【基礎教養部】異世界はスマートフォンとともに。【書評】
今回の書評は異世界転生ものの小説である。読もうとした動機は、異世界転生関連の小説を今まで一冊も読んでいないからである。ゼロの使い魔は読んだが、あれが昨今の異世界転生ものと同じくくりなのか微妙である。ゼロの使い魔は異世界召喚ものか。なので異世界転生は一冊も読んでいないことにして書評を始めたい。
⚫︎プロローグ
異世界転生ものは死んだところから始まるということくらいは知っているが、この作品も例に漏れず死んだところから始まる。
はじまりの文である。名作は一行目から名作の香りを漂わせているというのが定説である。涼宮ハルヒの憂鬱の冒頭にあるサンタクロースをいつまで信じていたか〜という文章は一発で頭に残る名文と言えるが、異世界スマフォは特徴のない一文である。どちらが良いと言っているわけではない。これはTPOの問題である。異世界スマフォの最初の文章に句読点のないヘビーな名文を持ってきても意味はない。異世界転生は極限までライトに読めるのがいいところである、と理解している。ヘビーな文章など望まれてはいない。名文もいらない。いや、このフィールドではサクッと読んで三秒後に忘れる文章が名文に違いない。つまり、異世界スマフォの書き出しはこれが最適解である。
残りの部分は神(爺さん)が出てきて強化されてスマフォを持って中世世界に転生するだけである。語ることはない。文章の特徴だけ語ると、体言止めの多い文章である。小説の作法として体言止めはやめろという話を見た記憶はあるが、そんな狭い世界の作法はどうでもいい。この手のジャンルは読まれるのが正義である。読まれている以上、全てが肯定される。
⚫︎第一章
異世界に降り立ち、スマホで神様と連絡し、コンパスアプリで歩き出すという世界観である。異世界でコンパスアプリが作動するのか、という疑問は湧くが、細かいツッコミをしてはならない。この手の世界観の物理法則はこちらの世界の物理法則と一致しているのだろうか。いや、やはり細かいツッコミは不要である。あとは言葉はわかるが読み書きはできない設定になっている。この手の設定がスタンダードなのか、異世界スマフォが特殊なのか、それはわからない。
着ている服が珍しいということで、通りがかりの行商に声をかけられる展開になる。最初は金策から始まるらしい。服は金貨10枚で売れたわけだが、金貨10枚は宿に500泊できる価値と出てくる。つまり、なんの苦労もなく、いきなり数百万円(※後の方で金貨1枚10万に相当するという記述がある)に相当する大金を手に入れている。とにかく苦労をしないという異世界転生のお約束らしい展開である。
通りがかりの二人の少女(格闘家と魔法使い)を助けて一緒に冒険者ギルドに登録する流れになる。転生→金策→ヒロインと出会う→ギルドに登録する、という流れは、どこかデジャヴ感があり、完全にテンプレ化されている雰囲気がある。
あとは依頼を受けてモンスターを倒して魔法を覚えてスマフォで調べてアイスクリーム作って1章は終わる。とにかく何も苦労せず、魔法適性が高くて全属性適性があってコピー忍者もできてすげー、誰も知らないおいしい料理作ってすげー、という俺すげー繰り返されているので、何も考えることはない。とにかく俺すげー、だけである。
⚫︎第二章
ギルドの依頼を受け移動している最中にござる侍女を助け、格闘女と魔法女の4人パーティで進む。さらに道中で国王の姪を助けて、姪の母親の目を治して、4000万円をゲットする。全てがトントン拍子、予定調和。王都で買い物をして帰宅。俺すげー。
⚫︎第三章
色々な依頼を受ける一行。旧王都の謎の地下で謎のモンスターと遭遇。これを撃退。公爵に報告。終わり。
⚫︎第四章
国王が毒を盛られたので主人公が回復して犯人探しの探偵編へ。急にバトルものから展開が変わるが、この節操の無さが魅力なのかもしれない。探偵編と言っても大したトリックはなく、あっさり伯爵が捕まって終わる。俺すげーをずっとやっていたおかげか、王女に求婚されて一緒に暮らすことに。もう俺すげーどころか俺は神と言っても過言ではない。なんかすげー獣を召喚して使い魔に。全てが主人公に都合がいい世界。光の世界。ストレスも不快なこともない。全てが快の世界。
⚫︎まとめ
何も考えることなく気分良くなれる、読者の求めるものを100%提供する、という点で最高の一冊である。TPOを非常にわきまえた作品と言ってもいい。プロの業である。自分は独りよがりの文章を書いた上に、人に読んでもらいたいなどと思ってはいないか。そういう謎の自省を迫られているような気すらした。私は独りよがりの文章を書いてはいるが、人に読んでもらおうとは思っていないのでセーフと考えたい。あとはスマートフォン要素があまりなかったが、後書によると2巻以降から出てくるらしい。2巻以降を書評にするかどうかは、人生が何年続くかによる。
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