妹 の 恋 人 【24/30】
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あたし……もしくはわたしは、もうひとりの自分と背中合わせになり、わたしたちを取り囲む軟体動物の動きを、熱に浮かされたようにぼんやりと見ていた。
ぬめぬめ、ねちょねちょ……。
その生き物が出す、耳障りな湿った音に取り囲まれながら。
時折、そこからかたつむりの触覚のように突起が飛び出しては、あたし……もしくはわたしの乳首や、唇に……そして、下半身の、もっとも敏感な突起に吸い付いた。
両足に巻き付いた生き物の触手が、あたしたちの脚をそれぞれ大きく開く。
わたしとあたしは、まるで背骨で繋がっているシャム双生児だった。
あたしがその軟体動物の突起に分け入られ、どうしようもなく熱くなっているその核心を探り当てられると、わたしはのけぞり、泣き声のような声を出す。
「んああああっ……!」
「ううああああっ……!」
あたしが声を出したかと思いきや、お姉ちゃんがまた甲高い声を上げた。
「…………気持ちいいですかあ? 咲子さん?」
と、ぬめぬめした肉塊の渦が人間の言葉で喋る。
「…………あっ…………うっ……」
わたしは咲子だっけ?
それともあたしは貴子だっけ?
どうでもいいので、わけも分からず頷いた。
わたしかあたし、どちらかの脚の間が、止めどなくよだれを垂らしている。
自分で見ていても、とんでもなくはしたなかった。
もし自分があんなふうになっていところを誰か他人に見られたら、恥ずかしくて死んじゃう、とさえ思った。
しかし、わたしにそれを責めることはできない。
何故なら、それはあたし自身かも知れないからだ。
わたしだって、それとあまり変わらない恥ずかしい格好をとらされていた。
あたしは咲子が大股を開かされている前で、ベッドに這いつくばり、お尻を突き出していた。
お尻の後ろに、ぬめぬめとした気配を感じる。
「…………あっ、い、いやっ…………だ、ダメだって……そ、そこっ…………!」
ぬめぬめしたものが、わたしのお尻の間に侵入してくる
「………………好きなんでしょう?」
南野はどもらない。
あの薬には怪物に変身する作用と同時に、どもりを止める作用があるらしい。
「知ってるんですよ、僕たち。だって双子同士じゃないですか……ね」
「…………だっ……だってっ! ……そ、そんな……あああっ!」
後ろに、ぬめぬめしたものがじわじわ、じわじわと入ってきた。
わたしは目をきつく閉じてそれに耐えた。
さらに侵入したそれが、ぬめぬめと動きまわり、あたしの腰を盛大に左右に振らせた。
「ほら見てごらん……君の姉妹が……あんなやらしいことされて喜んでるよ」
「い……いやっ…………」
ぬめぬめした腕……というか触手が……わたしの目の前のもう一人のあたしの両手首にまきついて、その両腕を頭の上にたばねた。
ベッドの上でとぐろを巻いている肉塊の中から、ぬっとだ顔が出てくる。
南野の顔だった。
それはひとつではなく、二つあった。
ひとつはひろげられたわたしの脚の間に顔を埋めて、びちゃぴちゃといやらしい音を立てながら、吸い、ねぶりはじめる。
もうひとつは多分……あたしのお尻の後ろに移動して、舌を伸ばして……
うしろを舐め始めた。
永遠に続くかと思った。
このまま薬の効果が切れなかったらどうしよう……と、怖くなる。
あたしたち姉妹ふたりとも、狂い死ぬまでこのベッドの上で、二匹の軟体動物の融合体に責め倒されるのではないか、とさえ思えた。
わたしは軟体動物の身体の上に持ち上げられ、上半身をそりかえらせる姿勢で身を起こされた。
目の前のあたしも、向かい合うような形で同じ格好をとらされている。
わたしたちはお互いの顔を見た。
同じように頬を紅潮させ、汗をにじませ、目をとろんとさせ、口の端からは涎を垂らしているそれぞれの浅ましい顔は、まったく同じだた。
ほんとうに鏡を見ているようだ。
