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【表現評論】涼宮ハルヒの憂鬱(原作) コアレビュー その7 第6章【再読】
●涼宮ハルヒ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。
●前回の記事
⚫︎みくる(大)
みくるの呼び出しで部室に向かうと、もっと未来からきたみくる(大)と遭遇します。みくる(大)にとってはキョン君と会うのは久しぶりだったようです。みくる(大)の年齢もみくる(小)の年齢も分からないから、何年会ってなかったかはわかりませんが、そんなに短くない期間であることは間違いなさそう。みくる(小)の実年齢は17歳より下である気がするので、みくる(大)が仮に22歳だとしたら、7〜8年は経過してる可能性がある。みくる(大)は本人アピールで胸のほくろを強調して来ますが、キョン君はみくるの胸にほくろがあることなど知らないので、何のこっちゃという感じになっています。
「あれ? でもここにホクロがあるって言ってたのキョン君だったじゃない
わたし、自分でも気づいてなかったのに」
不思議そうに首を傾げ、次に彼女は驚きに目を見開き、それから急激に赤くなった。
「あ……やだ、今……あっ、そうか。この時はまだ……うわ、どうしよう」
これどう解釈するのが正しいんですかね。可能性としては二つあります。
①胸にホクロがあることをキョン君はここで初めて知る。そしてこの後みくる(小)に教える。みくる(小)は将来またここにやってきて同じことを繰り返す。
②みくる(大)はどこかでキョン君と胸にホクロがあることを知りうる関係になっている。
この時はまだ、のこの時がいつを指すのか分からないので、どっちにも確定はしない気がします。こういう時間移動が絡むと話がよく分からなくなりますね。個人的には①じゃないかと思いますが、みくるはパラパラ漫画に現れた絵のようなものと言っていたので、②の方が正しいのか。でも未来に影響は与えないと解釈しても①はありうるのか。いやぁ。並行世界とか時間移動は禁止にしよう。絶対にどこかで訳がわからなくなる。あまり深く考えないようにしたい。時間平面とかいう概念がまずよくわからないし。
みくる(大)はこれから困ったことが起きた時、白雪姫の物語を思い出してほしいと告げます。その時はハルヒも一緒にいるはずだと。なんで白雪姫とかいう回りくどい比喩で教えるのか。キスして解決! と教えるわけにはいかなかったのか。長門もSleeping Beautyと言ってましたが、なぜ長門がその話を知っていたのか。割と謎。長門がみくる(大)とキョンの二人の会話を把握していたと考えると辻褄は合うのか。
しかし未来人が緊急事態の解決法を知っているということは、未来人はハルヒにまつわる事象を詳細に分析できているってことなんですかね。憂鬱内ではやはり未来人が一番謎の存在です。どこまで事態を把握しているかもわからないし、目的も謎。宇宙人と超能力者は目的がはっきりしてるし、どのくらい事態を把握しているかも、ある程度推測はできる。
「最後にもうひとつだけ。わたしとはあまり仲良くしないで」
みくる(大)の最後(じゃないけど)のセリフ。なんかミスリードを誘うようなセリフが多いですね。単に友人として言ってるのか、より深い関係になったが故の言葉なのか。結局本当の年齢はわからずじまいのまま未来に帰りました。あまり長く留まれないという話でしたが、なぜ長く留まれないのかもわかりませんでした。時空警察から逃亡して来たのか。
●ハルヒの過去
朝倉が急にいなくなった事件を調べている帰りに、ハルヒがいきなり昔のことを語り始めます。
「あんたさ、自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことある?」
このセリフを起点に長尺セリフが展開される。内容はこうです。
・小6の頃家族で野球を見に行った。
・満員の球場には5万人くらいの人がいた。
・5万人の中にいると自分が世界のほんの一部でしかないように思えた
・5万人ということは、日本の人口の2千分の1程度。
・5万人ですら日本のほんの一部でしかない。
・それまで自分が特別な人間だと思っていた
・自分が通う学校は世界のどこよりも面白い人間がいると思っていた
・でもそうではなかった。
・世界で一番楽しいはずのクラスも、普通でしかなかった。
・そう気づいたとい、世界が色褪せて見えた。
・全てがつまらなくなった。
・でもこれだけ人がいたら、普通ではない人もいるかもしれない。
・面白いことは待っていても来ない。
・中学に入ったら自分を変えてやろうと思った。
・結局は何も起こらず高校生になっていた。
ハルヒに悲しき過去。悲しきか? 阪神戦を見に行ったせいでこんなことに。いや、憂鬱内では何県か明言されてないから、甲子園とは限らないんだけど。ハルヒの語りを見る限りでは、世界が3年前に始まった仮説は怪しい気がしますね。ハルヒは昔からいるけど、3年前に世界が新しく作り替えられたという説ならありうるかもしれない。
