海洋深層水を使った養殖システムが未来を変える 西山哲弘
私は新潟県と縁が深い。今まで仕事の関係で何度も新潟に滞在したことがある。そして現在では佐渡島に足繫く通っている。
佐渡島の魅力は四季にある。日本の縮図と称される気候と高低差で、夏は海水浴が楽しめるし、冬にはたっぷりと雪が降りスキーもできる。
沖縄本島に次ぐ広さの離島で、寒地系・暖地系の両系統の植物境界線上に属し1700種近くの植物が自生している。
海産物は豊富に獲れるし、味も濃い。水も豊富で農業も盛んだ。整備された田園地帯は圧巻だし、山から見える景色も絶景の一言だ。当然のように米も旨い。寿司も旨い。
縁あって佐渡島で養殖場の運営を行うことになり、そこでエゾバフンウニの養殖を行っている。
エゾバフンウニは北海道の利尻産が有名で、養殖場である佐渡シーファームでも利尻産の種苗を仕入れている。
天然のエゾバフンウニは温暖化の影響で海水温が上がり、壊滅的な打撃を受けている。
エゾバフンウニは水温が20℃を越 えると餌を食べなくなっていき、 23℃以上が長期間続くと死にいたることもある。このまま温暖化が続けば死滅の恐れがあると言われている。
佐渡シーファームではそんなエゾバフンウニの養殖に道外では初めて成功している。
その秘密は海洋深層水にある。
海洋深層水は年中一定の温度で供給することが可能で、エゾバフンウニの入った容器に海洋深層水をいれ循環させることで、常にエゾバフンウニを適温で飼育することができる。
餌となる利尻昆布も同時に育てており昆布も海洋深層水ですくすくと育っている。
海洋深層水は不純物がほとんどなく、水の交換も少なくて済む。水に含まれるミネラルも豊富で、海洋深層水をろ過してミネラルウォーターとして販売もしている。
海洋深層水を使った養殖システムは温暖化の影響を受ける多くの海産物で利用でき、冬の厳しい寒さでは凍らない温度で常に提供できるし、夏でも冷たい海水を提供できる。
そして何よりもその温度に保つのに電気代や燃料費がかからない。温度を保ってくれているのは深海であり、海であり地球そのものだからだ。
このようにして地球の仕組みそのものを使うことがこれからの農業や漁業、エネルギー事業など様々事業で求められている。
化石燃料や石炭に頼ってきた時代は終わりを迎えようとしている。北海道では地熱を使った暖房が復旧してきているし、地熱は発電にも使われている。
海洋深層水を使った養殖システムは、畜養にも使っている。畜養とは獲ってきた海産物を生簀で飼育することだ。
本来の畜養は港の一角で行われることが多く。長期間ではなく、短期間の飼育で行われることが多い。
しかし佐渡シーファームの海洋深層水を使った畜養では、海水温の影響を全く受けないので、冬に獲れたエビやカニを夏に出荷することもできるし、夏に獲れた魚を冬に提供することもできる。
この画期的なシステムによって北海道の海でしか生きられなかったエゾバフンウニを種苗から生育し、出荷できるまで育てることができたのである。
これからさらに多くの海産物の養殖を実験し、貴重な海産物を佐渡から届けていける。佐渡の海産物をどんな季節でも旬の味で出荷することができる。
さらに佐渡シーファームをモデルケースとして、全国の地方自治体で同じように養殖や畜養のノウハウが広まっていけば、地球温暖化が進行しても、日本産の海産物は生き残っていくことができる。
地球温暖化を止めることも勿論重要だが、漁業に携わるものとして、こういった知恵によって、温暖化を乗り越えていくアイデアも必要だと思っている。
何も行動せずに「温暖化があぶない、仕事がなくなる」「ガソリン車は廃止しろ」と口で言っていても危機は去らない。
自分たちの頭で考え、知恵を出し、しっかりと行動していけば、道はあるように思う。
四方を海に囲まれ、海産物の豊かなこの国で、温暖化や乱獲による絶滅を防ぐには養殖という方法、しかも温暖化の影響を受けない養殖が必ず必要になってくる。
私たちの成功が未来の当たり前になるように、しっかりとこれからも行動していきたいと思っている。