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野生イノシシを対象とした豚熱ウイルス浸潤状況調査の現状―Ⅱ

 2018年9月に岐阜県で国内26年ぶりに発生が確認された家畜伝染病(監視伝染病)の豚熱(CSF; Classical Swine Fever,旧称「豚コレラ」).2019年10月から一部の都府県で豚へのワクチン接種が行われるようになり,養豚場での感染事例は2020年4月以降確認されなくなりました.
 一方で,野生イノシシの感染個体は引き続き確認されており,感染範囲も拡大中です.陽性個体数は2020年に入り累計2,000頭を超えました.

※最新の豚熱(CSF, 旧称豚コレラ)感染状況については,下記ページにて随時更新中です.

 2019年末までの岐阜県内におけるイノシシ調査について紹介した「野生イノシシを対象とした豚コレラウイルス浸潤状況調査の現状」に引き続き今回は,岐阜県以外の各都府県も含めた調査の実施状況について紹介します.
 なお,ウイルスの浸潤状況調査の概要については,前記事に記しています.

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こちらの感染状況地図を,以下のグラフとともに併せて見るとよいかもしれません(詳細地図や最新のデータは錦鮒出版特設ページに掲載しています).

各都府県の調査状況

 各都府県は捕獲または発見された野生イノシシについて豚熱(CSF, 旧称豚コレラ)ウイルスの遺伝子検査を実施し,結果を公表しています.その公表されているデータを独自に集計し,グラフにまとめました.これまでに陽性個体が確認された15の府県(岐阜・愛知・三重・福井・長野・富山・石川・埼玉・滋賀・静岡・群馬・山梨・新潟・京都・神奈川)に,隣接県で陽性個体が確認されている東京都を加えた計16都府県を対象としています.
 グラフは,各都府県が検査を実施した野生イノシシを「捕獲•陽性」,「死亡•陽性」,「捕獲•陰性」,「死亡•陰性」の4区分で月毎に集計したものです.棒は検査頭数,折れ線は陽性率を示しており,青が捕獲個体,赤が死亡個体を表しています.グラフのデータは2020年6月6日現在で公表されていたデータをもとに集計しているため,5月のデータはまだ揃っていないところも含まれていると考えられます.グラフ縦軸の頭数(左側)は県によって値が異なることに注意した上でご覧ください.

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 発生の発端とされている岐阜県では,2019年の春をピークに捕獲個体の陽性率は低下傾向が続いています.岐阜県内では抗体保有個体の割合が増加傾向にあることが報告されていますので(岐阜県豚コレラ有識者会議の資料などによる),確実に感染は抑制されてきていると言えます.
 なお,捕獲個体が他と比べて大きく減少している月がいくつかありますが,これは,野生イノシシに対する経口ワクチン散布を行った期間が含まれることによります.ワクチン散布前からワクチン回収まで期間はイノシシの調査捕獲が停止されるためです.

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 愛知県では2020年に入る頃から調査捕獲数が減少傾向にあり,抗体保有状況等を正確に把握できているか定かではありません.
 捕獲個体の陽性率が高い期間が3つありますが,これはそれぞれ時期の早い方から順に「尾張地方北部」「西三河地方北部」「東三河地方」で感染個体が多数捕獲された期間にあたります.現在では県内の大部分に陽性確認エリアが拡がっています.

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 三重県では,県最北のいなべ市で初確認後しばらくは北勢地方でのみ確認されていましたが,今年に入ってから南の伊賀地方で多数確認される状況が続いています.三重県は調査捕獲数が比較的多く維持されており,調査がしっかり行われていると言えます.

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 福井県では,2019年末にかけて嶺北のほぼ全域に感染エリアが拡がりましたが,嶺南へはまだ広範囲に拡がっていません.最近は死亡個体の検査が一切行われていません.

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 長野県では初め木曽地域で確認され,その後は新たな感染エリアが拡がるとともに陽性率が上下しています.森林面積の広さを考えると,検査数は全体的に少ないと言えます.

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 富山県や石川県では検査個体数が非常に少ない状態が続いており,浸潤状況や抗体保有状況などを評価するのが困難です.

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埼玉県は,県内の山地のほぼ全域に感染域が拡大し終えた段階にあります.

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 岐阜県に隣接していながら検査がほぼ行われてこなかった滋賀県では,県内で死亡個体の陽性判明以降,積極的に調査捕獲が実施されています.湖北から湖西への感染拡大は抑えられているものの,県の南部では感染エリアが西へ拡大しています.今後感染域が拡がると再び陽性率が上昇する可能性があります.

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 静岡県では,県内で陽性個体が確認される以前から積極的な調査を実施していました.愛知県側から感染個体が越境することが想定されていましたが,2019年10月に県中央に位置する藤枝市で突如陽性個体が確認され,以後その周辺や県西部に感染域が拡がっています.

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群馬県では比較的多くの個体が検査されていましたが,最近は減少傾向です.現在は埼玉県や長野県に隣接する地域のみで確認されており,今後北部への拡大が抑制できるかが課題です.

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山梨県では2019年10月に突如県内で陽性個体が確認されて以後,徐々に関東山地全体で確認されるようになりました.山梨県は調査捕獲数が元々少なかった上に,3月以降は一桁しか捕獲されておらず,ほぼ死亡個体の検査結果しか得られていません.これではウイルスの浸潤状況が把握できているとは言い難いでしょう.

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 新潟県では,2020年4月に死亡していた2個体で初めて陽性が確認されましたが,その後調査捕獲が強化された様子が見られません.県内の感染動向が一切確認できない状態にあります.感染エリアの北限に位置していることから,詳細な調査が求められます.

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京都府は県内で感染個体が確認される前から調査捕獲を行っていたため,県内初確認事例も死亡個体ではなく捕獲個体でした.感染エリアの西限に位置するため,今後も広範囲で調査を続ける必要があります.

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神奈川県では,山梨県に近い県北西部で1個体のみが確認されています.

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 東京都に隣接する埼玉県・山梨県・神奈川県のいずれにおいても都県境のすぐ近くで陽性個体が確認されていることから,都内に陽性個体がいる可能性は極めて高い状況にあります.しかしながら,検査数が非常に少ないためか,陽性個体はまだ捕捉されていません.

 以上のように,各県によって検査の実施状況は大きく異なっています.農林水産省は感染対策として打ち出している野生イノシシへの経口ワクチン野外散布事業を各都府県で実施していますが,こうした対策の効果を検証するためにも,イノシシの調査捕獲は感染域やその周辺全体で継続的に行う必要があります.また,静岡県や埼玉県での事例のように,感染域が地続きで拡がらず,空白域で突発的に陽性個体が出現することが今後ないとは言い切れないため,陽性個体が確認されていない地域でも調査を継続的に行うことが重要です.
 最初に感染が確認された岐阜県では陽性個体が減少していますが,豚熱感染イノシシの確認エリアは現在も拡大中であり,根本的な終息には程遠いのが現状です.課題は山積しています…….


※豚コレラ(CSF)に関する詳細情報·最新情報は錦鮒出版公式サイトに掲載中です。https://nishikibuna.web.fc2.com/hogcholera.html


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