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わ る い お ま わ り さ ん 【2/6】

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「……ここにはあなたみたいな目に遭った女性が、毎日のように訪れるのよ」

 その女の人は自分を警部補だと名乗った。

「……辛いでしょうけど……わたしの質問には全て正直に答えてくれる? ……これは、あなただけの問題じゃないの」

 テレビなんかで見る女刑事さんとはまったく違っていた……いや、あたしが普段見ている刑事ドラマにもよるんだろうけど……その人はとっても美人だった。

 年齢は40前くらいだろうか?
 鼻筋の通った、背の高い、どちらかと言えば日本人離れした印象のあるモデル系の中年女性だった。

 服装は警察官のあの青い制服で、髪型にもお化粧にもあまり気を遣ってない様子だったけど……休みの日なんかはこの人はとっても綺麗なんだろうな、とあたしは思った。

 通された部屋も刑事ドラマとは全く違っていた。

 あたしとしては取調室のような、あの防音壁で囲まれてスチール机と椅子がひとつ……ドアの横には書記用の机と椅子がワンセット……机の上には灰皿とランプがあって、お昼ご飯はカツ丼、というのを想像していたんだけれど……その部屋は普通の応接室のような、小奇麗な部屋だった。

 警部補さんの頭の後ろには、なんだか印象画のような女性の絵が一点。

 あたしは正直言って驚いていた……世の中にはまだまだ知らないことがたくさんある。

「…………」

 あたしが何も答えなかったのは、その警部補さんに似合いそうな服を頭の中であれこれ考えていたからだ。

 青い空の下で、警部補さんが薄い緑のブラウスとラフなジーンズで芝生に寝転がっているところを想像した。

「……聞いてる?」

 警部補さんが不意に声を掛けたので、あたしは我に返った。
 
  なんとなく、先生みたいな口調だった。
 
「……うん、しょうがないよね。辛い目にあったところだったんだから……まあ、ゆっくり聞いてくから……無理に答えないでもいいからね、ゆっくり、ゆっくり話していきましょう」やや穏やかな口調に戻って、警部補さんが笑う「……お母さんは、一緒に居たほうがいい?」

 警部補さんが左手でお母さんを指す。

 薬指には、リングが嵌っていた。
 あたしの想像の中でくつろぐ私服の警部補さんの横に、男の人が一人追加される。

 顔ははっきりしないが……その男の人は何故か、お巡りさんの制服を着ていた。
 思わず緩みそうになる頬を、あたしは必死で抑えた。

「……ちゃんと……ちゃんと喋れる?」お母さんがあたしの斜め後ろから声を掛ける。「一人で大丈夫?」

「……うーん……」

 あたしは困った。
 正直言って……どっちでも良かったのだけど。

「じゃあ……すみませんがお母さん、少し外していただけますか……何かありましたら、お呼びしますから……」

 警部補さんが母に笑顔を見せてから、あたしを少し真剣な目で言見つめる。

「……大丈夫よね?」

「……あ、はい……」

 あたしが言ったのは、ほんのそれだけだった。

 お母さんが何か後ろ髪を引かれているかのような表情で、あたしの方を名残り惜しそうにちらちら見ながら退室した。

 あたしは親に心配をかける娘だ……とりあえずこんなところに一緒に来ている時点でもうアウトだけど、それでもそれを改めて認識せざるを得ない。

「……さあ……これで安心して話せるわね?」

 警部補さんが言う。
 さっきより少し、厳しさが増したような気がする……気のせいだろうか?