内容自体は小中学生なら一度は考えそうな内容でもあります。自分が特別な存在ではないと妥協したのがキョン君(というか我々)で、妥協しなかったのがハルヒとも言える。これ見ると、おそらくハルヒも小学生の頃は普通の人間だったんですね。古泉がハルヒのことをまともな思考を持った一般的な人間だと言ってるだけはある。面白いことのために、変わり者を無理やり演じていると言えなくもない。無理やり演じてるからストレスが溜まっているのではないの。ナチュラル変わり者だったらストレス溜まるもなにも、それがナチュラルなわけですからね。しかし面白いとはそれほど重要なのか。ハルヒの中では自分が特別な存在ではなかったという事実が、存在を根底から揺るがすほどの出来事だったようです。普通の人間はそこまでショックを受けない。
●古泉の思惑
自宅の前で待っていた古泉に、超能力をお見せしますと言われ、タクシーに乗せられてついていくキョン君。タクシーの運転手は機関の人間っぽい。小泉の語りの内容はこうです。
・人間原理の話
・ハルヒには願望を実現する能力がある
・おそらく世界を自由に作り替えることすらできる
・この世界もすでに作り替えられた世界なのかもしれない
・ハルヒは常識的な人間なので矛盾した願望がある
・非日常への願望と、非日常が存在しない常識がせめぎ合っている
・ゆえに世界の平穏が保たれている
・このまま常識的な人間に落ち着くかと思われていた
・キョンがハルヒを唆したおかげでハルヒの状態が悪化した
・最も、理由はそれだけではない
ハルヒは願望を実現する能力があるため、ハルヒがナチュラル非常識人間だったら、世界はメチャクチャになっていると古泉は言っています。そんなもの存在するはずがないという常識に囚われているからこそ、この世界が今のようにぎりぎりのラインで保たれていると。古泉はこの世界に超能力者のような人間がいると思われては困ると言っています。思われたら最後ですからね。明日から剣と魔法の世界になるかもしれない。ハルヒの常識の枷が外れたら世界の終わり。
落ち着いていたハルヒが再び荒ぶり始めたのは、キョンのせいだと古泉はいいます。お前が変な部活を作るように勧めたからだと。しかし、理由はそれだけでもないと言っています。これどういうことなんですかね。他に関与できる存在は未来人か情報統合思念体しかいなさそうですが。「機関」の人間の可能性もあるか。朝倉みたいな存在もいるので、キョン以外にもハルヒを荒ぶらせようとする勢力は少なくないのかもしれない。キョンが望んでハルヒを焚きつけたわけじゃないけど。
この未来人宇宙人超能力者の中で、明らかにハルヒが作り出したと思われるのは、超能力者だけです。情報統合思念体は一応ハルヒが存在する前から存在すると自称しているし、未来人もハルヒが作ったわけではなさそう。超能力者だけは3年前に突然現れたので、こいつらが世界は3年前にハルヒによって作られたと信奉していてもおかしくはない。
この後、古泉は超能力を発揮して、ハルヒのストレスの元である「神人」なる謎の巨人を倒します。謎の巨人が暴れ回っている空間を閉鎖空間と呼んでいます。神人が世界を破壊していくと閉鎖空間が広がり、やがて閉鎖空間の方が世界に置き換わると。なぜそんなことがわかるのか。古泉はわかるからわかるとしか言っていません。
「涼宮さんの動向には注意しておいてください。ここしばらく安定していた彼女の精神が、活性化の兆しを見せています。今日のあれも、久しぶりのことなんですよ」
俺が注意してもどうこうなるもんじゃないんじゃないの?
「さあ、それはどうでしょうか。僕としてはあなたにすべてのゲタを預けてしまってもいいと思っているんですがね。我々の中でも色々と思惑が錯綜しておりまして」
古泉の去り際のセリフ。気になるのは、なぜ古泉があなたにすべてのゲタを預けてしまってもいいと思っているのかです。そう思っているということは、古泉はキョンに任せておけばハルヒにまつわる危険な事態は解決できると考えていることになります。なぜこれほど短期間の付き合いでそういう発想になったのか。ハルヒとキョンの様子を観察した結果なのか。未来人がキョン君に何か吹き込んでいることに気づいているのか。
古泉はキョンの事を調べて、普通の人間であると断言しています。そうなるとなぜこの局面で普通の人間が望まれたのかを考え尽くしているはずです。極めて一般的な思考の持ち主であるハルヒがなぜ願望とは裏腹に普通の人間を望んだのか。僕は以前、キョン君がハルヒを日常に繋ぎ止める楔の役割として望まれ、存在していると言いました。ようはハルヒに対するアンチの役割ですね。多分古泉も同じ結論に至ったんじゃないの。キョンはハルヒに対するアンチの存在だと。
非日常へと飛び出そうとするハルヒを繋ぎ止めるのは、日常の象徴として望まれて存在するキョン君しかいない。そういう発想だと古泉が全てのゲタを預けると言ってることも理解できます。神であるハルヒを止めることができるのは、神自身に望まれた神に対するアンチのキョン君以外にいないので。