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【表現評論】涼宮ハルヒの憂鬱(原作) コアレビュー その8 第7章【再読】

●涼宮ハルヒ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

●前回の記事

●なんで俺?

宇宙人はわかったと。未来人もわかったと。超能力者もわかったと。で、なんで俺? とキョン君は疑問に思います。不思議ヘンテコ存在達がハルヒに望まれていることはわかったと。なんで一般人の俺が巻き込まれているのかと。当然の疑問だけど、前回も言った通りキョン君はハルヒが望んだ楔だからね。長門は必ずあなたが選ばれたことには理由があると言ってましたが、理由はそれよ。ハルヒ自身が非日常へ乖離しすぎないようにハルヒによって選ばれた楔。なぜそんなものが必要なのか。ハルヒが非日常を望む&望まない(あり得ない、あってはならない)という矛盾した願望を抱えてるから。そして日常の象徴たる役割は普通の人間にしか務まらない。とはいえ、普通の人間というだけではダメです。思考の根本がハルヒに近い人間でなければハルヒが一緒にいたいと思える人間にはならないし、日常への楔であるためには日常へ重きを置いた普通の人間であらねばならない。楔にはハルヒに近しい思考の持ち主かつハルヒのアンチであるという二重の条件が課されています。この要求に応えられる人間はキョン君しかいない。なぜキョン君が選ばれたのかという、作中最大の謎については、これがファイナルアンサーです。この謎が解けたことでほとんど憂鬱は終わったと言ってもいいかもしれない。

●閉鎖空間に移動する前の出来事

みくるとイチャついてるところに不機嫌なハルヒがやってくる一幕があります。このシーンめちゃくちゃ違和感ないですか。事の発端はキョン君がPCに隠していたみくるの写真フォルダをみくるが発見して、割と強引に見せて見せてと言ってきたことにあるんですが、こんなに強引なキャラだっけ。今までの様子を見てると、こんなことやらなそうじゃない? 虫も殺せないような、おどおどビクビクしてるキャラが、急に強引な行動に出てくるという。

みくるとキョンの関係は大体ハルヒを不機嫌にしているわけですが、ここまで不自然な行動が発生すると、みくるはハルヒを不機嫌にさせて閉鎖空間イベントを発生させるために未来から送られてきたんじゃないかという気すらしてくる。みくるが意図してやっているかどうかは別としても。やっぱり未来人の目的は謎ですわ。

●ハルヒの心境の変化

ここでは人前でも平然と着替えていたハルヒが、着替える時にキョンを追い出すというイベントもあります。これなんでしょうね。普通に考えると恋愛的な何かに結びつけるのが自然なんでしょうが、キョンにせよ、ハルヒにせよ、二人の感情が最後まで具体的な形になるレベル(お互い好きだと自覚するようなレベル)まで高まっているとは考えていないので、他の理由を考えます。別にいいんだけどさ。恋愛感情が高まっているから恥ずかしくなったという理由でも。でもさ〜。そんなのつまんないじゃない(ハルヒ風)。キョン→ハルヒはまだしも、ハルヒ→キョンにそこまでの感情が芽生えているとも考えづらいし。

前回ハルヒは意図して変人を演じているという話をしました。なぜか。小学生の時のハルヒは普通の人間だったと推測されるからです。つまりハルヒはナチュラルボーンにおかしいわけではない。ナチュラルボーンにおかしい人間ではないがゆえに、奇矯な言動も、奇矯な振る舞いも、人前でいきなり着替え出すのも、自分に対して負荷がかかっていると考えます。長年演じすぎて、演じている自覚すら無くなっていると思いますが、それでも負荷はかかっていると。ここでのハルヒは、これまでのストレスがマックスになっていて、人前で平然と着替えるレベルの演技は無理になってたんじゃないですかね。だから着替える時も出ていけと言ってしまったと。じゃあその後バニーガールの衣装着てるのおかしくね? 相変わらず演じてるんじゃないの? とも思いますが、流石に人前で着替えることとバニーガールの衣装でいることにかなり負荷の違いはありそう。そもそもバニーガールに着替えたのは暑いからだろうし。