「……はあ」

「話しにくいのは……わたしも充分わかってます。辛いことがあって……あなたはすごく混乱してるでしょうね。それは仕方のないことだから気にしないでいいから。……でも、最初にも言ったけども……こういう問題は、あなただけの問題ではないの」

「……あたしだけの問題じゃない?」

 さっき警部補さんはそんな話をしたっけ?……まあ、覚えてないので聞くことにした

「……それって、どういう意味ですか?」

「……いや、辛い目に遭ったのはあなた。これは動かしようのない事実だし、それはあなたが一番良くわかってるでしょう? ……わたしが言わなくても。あなたは胸のつぶれるような思いで……お母さんと一緒にここまで来て、わたしとこうして話している。それだけでも、すごい勇気だと思うわ……本気よ。でもね、あなたの戦いは、これからなの。これからわたしは、あなたの心の傷がまだ少しも乾いていないような状態のところに……塩を塗りこむようなことをしなくちゃいけない。……つまり、あなたの辛い体験に関して……いろいろと細かい質問をして、あなたの最悪の記憶を……できるだけ鮮明に呼び起こして……調書を作らなきゃいけない。わかる?」

「はあ……」

 実際、あたしは何もわかっていなかった。
 まず、この問題があたしだけの問題ではないということ。
 
 これからしてよくわからない。

 ……まあ、それに関してはこれから説明があるんだろうな。

 ……それにしても……胸がつぶれるような思い?
 ……勇気……?
 ……いやあ、そんな。

 あたしは泣き狂うお母さんに連れられてここまで来ただけだ。

 それに……戦い
 ……何との戦いだろう?

 ……それと、心の傷に最悪の記憶?
 ……うーん……なんだかわけのわからないうちにとんでもない事になってきたぞ。

「……わたしがあなたにいろいろな事を……特に、あなたにとっては辛いことばかり聞くのは……それは、別にあなたをいじめようとか、非難しようとか、単にわたしが興味があるとか……そういう事じゃないの。それだけは、お願いだから覚えておいてね。わたしは、あなたの頭の中に残っているその最悪の記憶が……まだ鮮明なうちに、できるだけありのままに、できるだけ正確に引き出さなくちゃならない。わたしだって、あなたに辛いことを思い出させたりしたくない……そのことで、あなたが改めて傷つくことだって、充分理解しているつもり。……でも、これは必要なことなの。何故だかわかる?」

「……うーん」

 あたしは必死に考えたが……なかなかイイ答が出てこない。

 警部補さんは辛抱強く待ってくれた……多分、あたしがそのまま明日まで悩み続けていても、彼女は待ってくれただろう。

 でも結局、答は出ないと思う。

「……すみません、わかりません」
 
「……いいのよ、気にしないで」警部補さんが少し笑う。「……それはね、あなたのような気の毒な犠牲者を、これ以上出さないためなの。あなたが辛い思いを押して、出来るだけその記憶をありのままにわたしに語ってくれば……わたしたちはそれを元に調書を作る……それによって、あなたに酷いことをした男を逮捕し、法の元に裁きに掛ける……裁きの場……つまり、裁判のことね……そこでも、あなたが出来るだけ詳しく、正確にわたしに話を聞かせてくれれば……それだけその男に重い罪を課すことができる……逆に、あなたがわたしに、詳しく話してくれなかったり……話さなきゃならないことをわざと隠したりしたら……どうなると思う?」
 
「……わかりません

 今度はあまり悩まずに答えた。
 
「あなたに酷いことをした男は、法で裁かれることはない。つまり、何のお咎めもなし、という事になっちゃう………そうなると、どうなると思う?」

「……すいません」あたしは素直に謝った。「……やっぱり、わかりません」

「……いいのよ、気にしないで。……あくまで……これはわたしの持論だけど……人間というものはね、ちゃんとした罰を与えられないと、自分のしたことがどんなに悪いことなのかわからないの。特に……こういう……性にまつわる罪に関しては。……それに、特に男性はね。これは差別でもなんでもないからね……男性は……性に関して、女性よりも何というか……自惚れが強いの。だから、あなたに酷いことをした男も……このままわたしたち警察がやって来なかったら……自分は誰も傷つけていなくて、自分は完全に許された、とさえ考えるの。そのまま放っておくと……男の頭の中では様々な都合のいい言い訳が雪だるま式に固まって……完全に変化してしまう。そのときには……男はむしろ、あなたにいいことをした、とさえ考えるの。……そんなのって許せる?」

「……うーん……あ、はい……い、いいえ」

 あたしは何だかよくわからない返事をした。

「……すると、男は……また他の誰かに同じことを繰り返す。ほんとよ。あなたの次に犠牲になる誰かが、あなたみたいにこうして警察に届けを出さないと……また他の誰かが犠牲になる……その他の誰かが届け出なければ……永遠にこの繰り返し。それってひどいと思わない?」

「は、はあ」

 そう答える以外、なんと答えればよかったのだろう?

