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愛しのバベイオモイド神さま💕【9/13】 「西田少女地獄【3】」

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■2005年:14歳

■2005年4月20日(晴れ)

 偉大なるバベイオモイド神様。
 
 いよいよあたしも、今年の6月15日、14歳になります。
 遺薔薇鬼屠死夫いばらきとしお様が殺人を犯したのと同じ歳です。

 そして、今年ついに遺薔薇屠死夫様が6月、医療少年院から退院されるそうです!
 これもやはり、バベイオモイド神様のお導きでしょう!

 あたしは6月が待ち遠しくて仕方ありません。

 遺薔薇屠死夫様が退院後、いったいどこで暮らし、なにをして生きていくのかはまだわかりません。
 司法当局もそのことは伏せておくつもりのようです。

 インターネットではいろんなうわさが飛び交ってますが……
 とにかく遺薔薇屠死夫様があたしたちの暮らすこの社会に出てこられるのです。
 

 あたしは、何としてでも彼に会いにいくつもりです。
 狭い日本です。
 くまなく探し回れば、きっとどこかで出会えるはずです。
 はずです、ではなく絶対、会いにいくのです!

 そして人を殺したときの気持ちはどんな感じか、人の首を切り取るときの気持ちはどんな感じか、その首を切り取ったときに射精したとき(きゃっ)はどんな気分がしたか、全身の血をぬりたくったときの気分はどうだったか……

 いろんなことを、直接聞きたいと思います。
 
 また、遺薔薇鬼屠死夫様が警察に捕まってから起きた、いろんな事件についても話し合いたいと思います。

 たとえばあの京都で遺薔薇鬼屠死夫様の事件をまねた「まへきとおりも」さんのこと。
 バスジャック事件の「クロごま茶」さんのこと。
 九州の12歳の少年のこと。
 ダラスちゃんのこと。

 そして2001年9月11日のテロのことについて……

 それらに関して、どんなふうに思い、感じたのかを、ぜひ聞いてみたいと思います。
 

 でももちろんいちばん話し合いたいのはあなたのこと……
 そう、バベイオモイド神様、あなたのことです。
 
 遺薔薇鬼屠死夫様がバベイオモイド神様に出会ったいきさつを聞きます。
 そして今もその神様にあたしが毎日祈りをささげていることを、正直にお伝えしたいと思います。

 この日記ももう9冊目になりますが、なんならこの日記を、そのまま持っていって読んでもらうのもいいでしょう。
 この日記のことは、これまでさいわいにも、誰にも知られずにいました。

 その日記をはじめて、他人に見せるその相手が、遺薔薇鬼屠死夫様だなんて……
 考えただけでも興奮して、胸がどきどきして、少し濡れてしまいます(きゃっ)。
 

 外ではもう散ってしまった桜の木に、薄緑色の葉がつきはじめています。
 おだやかな光が辺りを照らし、ぼんやりしていると、つい眠くなってしまいます。

 あたしの大嫌いな、昼と、太陽の季節がやってこようとしています。
 
 あたしは夜が大好きです。
 夜のがほんとうに好きです。

 たぶん、遺薔薇鬼屠死夫様なら、あたしのこんな気持ちを、わかってくれると思います。

 できることなら、真っ暗な闇の中で、遺薔薇屠死夫様と話し合いたいと思います。
 そしてその闇の奧には、バベイオモイド神様、あなたもいらっしゃるのでしょうね。
 

 すべてを語り終えた後、あたしは遺薔薇屠死夫様に、処女をささげるつもりです(きゃっ)。
 

 いや、あたしの処女なんかもらって、遺薔薇鬼屠死夫様が喜ぶかどうかはわかりません。
 でもあたしが思うに、遺薔薇鬼屠死夫様は14歳のときから20歳になる今まで、ずっと医療少年院にいたわけですし、よっぽどのことがないかぎり……

 童貞だと思うのですね。

 つまり暗い闇の中、バベオイモイド神様に見守られながらの、使徒同士、童貞と処女のセックス……。
 

 吐き気がするほどロマンチックじゃないですか!!!!!!!
 

