも言えるある作品の、アニメ主題歌のワンフレーズをモチーフにしたマントラとなっています。
英心は仕事が早く、依頼して一週間もしない内に音源が送られてきて、その奥行きの深い音作りに感動しました。この時点で肝心の仏が全く仕上がっていなかったのでいい意味で私の中に焦りが芽生え、それからは英心のマンgaトラを流しながら夜な夜な彫る日々となりました。
これは是非実際に会場で聴いて頂きたいです。
曼荼羅と踏み絵(のようなもの)
最後に、MANgaDARAの内側に入る時の話をもってこの細かすぎる作品説明を終わりたいと思います。
円形空間のMANgaDARAは東側に凹みがあり、そこから靴を脱いで足を踏み入れていい作りになっています。
しかし、まず大体の人は積極的に中に入りたがらないのではないかと思います。
(これは個人の感性によるところなので、蓋を開けてみたら進んで入りたがる人ばかり、という可能性も有り得ますが)
中に入りづらい理由はひとえに、MANgaDARA内に敷き詰められているジャンプたちを踏む形になるからなのですが、
前回の記事に書いた通り、この「踏む」という行為が今回の作品の本質となっております。
MANgaDARA内が凸凹して歩きづらいこともあり、本を踏むことに多少なりの抵抗感が生まれるかと思いますが、元々は読み捨てられたジャンプで出来ているものです。
あえて踏み歩くことでいろんなことを感じてみて下さい。(無理に入らなくても、外から眺めるだけでももちろん大丈夫です)
と同時に、作った私自身も、自分でそういう作りにしておきながら、踏まれてどんどん傷んでいくジャンプを見て複雑な感情を抱くことで、次へと進む為の儀礼とさせて頂きます。
わたしが捨てたもの、あなたが捨てたもの。
生きるために必要だったこと。
過去と現在を往き来することで聴こえてくるひずんだ響きに耳をすませて、
一緒に未来へ進みましょう。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
これで私の書きたかったことは一旦ひと区切りとなります。
とても堅い内容が続いたので、次回以降はゆるゆるなよもやま話を書こうと思います。
2/18〜4/16まで、川崎市岡本太郎美術館で展示します。
岡本太郎の名の下に、23点の非常に個性的な作品が一堂に会す展示です。
お時間ありましたら是非観にいらして下さい。
それでは!