逃げるという選択肢
「逃げるは恥だが役に立つ」。
日本では星野源さんと新垣結衣さんのドラマで有名ですが、もともとはハンガリーのことわざです。この言葉の意味は、「逃げることは一時的には恥ずかしいように見えるかもしれないが、長期的には役に立つこともある」というニュアンスです。つまり、「今の居場所や状況に固執する必要はなく、自分の強みが活かせる場所へ行こう。今の環境から離れることも選択肢として考えていい」という考え方を示しています。
社会で「逃げないこと」が評価される背景
社会では「逃げない」ことが美徳とされがちです。特に日本では「困難に打ち勝った」や「逆境からの復活」といった話が称賛されることが多い一方、逃げた人には冷ややかな視線が向けられることもあります。これは、責任感や忍耐を重視する文化や、成功への信念が背景にあるのかもしれません。しかしその一方で、逃げずに戦ったものの心が壊れた人に対して「なぜ逃げなかったの?」という批判が向けられることもあります。逃げる人には容赦がないのに、逃げなかったら自己責任とされる—少し矛盾を感じるところです。
誰にでも「逃げたい」気持ちはある
でもよく考えてみると、誰にでも何かから「逃げ出したい」「辞めたい」と思う瞬間はあるはずです。非難してくる人たちも、実は何かから逃げたいと思いながら、その決心がつかずに他人を批判しているのかもしれません。
「逃げ」の2種類とその違い
私は「今の状況を改善するための逃げ」は良い選択だと考える人間です。逃げにも2つの種類があると思っています。「自己防衛や自己実現のための逃げ」と「責任や義務から逃れるための逃げ」です。私が肯定するのは前者で、後者は正直、好ましいとは思いません。前者の逃げは、自分を守りながら次の成長に繋がる行動で、結果として新たな可能性を開くことがあります。一方で、後者の逃げは、単に目の前の問題を回避しているだけで、問題が残ったままになることが多いです。
私の経験:2つの「逃げ」
実は私も大きな「逃げ」を2回経験しています。1回目は大学を辞め、別の大学に入り直したことです。医大を辞めて工学部へ進学したため、周りからは「もったいない」と思われたかもしれません。しかし、工学部で学ぶことで自分に合った分野での成長を感じることができ、結果的には良い選択でした。もう1つは、工学部時代にブラックな研究室からホワイトな研究室へ移動したことです。研究環境が改善され、自分がやりたい研究に専念できるようになりました。どちらも私にとってはプラスの「逃げ」であり、後悔はありません。
それでも、逃げることは簡単ではありません。今まで築いてきたアイデンティティや立場が崩れることに不安が伴います。私もその時は怖かったです。なぜなら、それまで何かを辞める経験がなかったからです。しかし、我慢を続けて自分が壊れるよりも、逃げて気持ちをリセットすることのほうが自分にとっては正解でした。
「逃げたら一つ、進めば二つ」の考え方
「逃げたら一つ、進めば二つ」。この言葉、聞いたことがある方も多いと思います。『水星の魔女』のスレッタ・マーキュリーの口癖ですね。私はこの言葉がとても好きで、逃げることが必ずしもマイナスではないと感じさせてくれます。もちろん、進み続けることが最も良いかもしれません。2回進めば「4つ」になりますからね。しかし、一度逃げても再び進むことで「3つ」となり、結果的にプラスにできるのです。
最後に
もし今、辛い環境にいる人がいるなら、その場から逃げる選択肢も考えてほしいです。私は逃げるという選択ができる人間ですが、逃げられない人もたくさんいると思います。逃げることは確かに怖いかもしれません。でも、「逃げたら一つ、進めば二つ、そしてまた進めば三つ」。少し柔らかい視点で、自分に優しく生きることが、結果として幸せにつながるのではないでしょうか。
p.s. 異動する同期に幸あれ