愛しのバベイオモイド神さま💕【2/13】 「西田少女地獄【3】」
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■2005年:14歳
■2005年9月25日(晴れ)
偉大じゃなかったバベイオモイド神さま。
昨日、あたしはあなたにとっても失望しました。
毎日毎日、こうしてあなたに日々の出来事を報告してきたことが、ほんとうに馬鹿馬鹿しく思えて仕方ありません。
本日をもって、あなたへ祈りを捧げることをやめます。
結局、この世の中にはあたしが望んでいるものなんて何もないんですね。
一体これまで14年、あたしは何のために生きてきたのでしょうか。
あなたと出会って6年、あたしはずっとあなたに祈りを捧げ、全てをあなたにお任せしていました。
あなたがあたしを、あたしの知らない世界に導いてくださるものと期待していました。
何度もご報告しているように、あたしは夜の暗闇が大好きです。
そのかわり、太陽の出ている昼が大嫌いです。
昼の世界では、すべてが光に照らされてよく見えますが、あたしの見たいものなどこの世にはなにひとつありません。
木々も、白 い雲も、人々の笑顔(一体何が楽しくて笑ってやがんだウスバカども)も、学校の校舎も、山も、川も、立ち並ぶ家々も、自転車も、車も、犬 も、猫も、何もかもが大嫌いです。
誰がそんなものを照らしてまで見せてほしいとお願いしたというのでしょう?
そんなくだらない全てのものを、照らして見せる太陽が、あたしが大嫌いです。
おせっかいで、でかい面をして、あたしを見下ろす太陽が大嫌いです。
あたしの一番大嫌いな季節……太陽の季節である夏も終わり、今はもう秋です。
ざまみろ太陽。
太陽があたしたちをじりじりと照らし、溶かそうとする忌まわしい夏は終わりました。
これからあたしの好きな夜の長い季節がやってきます。
昼間の世の中はヘドが出るほど醜いというのに、夜の闇の中ではなぜ、何もかもがああも美しいのでしょうか。
最近はあたしの住む町にもたくさんの外灯が作られ、夜の闇を照らします。
なんてつまらないことをするのでしょう?
夜道に痴漢が出ようが殺人鬼が出ようが、そんなこ とは知ったことではありません。
出ればいいのです。
だいたいこの町に住むくだらない人間どもの安全なんかに、一体なんの価値があるというのでしょう。
あたしは真っ暗な闇が好きで す。
夜になるとよく家族の目を盗んで、町をあてもなく歩きます。
そして出来るだけ暗いところ、暗いところを探すのです。
それは人気のないマンションの階段の裏だったり、ビルとビルの隙間だったり、市営ガレージの片隅であったり、鉄道の高架だったり、ゴミ捨て場だったりします。
そんな光の射し込まない真っ暗な場所に居ると……
あたしはよく、すぐ近くにあなたの存在を感じたものです。
より深く、濃い闇の中にこそ、あなたは存在する……
あたしはずっとそう思ってきました。
闇の中に目を凝らします。
暫く見ていると、闇の外に居るあたしの視点が真っ暗な闇に侵食され、やがて視界はすっぽりと闇に覆われます目を閉じているのかちゃんと開いているのか、 わからなくなってきます……
あたしはそうして、あなたの息吹を感じているつもりでいました。
いずれ闇の中からあなたの御手が差し伸べられ、あたしを闇に誘い込み、深淵を覗かせてくれるに違いないと………ずっとそう考えていました。
あたしはネットニュースが大好きです。
特に陰惨な事件の報道を読むのが。
「6歳の幼児が母親とその内縁の夫に2年間虐待を受け続け死亡」とか。
「●●川の堤防で人間の左手首発見」とか「学校に刃物男7人死傷」 とか。
「17歳無職少女殺される。29歳の市職員逮捕……動機は『死体が見たかったから』」とか。
「子どもの目の前で男性車に跳ねられた上、降 りてきた男が包丁で刺す」とか……
そんな記事を読む度に、ああ、世の中ってなんて素晴らしいんだろう、と思えるのです。
そういう事件の影に、あたしはことごとくあなたの存在を感じました。
そうです。あなたです。
バベイオモイド神さま。
あなたの忠実な使徒であったあの人……
遺薔薇鬼屠死夫でなくとも、これらの犯罪を犯す者たちは心の中にあなたの存在を感じていたはずです。
彼らが犯した罪に関してこの取りすました世の中……特にワイドショーのコメンテーターをやっているような虫酸の走るブタクソゲロカス野郎どもが、少なくともうわべ上は“まったくなんて事だ、いつからこの世の中はこんなに狂ってしまったんだ”とでも言いたげな表情を浮かべて(連中はそう言う事件が起きるたびに、そういう事件に対してコメントするときの『顔』をいつも鏡を見ながら練習しているのでしょう)「心の闇」 がどーたらこーたら、くだらない御託を並べるたびに、あたしは腹を抱えて笑いそうになります。
そしてこの懲役のように退屈で苦痛な人生に少しでも潤いを与えて下さるのは、あなた……つまりバベイオモイド神様、あなただとばかり思ってきました。
でも違ったんですね。
あなたなんて、存在しないのです。
これからなにが起きようと……
たとえば学校に地獄から蘇った宅間守が乱入して、あたしの大嫌いなクラスメイトや先生達を刺し殺し、警察特殊部隊が出動して血みどろの攻防戦を繰り広げたあげく、学校が血祭りになったとしても……あたしはあなたに感謝はしません。
あなたにそんな素晴らしい奇跡を、起こすことができるはずがないからです。
しょせん、あなたはあんな下らない奴のが造り出したインチキに過ぎません。
遺薔薇鬼屠死夫は、単なるクズでした。
彼の平凡な本名……
田中洋介という名に相応しい、どこにでもいる下らない一山なんぼの人間の一人です。
あたしはもう、あなたに対して語るのを止めます。
もう、この日記を通して、あなたに語りかけることはないでしょう。
それにしてもバベイオモイド神さま……あたしの人生の懲役は、いつまで続くんですか?
あ、こんなことあなたに聞いても、判るはずがありませんね。
あなたはあのクズ野郎のインチキに過ぎないのだから。
この日記を焼き捨てるべきか否か、今あたしはとても悩んでいます。
まあ、それについてはじっくり考えてから決めることにしましょう。
では、さようなら。
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