●閉鎖空間の中で

なんだかんだ今の日常に満足していたキョン君とは裏腹に、ハルヒはついに新世界の創造に踏み出します。キョン君が目を覚ますとそこは新世界。というか閉鎖空間の学校の中。学校をうろついていると古泉(と称する光の塊)が現れます。これは異常事態だと。普通の閉鎖空間と違って簡単に侵入できない上に、能力も消えかけてると。いよいよハルヒは現世に愛想を尽かして新しい世界を創造することにしたのだと。古泉はそう言っています。

「それはいいとして、俺がここにいるのはどういうわけだ?」
「本当にお解りでないんですか? あなたは涼宮さんに選ばれたんですよ。こちらの世界から唯一、涼宮さんが共にいたいと思ったのがあなたです。とっくに気づいていたと思いましたが」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.275

何の能力もないのにSOS団にいるということは、そういうことですよね。他のメンバーは能力や属性で選ばれているけど、キョン君は普通の人間で普通の属性です。日常への楔という役割はかなり無意識の願望なので一旦置いておくとしても、ハルヒにとってはキョンは自分に近しい、一緒にいたい人間であることは間違いない。何かしら能力があればハルヒが一緒にいたいと思わなくても団員として存在する理由になるわけですが、能力もないのに一緒にいたくない人間を団員として存在させる理由がないわけですからね。これは古泉でなくとも推論はできる。だから古泉もとっくに気づいていたと思いましたが、と発言したんじゃないでしょうか。

「俺たちはもうそっちに戻れないのか?」
「涼宮さんが望めば、あるいは。望み薄ですがね。僕としましては、あなたや涼宮さんともう少し付き合ってみたいかったので惜しむ気分でもあります。SOS団での活動は楽しかったですよ。……ああ、そうそう、朝比奈みくると長門有希からの伝言を言付かっていたのを忘れてました」
 完全にに消え失せる前に、古泉はこう言い残した。
「朝比奈みくるからは謝っておいて欲しいと言われました。『ごめんなさい、わたしのせいです』と。長門有希は、『パソコンの電源を入れるように』。では」
 最後はあっさりしたものだった。蝋燭の火を吹き消したような。

涼宮ハルヒの憂鬱 P.276

やっぱり古泉はキョンに任せとけばなんとかなると確信してる気がしますね。キョンがハルヒ特効の持ち主だと考えているなら、これだけ落ち着き払っているのも納得できる。元々そういう気質もあるんだろうけど。超能力が発現したせいでそうなってしまった説もある。頭がおかしくなりそうだったし怖い思いもしたと言ってたはずだし。あと他の二人を呼び捨てにしてるのが若干気になりますね。やっぱりこの3人(というか情報統合思念体と未来人と機関)は敵対関係にあるのかもしれない。少なくとも友好的な関係ではなさそう。

みくるからは謎の謝罪の言葉が来ています。わたしのせいですと。要はキョン君とみくるが仲良くしてるのを見て、ハルヒが最終的にブチ切れたという話なんでしょうが、これ見るとやっぱり未来から派遣されたイベント要員説が濃厚な気がしてきた。ただみくる自身はそれを知らないという。

パソコンの電源を入れるとパソコン越しに長門との会話が始まります。とにかくもうキョンに賭けるしかないと。なんとかせえと。そして最後にsleepping beautyと残して消えました。それだけかい。ここでこの話が出てくるということは、長門はみくる(大)とキョンの会話を把握していたんでしょう。未来人が言ってるんだから、これが鍵なんだろうな、という発想なんですかね。

で、私ここまで白雪姫と眠れる森の美女が同じ話だと勘違いしてました。ということは未来人と情報統合思念体は別枠で同じような話をしているのか。そうなるとますます疑問が深まる。未来人は何が起こるか把握している可能性があるけど、情報統合思念体は未来のことを知ってるんですかね。知らなかったらどこからsleepeing beautyのワードが出てくるのか。いや、同じワードで攻めても何をすればいいのかわからない可能性があるな。別の話を挙げて共通点を探らせないとダメなのか。そう考えると同じ白雪姫を出さなかった理由がわかります。いやいや、どの道、情報統合思念体がこれから何が起きるか把握してないと無理じゃん。この眠り姫のアドバイス。なんかよくわからなくなってきました。おそらく、情報統合思念体も未来人と同じようにこれからのことを把握している可能性が高そうです。まあ直でキスしろよと伝えればいいんだけど。なぜそれが出来なかったのか。謎が残る。

