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梨木香歩「裏庭」の傷と癒し

こちらは、古い屋敷にある、秘密の裏庭に迷い込んだ少女の冒険の物語。
私は美味しい水をごくごく飲んだみたいな読後感を、味わいました。


ところで、この物語の架空の世界には、現実世界のメタファーがちりばめられています。とても鋭く。
私が特に共感したのが、下記の箇所です。

自分の傷と真正面から向き合うよりは、似たような他人の傷を品評する方が遥かに楽だもんな。

真の癒しは鋭い痛みを伴うものだ。さほどに簡便に心地よいはずはない。

癒しという言葉は、傷を持つ人間には麻薬のようなものだ。刺激も適度なら快に感じるのだ。そしてその周辺から抜け出せなくなる。癒しということにしかかかわってしか生きていけなくなる。

梨木香歩「裏庭」

なんと説得力のある言葉たちでしょう。
悩み事を持っているのがアイデンティティみたいになっている人、いますよね!
いや、趣味なのかなー?

毒舌はここまでにして。

人が本当に奥深い傷を癒そうとするならば、言葉で容易く説明できない程の体験をするものなのかもしれません。

この物語でも、主人公の少女は、自分の中の母娘関係の傷を裏庭の世界の凄まじい体験をとおして癒やしていくのです。
そして彼女は気づくのです。自分はひとりなんだ、ということに。
傷を分かってほしいと言う気持ちを捨てること。
それは諦めにも似た清々しい感覚です。

癒しと自立は関係がありそうですね。
甘えという隙が入らないくらいの、自立です。

弱っちい私は、自分の深い傷まで潜る勇気があるのだろうか?と思いました。
また、深い傷を癒すのは、神様に選ばれた人だけの使命のような気もします。
私達は、表面上の感情と日々付き合って生きていて、それで救われているところも多分にあるからです。

ただ、物語を読んで擬似体験することで、自分の魂の傷みたいなところに安全に触れることはできるような気もするのです。
それは、日常生活では意識できない部分です。
優れたファンタジーと言うのは、そういう働きがあるものなのでしょう。
それもまた、癒し、と呼ぶのかもしれません。

最後に星野道夫さんの言葉を引用します。

人の心は深くて、そして不思議なほどに浅いのだと思います。
 きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。

旅をする木 新しい旅より

私にとって物語を読むことは、心の深さに触れるための一つの手段なのだと思います。

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チャコ@癒し星人
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