あたしたち姉妹は、とろけあって、からみあって、一つになろうとしていた。
南野兄弟と同じように。
「……あっ……やあっ………!」
入って来た……それも後ろに。
これまで誰にも、そこまでは許したことがなかった。
しかし、今は違った。
わたしは力を抜いて、リラックスした気分でそれを受け入れていた。
目の前のあたしの分身も、同じ様子だ。
がくがくと下半身を揺らし、歯を食いしばって、異物感に耐えている………
が、やがてすべてを受け入れたらしく、その顔は一種の敗北感をともなった、安堵の色に染まった。
二人の中に侵入したものが、ゆっくりと動き始めた。
「…………あっ……や、やっ……だ、ダメだよっ…………ダメだってばっ…………」
自分で言ったのか、咲子が言うのを聞いたのか、わたしにもわからない。
あたしは腰を揺すった。
顔の前に突き出されたヌメヌメとした軟体動物の身体の一部分を、自分から口に含み、吸って、噛んだ。
噛むだけじゃなくて、やさしく舐めた。
もう片方のわたしが同じようなことをしていたのかどうかは知らない。
もはやその様子を確かめる余裕はなかった。
さらに伸びてきた触手が、わたしの陰核をからめとり、さらにもう一本が前の入口に入ってきた。
あたし……もしくはわたし……の目から、涙がこぼれた。
口からは涎がこぼれた。
薬のせいだろうか。
とりあえずそういうことにしておこう。
目の前のもうひとりのあたしは、わたしたちをベッドの上で取り囲む巨大な軟体動物に対して、積極的に舐めたり、口に含んだりしている。
おぞましい眺めだったが、それを見ているとわたしもそうせざるを得なかった。
あたしたちのうちの片方は咲子といって、もうひとりは貴子という。
しかし、今はその違いがどんな意味を持つというのだろう?
広げられたあたしの脚の間に、もっと太い突起がゆっくりと入ってくる。
「はあっ………………あ、あ、あ、ああああああっ………………」
それはどんどん入っていって、あたしの背骨まで届きそうだった、長く、太いそれは、まるでそれ自体が意志を持っているかのように、あたしの中で蠢く。
何が何でも、わたしから快感をほじくり出し、めちゃくちゃにしようとでもしているように、それは体内を荒らし回った。
めちゃくちゃにされるなら、それはそれでいい。
目の前のもう一人のわたしも、めちゃくちゃになっているのだから。
そのまま何時間くらいそうしていただろうか?
あたしたち……わたしたちはそれぞれ、何十回と絶頂を噛みしめた。
いつ、それが終わったのかさえはっきり覚えていない。
気がつくとわたしたち二人は、汗まみれになって、なめくじ兄弟二人と同じベッドの上に、ぐったりと身を沈めていた。
シーツぐっしょりと湿っていたのを、今でもはっきりと覚えている。
正気に戻り、わたしたちはシャワーを浴びて、服を着た。
咲子も同じように服を着たが、ずっと俯いている。
わたしと目を合わせるのが恐いのだろう。
わたしはその時、咲子に暴力を振るうもりはなかった。
むしろ、はじめて…………咲子が可哀そうに思えた。
こんなことになったのは、何も咲子のせいだけではない。
わたしも責任の半分を負っている。
あのダブル南野が言っていたように、わたしたち姉妹はほんとうに、二人で一人の心と身体を共有しているのかも知れない。
だとすると、わたしたちに降りかかってくる災難はすべて……
わたしたちが双子として生まれてきたことから生じた運命だ。
……いやまあ、ほかの双子……わたしたちと南野兄弟のような双子以外が……こんな受難を続けているわけではないだろう。
しかし、わたしたち姉妹は明らかにそうだ。
これは認めなければ。
そして、そのせいでわたしから邪険にされ、無視され、罵倒され、時にはひどく殴られて……
まるで怯えた小動物のようになってしまった咲子を、そのとき初めてほんとうに可愛そうに思った。
「ねえ……」
わたしは咲子に言った。
「えっ…………」
咲子は一瞬、身を固くした。
