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世界へ投げた小石のゆくえ

自分の投げた小石が、誰かの心に届くことがある。これから書く話は、写真展開催中に起こったできごとだ。

2020年7月18日から7月22日にかけて、自分にとって初めての写真展を開催した。場所は地元の金沢市である。

展示内容は、2019年7月に北欧で撮った写真を20点にまとめたもの。展示名を「NORDIC LIGHT」とし、開催5ヶ月前の2020年2月からTwitterで告知を開始した。

開催までのあいだに、思いがけず新型コロナウイルスが蔓延してしまった。「延期になるだろうか」とヤキモキしたが、非常事態宣言が解除されギャラリーのスケジュールが正常化し、無事開催することができた。

こうして開催後に振り返ってみると、ほぼ無名で実績もない人物が開いた写真展にしては、それなりに人が来てくれたのかもしれない。会期中はほぼずっと、来場した誰かと話をしていたように思う。

ありがたいことだ。写真展開催中、自分の写真を見ているみんなの光景を思い出すと、感謝で胸がいっぱいになる。しかし…。

それでも心の中には、物足りなさが残った。たくさんの人が訪れてくれたのに、なぜ物足りなく思ったのか。それは来場者のほとんどが、知り合いだったからである。

特にカウントしていなかったので正確な数字はわからない。肌感覚で、80〜90%は知り合いだったように思う。仕事やプライベートで付き合いのあるひとや、高校・中学時代の同級生。郵送したDMから来てくれた人がいれば、フェイスブックの告知で知ってくれた人もいた。

中には、家族連れで訪れた友人もいた。友人と話していると、腕に巻き付いてうなだれる彼らの子どもの姿。その退屈そうな顔を見て、「子どものときは、大人同士の会話がつまらなかったな。あの、ただただ待たされるだけの時間は、この世で最も退屈なものだった」と自分の子ども時代を思い出し、なんだか申し訳ない気持ちになったりもした。

誤解してほしくないのは、知り合いが来てくれたのは、ものすごく嬉しいことだ(それはもう、もちろん)。懐かしい顔を見れて、話をできたのも楽しかった。

知り合いが来てくれたのが問題なのではなく、「来場者のほとんどが知り合いだった」その割合に課題を感じたのである。

知り合いは、「知り合いだから」という理由だけで足を運んでくれる。自分の知っているひとが、初めて個展をやるらしい。そう聞けば、ほとんどのひとが無条件に興味を持つだろう。

自分も友人が初めて個展を開催すると知ったなら、きっと見に行く。そしてそれは作品に惹かれたのではなく、「知り合いが個展をやっている」という単純な理由からだ。極端に言えば、何が展示されているかはそこまで大きな問題ではない。

つまり個展をやってみて課題に感じたのは、「知り合い以外のひとが、作品目当てにこぞって見に来るようなステージに、自分はいない」ことだった。

それはもちろん、やる前からわかっていたことでもあった。前述したように、名が通っているわけでも実績があるわけでもない。SNSでフォロワーがたくさんいるわけでもない。そもそも存在を知らなければ、個展をやっていても「行ってみよう」とはなりえないのである。

しかし実際に写真展をやってみて、現実を肌身に感じると切ないものがある。会期中は、「では人を呼ぶには、どうしたらいいのだろう」と集客ばかり考えていた。

そんなときだった。ギャラリーに一組の男女が現れたのは。

個展二日目の日曜日。午後1時半くらいだったと思う。ギャラリーの扉が開き、男性と女性の二人連れが入ってきた。

男性は恰幅がよく、背が高かった。髪は白髪。大きめのリュックを背負っている。女性はひと目でセンスの良さを感じる、ダークブラウンのシックなワンピースと麦わら帽子をかぶっていた。ふたりとも、金沢の人とは違った独特な存在感があった。知り合いばかりと顔を合わせ緩んでいた気持ちが、その瞬間に少し引き締まった。

二人はギャラリーへ入ってくると、カウンターに腰掛けていた自分とすぐに目が合い、軽く会釈をした。その後、二人揃って展示してある写真を見始めた。

ぼくはその姿を見て、観光の方だと思った。ギャラリーは金沢中心部の、さらに真ん中に位置している。観光地として有名な金沢21世紀美術館から徒歩3分と言えば、イメージが浮かびやすいかもしれない。

ギャラリーは二階だが、階段上り口に「〇〇展 開催中 入場無料」と会期中のポスターが貼ってある。通り掛かった美術館帰りの観光客が、「ちょっと見ていこうか」と興味を持ちやすい立て付けである。実際にぼくの個展中も、観光客らしき人が一日に何組か訪れていた。

ぼくは訪れてくれた方たちへそうしたように、二人に近づいて声をかけた。「金沢の方ですか」と。

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