「だから、こんな目に遭うのは、あなたで終わりにしましょう。長い説明になったけど……つまり、そういうことなの。あなたは辛い思いをした。……でも、こうしてわたしに会いに着た以上、これはあなただけの問題じゃないの…………さあ、他に辛い思いをする女の子を作らないためにも……わたしに正直に話してくれるよね?」

 そういう事か……なるほど。
 あたしは警部補さんに聞かれるままに、全てを話した。
 
 どうやら、あたしだけの問題ではないらしいので。

 はっきり言って、三島に頬を殴られたときは……
 こんなあたしでも、やっぱりショックを受けた。

 目の前が一瞬暗くなって、月並みだけど頭の中でチカチカと星が瞬く。

 あたしの中にあった全ての前提が消し飛んで、あたしは自分が間違ったことを言ったことを思い知った。

 いや、間違っていたかどうかはわからない。

 社会全体の基準から言って、三島をバカにしたことが間違っていたかどうかはどうでもいい。
 
 とにかく、あたしはこの状況において、とてもまずいことを言った。
 それは確かだった。

 びっくりするくらい頭が早く回り始める。
 次に、ようやく頬に痛みがやってきた。

「このあばずれ……クソなまいきなエロガキが……」

 三島の顔を見る……そこにはあたしが知ってる三島とは全く違う人物が居た。

 どんなときも彼の顔から消えることのないあの腑抜けたニヤけ面は、もうそこには見られない。

 いつもは底が浅く、手に取るようにその頭の中をうかがえるその一重まぶたの奥の瞳は……まるで底なし沼のように深く、その水面は静まり返っている。

 あたしはここにきて、はじめて怖くなった。

「……えっ……」

 いきなり三島があたしの胸倉を掴んだ。
 あたしはてっきりまた殴られるもんだ、と思って顔を手で隠した。
 
 でもとにかくその日は……あたしの予想とは違う方向に全てが事が進む日だったようだ。

「ほうれ」

 三島があたしのブラウスの前を引き裂く
 あたしは殴られたショックからまだ立ち直っていないところに、こんなことが起こってますます思考不能になった。

  ぶちぶちっという音の跡に足元にブラウスのボタンが散らばる音がする……ああ、いったいいくつ外れたんだろう、とあたしは思った。

 ていうか、このブラウスはもう着れなくなった……
 ちょっと待てよ、一体、こんなのメチャクチャじゃん?

 次に胸元に三島の息が掛かった。
 ブラの上のはみだしてる部分に、いきなり三島が吸い付いてきた。

「……この乳が悪いんだよ……この乳が……」

 はあはあ言いながら、三島があたしのおっぱいの上半分にかぶりつく。
 
  一瞬、噛み切られるんじゃないかと思って焦った。

 三島はあたしのおっぱいが大好きだった。
 別に自慢するわけじゃないけど、あたしのおっぱいは大きい。

 あんまりおっぱいが大きいのも考えものだ……
 肩は凝るし、服にもそれなりに気を使わなければならない。

 特に学校の制服を着てる時なんか、胸がパンパンになったりして最悪だ。

 いや、あたしははっきりいって、ぜんぜん賢そうな顔なんかしてないけれど……突っ張ったおっぱいのせいでますますバカっぽく見える。
 

「これを、あいつにも揉ませたんだろうが? ……ええ?……こんなふうに……こうやって……」

「んっ……」
 
  三島がいつもより乱暴にあたしのおっぱいを両手で掴み引きちぎらんばかりに引っ張ったり、押しつぶしたりしはじめた。

 実際痛かったけど……なんだかその場では“痛いよ”という当たり前の抗議すら許されないように感じた。
 
「……まったく……なんちゅう乳だ………悪い乳だ……ほんとに悪い乳だ……」

「……あっ…」

 三島があたしのおっぱいを掴んで上に持ち上げる。
 思わずあたしはつま先立ちになっていた

「……んっ……」

「……感じてんのか? ……感じてんだろう? ……まったく、ちょっと揉んでやりゃあすぐよだれたらしてハアハア言い出しやがる……おいこらエロガキ……聞いてんのか? ……聞いてんのかってんだよエロガキ!」