 あたしはそれを思うだけで舞い上がってしまい、今があたしが夏の次に大嫌いな季節である春であることなど、これっぽちも気になりません。
 
 

 ところで……あたしに友だちができました。
 

 同じくラスの、柳川という名の男子です。
 あ、男子だからってヘンに思わないでください。

 あたしは柳川に、恋愛感情なんかこれっぽっちも持っていません。

 あたしは他人を外見で判断できるほど、美人でも可愛くもありませんが……(それでもクラスの中では中の上、くらいではないかと思います)柳川にはまったく、男性的な魅力というものがありません。

 彼の身長は150センチに満たず、まるでユニセフのCMで見る難民の子どものように、ガリガリのやせっぽちです。
 あたしは最近ぐんぐん背が伸びて、クラスでも比較的背が高いほうになりました。
 彼の体重はあたしよりも、ずっと軽いと思います。

 顔つきはというと……

 そうですね、ドブネズミに似ています。
 出っ歯で、目がぎらぎらしているところなんか得に。

 柳川は銀縁メガネの下から、いつもぎらぎらした視線を周囲に向けて、クラスの中でも完全に孤立しています。
 彼が誰かと話をしているところを、これまでに一度も見たことがありません。
 かといって、いじめを受けているわけでもありません。

 柳川には独特の人をよせつけない、うす気味悪いムードがあって……
 誰も彼には近づこうとしないのです。
 
 

 彼はいつも休み時間、本を読んでいます。
 彼は読む本に、カバーを掛けません。

 だから彼の読んでいる本の、おどろおどろしい表紙は、いつもむきだしになっています。
 それがますます、彼から人を遠ざけているようです。
 ひょっとすると、そうすることによって、彼は自分のまわりにバリアのようなものをつくって、自分を守っているのかも知れません。
 
 あたしも彼と同じで、あまりクラスメイトとは口を効かないほうです。
 
 しかしある日、ふと彼が読んでいる本に目がとまりました。
 

 一橋文哉の「宮崎勤事件: 塗り潰されたシナリオ」。

 
「え、それ、面白い?」

 あたしはなんとなく柳川に声をかけました。

「………」

 柳川ははっと顔を上げて、あたしの顔を見上げました。

「面白そうじゃん、それ、読み終わったらかしてよ」

「………あ、んん、うん」

 柳川は、なんだかよくわからない返事をしました。

 
 宮崎勤さんは、あんまりあたしの好みの犯罪者ではなかったのですが、やはり宮崎勤さんもまた、バベイオモイド神様、あなたの使徒のひとりなのでしょう。

 あたしは柳川にはまったく興味はありませんでしたが、まあこの日本でバベイオモイド神様がなされたことの中でも、一番有名なこの事件に関しては、前から興味がありました。
 

 翌日、柳川はあたしに、その本を貸してくれました。
 それからすこしずつ、柳川と話をするようになりました。

 柳川はあたしと同じで、陰惨な事件の情報を集めるのが大好きな、一種のオタクでした。
 
 あたしもそうなのでしょうか?
 まあそれはそれでいいでしょう。

 柳川はチャールズ・マンソンや、ジョン・ウェイン・ゲーシー、デイヴィッド・バーコウィッツや、ジェフリー・ダーマーといったアメリカの連続殺人犯にかんする本を、たくさん持っていました。

 なかでも彼のお気に入りは、テッド・バンディだそうです。

 あたしはそれらの名前は一応知っていましたし、そうした情報を集めるという点で、彼と趣味がとてもよく合っているといえました。

 しかしあたしはどちらかというと、海外の殺人鬼よりも、日本の殺人犯が好きです。
 小平義雄や西口彰、永山則夫や大久保清、勝田清孝に小野悦男など……。
 

 ベスト3を上げるならば、
 
 3位 「埼玉愛犬家連続殺人事件」の関根元
 2位 「三菱銀行人質事件」の梅川昭美

 そしてなんといっても1位は、遺薔薇鬼屠死夫様です。あたりまえです。
 

 あたしはあたしの知っていることを話し、柳川は自分の知っていることを話し、けっこう話が合いました。
 本を貸し借りしたり、何か陰惨な事件がおきるたびに、そのことについて語り合ったり。
 