殴られるか、良くてもこっぴどく、言葉を尽くして罵られると思ったんだろう。
「あの、あんたさ……違ってたら悪いんだけど……ひょっとすると、寂しかったんじゃない?」
「え……?」
「……わたしもあんな……大なめくじみたいな男とこんなことになっちゃったのは……自分でも信じられないけど、やっぱり寂しかったからだと思うんだよね…………あんたもきっと……そうだったんでしょ?」
「…………」
咲子は答えない。
「ごめんね……わたしは、あんたのお姉ちゃんなんだし、もう二度とこんなことがないように、咲子から目を離さないようにするね………………これまで目を離してて、ごめん」
「…………」
咲子は俯いたままだ。
わたしは洗面所に行き、そこにあった大きなガラスの灰皿2つを手に取って、それを自分のユニクロ製オレンジ色マフラーで包み、ぎりぎりと締め上げた。
それを手にぶらさげ、いまだベッドに寝転がっている南野兄弟のところまで大股で歩く。
二人が、ほぼ同時にわたしに気づき、ほぼ同時に半身を起こした。
「ねえ、実験しない?……わたしも、知りたいことがあるんだ」自分でも妙に冷静な声だと思った。「……セックスの快感に関して、やっぱり双子は目に見えない絆で結ばれているんだよね?」
わたしの問いかけに、両方の南野がほぼ同じタイミングで頷く。
「うん、確かにそうだったね。あの江田島も、それなりに作家としての才能はあったのかな? ……そのへんはちゃんと、小説で表現してたみたいだもんね…………確かにわたしたち、二人とも、すっごく、すっごく、すっごく気持ち良かったよ…………どっちがわたしで、どっちが咲子か判らなくなるくらいにね」
「…………」
ダブル南野は答えずに、お互いの顔をニヤニヤと見合わせた。
「……でも、わたしもわたしで、確かめたいことがあるわけ。その……『気持ちいい』ことは双子同士で共有できるかも知れないけど、『痛い』のはどうだろう?…………やっぱ、片方が痛いと、もう片方も痛くなるの?」
「…………えっ?」
南野のどちらかが何か言う前に、わたしはマフラーに仕込んだ灰皿をその片方の脳天に叩きつける。
期待していたように、一発目から血は出ない。
どちらかの南野は“ぐう……”と声を漏らすと、そのままベッドに頭を抑えてはいつくばる。
そのまま、もう一人のほうの南野を見た。
なんと驚いたことに……同じように頭を抑えて痛そうにベッドに倒れている。
「さ……咲子さん、お、お姉さんを……た、た、貴子さんを……止めてください」
南野(まだブン殴られてない方)が言う。
わたしはフルスイングで、もう片方の鳩尾あたりに灰皿を打ち付けた。
「ぐへっ!」
先にベッドで嘔吐を始めたのは、腹を殴られていないほうの南野だった。
面白くなってくる。わたしは自分が止められなくなっていた。
咲子の方に目をやると、真っ青な顔で洗面所の前に立ちつくしていた。
「ねえ…………あんたもやる?」
咲子に聞くと、彼女はぶんぶんと首を振った。
わたしはさらに、ゲロを吐いている南野の額に灰皿を打ち付けた。
今度は額が切れて、予想通り血が飛び散る。
もう片方の南野は、さすがに出血はしていないが、額を抑えてベッドの上で転げ回っていた。
わたしはマフラーの中のふたつの灰皿が粉々になるまで、交互に二人を打ち続けた。
いたるところに血が飛び散って、わたしも多少は返り血を浴びた。
実に、実に、実に、いい気分。最高。
やがて、マフラーの中の灰皿がほとんどガラスの粒になって、床に流れ落ちる。
わたしもさすがに、息が上がっていた。
ベッドの上で血塗れでウンウン唸っている二人の南野を見て、大いに満足すると……わたしは真っ青になっている咲子の腕を引っ張って部屋を出た。
唸っている大ナメクジ二匹を、部屋に残して。
二人とも死にはしなかったし、わたしが訴えられるようなこともなかった。
その意味では、かなりついている。
わたしはあの兄弟を殺す気だったのに、殺さないですんだんだから。