「…………」

 あたしはおっぱいを持ち上げられながら、こわごわと三島の顔を見上げた。

「……いいんだろ? ……ええ? こんなふうに乱暴に揉まれるのがイイんだろうが……そうだろ? ええ? ……俺はこれまで優しすぎたからなあ……それじゃあ不満だったんだろ? ……え? ……そうじゃねーのか?」
 
  三島はそう言いながら今度はいつもみたいにやわやわとあたしのおっぱいを揉み始めた。

 いや、いつも三島はどんなふうにあたしのおっぱいを揉んだっけ?
 ……はっきり言って、そんなことはいちいち覚えていない。

  でもそのときの三島の手つきは妙に慎重で……なんだかいやらしかった

  いや、その、“いやらしかった”という表現が不適切なのは充分理解しているのだが、少なくともそのときのあたしはそんな風に感じた。
 
  そう思うと……不思議なもので、それまでただ恐くてしょうがなかった状況そのものが、なんだかいやらしいもののように感じられてくる。
 
「………ん………」

 なんだかまた、素でへんな声が出てしまった。

 三島はその声で調子付けられたみたいで、さらに念入りに、ねっとりとあたしのおっぱいを弄ぶ……って、なんだかいやらしいね。

 “もてあそぶ”って響き。

「……ええ? ……どうなんだよ? ……こんな風に……いつもの俺みたいに……優しく揉まれるのがイイのかよ? ……なんだよ……ほら……ほら……息が上がってきてるじゃねえか……どうだ? ……ええ? おい。……ほら……どっちがイイんだよ? ……こうやって優しくされるの方がイイのか? ……それとも……さっきみたいにめちゃくちゃに乱暴にされるのがイイのか……ほら、言ってみろよ」

 三島が好き勝手なことをあたしの耳元で囁きながら、おっぱいへのやわやわ攻撃を続ける。

 ここでこんなことに関して言及しておく必要があるのかないのかわかないけれども……三島は確かに冴えない男だが、声だけはとても素敵だ。

 なんというか……その、バリトンっての?
 そんな感じのイイ声なのだ。

 耳元で囁かれると……なんだか身体の奥がムズムズしてくる。

 いや、わかってるよ。
 そんな状況でムズムズしてくるなんてヘンだって。
 
 でもムズムズしてきたんだからしょうがないよね。

 またあたしは余計なことを考えていた……この状況でこんな事を言ってみるとどうなるんだろう、って。
 
「……ぜんぜん良くないよ……」あたしは言った。「……もっと、メチャクチャにしてよ……あいつの方が、ぜんぜん良かった。あんたのなんか、ぜんぜん感じないよ?」

 また三島の顔が素に戻る。

 次の瞬間、あたしはさっきとは反対側の頬を張られた。

 その次の瞬間、ブラウスとブラジャーを引き毟られていた。

 びっくりした……人間の力で、引き毟れるんだね、ブラジャーって。
 背中でホックがはじける音がした時は、背筋が凍りついた。

「いやあっ……」

 こうなるのわかってて、あたしってバカだなあ……って今から思い出してみるとつくづく思う。
 
「……そうか! わかったよ! メチャクチャにしてやる! メッッッチャクッッッチャにしてやるからな! 覚悟しろこのエロガキ!!」

  三島はあたしを壁に押し付けると、顎を掴んで口を開かせ、そこに丸めたブラウスの残骸をを無理に押し込んできた。

「むぐ、ぐ、ぐ」

「……大人しくしてろよ、お前がそうして欲しいって言ったんだからな……これはお前が悪いんだ……わかってるよな?」
 
  三島はそう言うと、スカートのホックを外す手間も省いてあたしのスカートを引きちぎり、膝で引っかかる布に足を掛けて一気に踏みおろした。


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