 これもヘンに誤解されそうでいやなのですが、あたしは柳川の家に、しょっちゅう出入りするようになりました。
 

 柳川は一人っ子で、両親が共働きのせいで、家にはだれもいないことが多いのです。

 柳川はけっこうな量の犯罪にかんする本や、事件のスクラップ、ニュースのビデオ録画などのコレクションを持っていて、彼の部屋に遊びにいくのが、あたしも楽しくて仕方ありませんでした。
 

 また彼は、重症のネット中毒でした。

 彼のパソコンには、びっくりするような数の死体写真残虐動画のたぐいが、ぎっしり詰まっていました。
 
 中にはあたしがそれまで見ることができなかった九州のカッター少女、『ダラスちゃん』の修正なし画像もありました。
 想像していたよりずっとかわいかった。
 
 

 何より感動したのは、遺薔薇鬼屠死夫様の、素顔の画像を見ることができたことです!

 というのも、遺薔薇鬼屠死夫様は逮捕時、14歳だったので少年法に守られ、その顔写真は一般に公開されていなかったのです。

 あたしの想像よりもずっと利発そうで、繊細なそのお顔……
 美少年、といってもいいかもしれません。
 この人が、子どもを殺して、首を切り落として、血を身体に塗りたくって、射精を……きゃっ
 
 しばらく見とれてしまいました。

 
 柳川はあたしが遺薔薇屠死夫様の大ファンであることを知って、遺薔薇屠死夫様の画像とニュース映像などの素材を、メモリスティックに入れてくれました。

 以来、あたしはこっそり自分の部屋のパソコンで、それを見ています。
 
 ほんとうに柳川には感謝です。
 
 
 しかし……さっきも書きましたようにあたしは柳川に恋愛感情なんてもってませんし、むこうもあたしに恋愛感情をもっているとは思っていません。

 性別を越えた友情?………
 なんだか書いただけで吐き気がしてきますが、たぶんあたしと柳川の間にあるのは、それに近いものなのでしょう。

 友情という言葉もなんだか好きになれませんね。
 好きにならないというか、書いているだけでとりはだが立ってきます。

 じゃああたしと柳川の間にあるのはなんだろう……同好の志?

 そんな感じかな。

 ところで、あたしと柳川が仲よさそうにしていると、担任の宮本先生が、いつもそれを嬉しそうに見つめています。

 あたしは、教師という存在はどれもバカで、好きになれない、というかキライなのですが、宮本先生だけは……好きではありませんが、よくわからない、正体のつかめない人なのです。

 まだ20代の、とてもきれいな女の先生で、背がすらりと高く、色白で、肩までの黒髪はとてもつやややかです。

 宮本先生のいちばん不思議なところは、です。
 黒目の色が翡翠ひすい(むつかしい漢字、知ってるでしょう)とても薄く、どこを見ているのかよくわからないかんじ。

 見つめられると、ちょっと怖いです。

 クラスのバカな男子は、みんな宮本先生にメロメロです。
 ヤりたい、とかおそれ多いことをほざくクソバカもいますが、冗談は存在だけにしてほしいです。

 そんな宮本先生が、あたしと柳川が休み時間などに廊下などで話しているのを見かけると……
 いつもあたしたちを見て、にや、と笑うのです。

「仲がいいんだね」

 そう声を掛けられて、あたしは思わず、

「ちがいます! ぜんぜんちがいます!」

 と声を荒げてしまいました。

 先生はクスリと笑って、まるでバレリーナみたいにきれいな姿勢で、廊下を去っていきます。
 怖いです。なんか。

 柳川を見ると、なんか青くなって、黙っていました。
 宮本先生にそんなふうに言われて、心外だったんでしょうか?
 
 ちょっとムカつきます。

 
 PS:
 

 でも最近、柳川は部屋であたしの肩や背中に、気安く手を触れてくるようになりました。
 え? なんか…………かんちがいしてるんでしょうか?


【10/13】はこちら


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