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ドーナツの穴の味【奥の階段#6仙台ロフト】

わたくしは商業施設の奥の方にひっそりとある、階段が好きである。
今回は、仙台ロフトの奥の階段。

螺旋に昇降するタイプ
天井から降りるパイプがいい感じ
外から直接階段にアクセスできる

数年前にしばらく仙台に住んでいたことがある。仕事の都合で移ったから、一緒に遊ぶ友人もおらず、一人で時間を過ごせるよう色々と新しい趣味や遊びを試していた。その中のひとつにレコードで音楽を聴いてみようというものがあった。世代がなんとなくわかってしまいそうだが、CDやMDで音楽を聴いてきたし、実家にプレイヤーもなかったからレコードで音楽を聴くという体験をしたことがなかった。

とりあえずプレイヤーとスピーカーを揃え、問題はどこにいったらレコード盤を買えるのかということであったが、その問題はほとんど気にする必要がなかった。なぜなら仙台では駅前の商業施設でやたらとレコード市なるものが開催されていたからである。今でもそうなのかその時期そうだったのかわからないが3つくらいの商業施設でかわるがわるレコード市を開催していたから、なにか買いたいなというタイミングでは大体どこかでレコード市が開かれていた。

さっそく適当に目についた盤を購入し、自宅に戻りケースから取り出す。まず驚いたのがレコード盤というのはこんな素材なのかということであった。もちろんどれくらいの大きさでどんな色形をしているかということは知っていたが、円盤と言えばCDのようなカチカチのものをイメージしていたので、おとしたらパリンと割れてしまうようなものを想像していた。こんなにフリスビー的なものだとは思いもしなかった。一度投げてみたいとも思った。(今も思っている)

プレイヤーにセットし、針をかける。盤に針が触れ、ブツという音のあと少しの間をおいて音楽が流れる。片面が終わるのは早い。盤を取り出し裏返し、また針をかける。ブツという音と音楽のはじまりをうずうずしながら待ち望む。わたくしは思った、この音楽を聴くまでの準備動作においしい味があるのだと。

最近はサブスクリプションで音楽を聴くことが多い。趣味の音楽というものは色々と持っているのだが、ふと今自分が何を聴きたいのかわからなくなるときがある。アプリには今自分が聴くべき音楽の候補がいくつも並んでいて、どれを聴いたっていいはずなのに、その中から一曲選び出せなくなるときがある。Youtubeを見ているときにもそんなことが起きる。どうせ時間潰しなのだから、どの動画を再生したっていいはずなのに、今見るべき動画を選びだすことができないときがある。コンビニで今晩食べたい弁当を選び出せないときがある。

聴きたい音楽をワンタップで再生できるということは、効率的に音楽を楽しむことができているように感じるが、もしかしたら音楽を聴くという行為のおいしい味をそぎ落としているのかもしれない。扱いにくい大きな盤を取り出し、セットし、針が落ちるのを待つ時間は、毎回同じ動作のようで、これから聴く音楽やそのときの心境によって、様々な味を生み出しているのかもしれない。我々はその味も込みで聴きたい音楽というものを、思い起こすのかもしれない。

今日は久しぶりに自炊をしてみよう。晩御飯に何を食べたらいいかはわからなくなっていたが、今晩作ってみたいのは回鍋肉だとすぐに思いつくことができた。

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