あーだこーだやった挙句、元の世界に戻りたいキョンとそうではないハルヒの口論が始まります。

「あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの? 特別なことが何も起こらない、普通の世界なんて、もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの?」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.284

これ不思議なセリフですね。キョン君はハルヒとの会話の中では常々普通の日常こそがいい世界だ、幸せの青い鳥って知ってるか、的なことを言ってたわけですが、ハルヒはそれとは逆にキョン君の漠然とした願望を見抜いています。閉鎖空間内では若干自分の能力に自覚的になっているような形跡もあるので、自分が望んだ人間だということは、自分と同じような思考の持ち主だと見抜いたんですかね。

キョン君は眠り姫と白雪姫の共通点を考えることで、何をすればこの窮地を脱出できるか理解します。

「俺、実はポニーテール萌えなんだ」
「なに?」
「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」
「バカじゃないの?」

涼宮ハルヒの憂鬱

で、最後はキスして元の世界に戻りました。終わり。

終わりじゃないんだよ。このキスする前の謎のセリフの意味をちょっと考えてみましょう。まあこのセリフね、正直なんでもいいんだよね。実は内容自体に意味はない。儀式の前の気合いの言葉というか、心の準備というか、そのくらいの意味しかないと思う。照れ隠しとも言う。だから言葉を発すればなんでもよかったんじゃないの。ただハルヒのポニーテールはやたらと印象に残っていたのかもしれない。

あとなぜキスしたかですね。これも恋愛感情に結びつけるのが一般的な見解な気がしますが、僕は二人に明確にそのレベルの感情があるとは考えていません。どこかでこんなん絶対好きですやん、みたいなことを書いた記憶はありますが、少なくとも自覚的な、あるいは無自覚にせよ、恋愛感情のレベルにまで高まったとは考えていない。ただのクラスメイトじゃないとは言ってますが、そりゃただのクラスメイトではないよ。こんだけ関わってるし。だからと言って、好きとか愛してるとか言われると非常に違和感がある。何かしら特別な縁があるのかもしれない、くらいの距離感じゃないの。

なぜキスしたのかと言われても、それがみくる(大)と長門の二人に示唆された戻る手段だったから、というありきたりな答えにしかならないと思います。単にハルヒが好きなだけだったら、このままハルヒの望みを叶えても問題ないわけだし。

ただし、なぜキスしたら戻れたのか。そこには謎が残ります。というかキスしなかったら戻れなかったのか? キスが本質なのか?

憂鬱を通して見ていればわかりますが、ハルヒはキョンが強くたしなめると、最終的にはキョンの言うことを(渋々でも)聞いてしまう人物です。僕はそういう描写も込みで、キョン君はハルヒに対する楔であると考えたわけです。古泉が落ち着き払っていたのも、ハルヒが最終的にはキョンの言うことを聞くものだと考えていたからじゃないの。

とはいえ、ハルヒの方も世界を作り変えるほどの決断をしたわけなので、ちょっとやそっとの物言いでは決断を変えないでしょう。となるとどうなるか。本当に元の世界に戻りたいと思ってるんなら、それ相応の本気度を見せろよと。そう言う話になりますよね。だからこのキスはキョン君が自分の本気度を見せるための儀式だったと考えると、まあまあ辻褄は合う気がする。別にいいんだけどさ。好きだったからキスしたんでも。でもそれだとつまらないじゃない(ハルヒ風)。

現世に戻ると、なぜかハルヒがポニーテールにして登校していましたと。なぜポニーテールにしていたのか。僕は日常に引き戻してくれたキョン君へのお礼だと解釈しました。おしまい。

あとはエピローグだけです。次回で終わりかな。

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