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【ホラー小説】呪い殺されない方法【5/10】

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「なーるほど……首の絆創膏はそーいうわけかあ……」

 とサダコ。
 もうかなり酔いが回っている。

「痛々しいだろ」わたしはあまり酔っていなかった。「でも、そんなの……聞いたことある? 幽霊が噛み付いてきた、なんて話、初耳だろ」

「いやあ、お腹に乗っかってきて首を絞められた、とか足首を引っ張られた、とかいろいろ、そーいう話はあるじゃん。ああ、ユーレイにレイプされた、って女 のヒトもいるみたいだけどね~……それはどうだか。単に欲求不満からきた妄想だと思うんだけど……全身にキスマークがついてたり、痣ができたりすることも あるんだってさ」

「……おれの場合も、そういう感じだ、って言いたいわけ?」

「あり得るかもよ……無意識のうちに潜んでいる、罪悪感の表れとか。あはは」

「それはないな」わたしは笑った。

「それはないよね」サダコも笑う。

「ただまあ……おれにしてみれば、生命に関わる問題だよ……もう少しで、殺されるとこだったんだぜ」

「そしたら、あんただってラクになれたのに」

「いや、おれは別にラクになんかなりたくない……別に苦しくないし……生きていたいんだよ」

 サダコが煙草に火をつけて、呆れたような顔でわたしを見た
 ああ、確かに。
 ムシのいいことを言っているのはわかっている。

「で……その子の幽霊を、祓ってほしい、とかそーいうわけ? ……さっき言ったけど、それ、ムリだから」

 サダコは二杯目のビールを半分ほど飲み干していた。
 まだ酔ってはいない。

「それは……」おれはまだ一杯目。でも、煙草は四本目だ。「道義的、道徳的にできない、ってことかな。それとも、スキル的にできない、ってことなの?」

「……いや、確かにあんたの言ってることは道義的にも道徳的にも、ほんっとハナシになんないけど……道義的とか道徳的とか、どうせあんた、そんなのどうで もいいでしょ? てか、スキルの問題とか、そーいう問題じゃなくて、あたし、お祓いとかしたことないし。おばあちゃんも見えるだけだったから……お祓い はできなかったんじゃないかなあ? ごめんね。アテが外れて。あたしを殺す?」

「……いや、それは……どうかな」

 まだ、生かしといてやる。

「非情なんだかそうじゃないんだか、どっちだんだろうね、あんた」

 どうせ、この女を怖がらせることなどできないのだ。
 幽霊たちが、わたしを怖がらせることができないように。

 しばらく沈黙の時間が流れた。

 サダコは二杯目のビールを片付けて三杯目を注文し、煙草を吹かしながら次のジョッキの到着を待っていた。
 視線はぼんやりと遠くを見ている。

 一体、このホールには何人の幽霊がいるのだろうか。
 直接的にせよ、間接的にせよ、誰かのせいで死に追い込まれ、彷徨っている幽霊が。

 わたしの背後のオバサン幽霊は、まだ俺の耳元で『死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!』と叫んでいるのだろうか。

 いや、わたしは死なない。
 死にたくはない。
 死ぬには人生は愉しすぎる。
 まだやりたいことが多すぎる。

 何とかならないものだろうか……わたしは黙ってサダコの横顔を見ていた。

 と、突然、サダコがわたしのほうに向き直る。

「お祓いはできないけど……あんたにぴったりの方法、ないこともないよ。完璧な方法じゃないけど」

「ほんと?」

 思わず、前のめりになってしまった。

「……いくら払う?」

「……いくらで教える?」

「……いくら払える?」

「……いくらが相場?」

 サダコの次のジョッキが来る前に、わたしたちは情報の値段交渉をした。
 わたしがいくらでこのたわごとを競り落としたのかは、秘密にしておきたい。

「…………で、どんな方法なの?」

「……まあ、簡単に言うと……」新しく来たジョッキに口をつけるサダコ。「幽霊を他人に押し付けるわけ。あんたを呪ってる幽霊を、誰かほかの人に押し付ける……どう? あんたみたいなゲスにぴったりでしょ?」

「……そ」余りに奇妙で、荒唐無稽な話だ。「……そんなことができるの? ……幽霊を他人に押し付ける? ……幽霊は、おれに怨みを持っておれを恨んでるんだろ? それを、何の関係もない他人に押し付ける? そんなことできるの?」

「それって道義的な意味で言ってんの? スキル的な意味で?」

 サダコは意地悪な笑みを浮かべて、わたしの興奮を楽しんでいる。

「もちろん……後者だよ。聞くまでもないだろ? で……なんで、なんでそんなことができるわけ?」

「……意外に思うかも知れないけど、幽霊がこの世をうろうろしたり、人に取り憑いたりするのって、あんまり生前の怨みとかムネンとかとは関係ないいみたいよ……ま あ、あんたの場合は特別だけど。おもいっきり恨まれるようなことしてるわけだから……まあそれはいいとして、ほとんどの幽霊は、誰かに怨みを晴らしたいとか、思いを伝えたいとか、そういう理由でこの世をうろついてるんじゃないの」

「じゃ、じゃあ……何のために?」

「みんな、さを晴らしたいのよ」

「憂さ?」意外な答だった。「なんだそりゃ?」

「わかる? ……日本には何で幽霊が多いか?」

 “わかる?”と言われても……わたしも幽霊は見るが、サダコほど幽霊に詳しいわけではない。

「いや……そもそも『日本は幽霊が多い』ってのも初耳だけど。他国に比べて、ってこと?」

「そう。それは、日本人の国民性が大きく、おーきく影響してんの」ビールをあおるサダコ。喋りがさらに滑らかになっていく。「日本人は基本的に、他人の幸福を心から喜ばない。喜ぶフリをするだけ。他人の幸福を、ひたすら妬むのが日本人。それだけならまだしも、自分が不幸に見舞われたときに、他人が自分と同 じ不幸を共有していないことを、リフジンだ、って感じるのが日本人。日本人は、自分が不幸だと、周りのみんなも、同じ不幸に引きずり込みたい、って考え る。たとえば……そうだなあ、わかりやすい例で言えば、ノーシを“死”と認めるか、ってことで、いろいろ論争があるじゃん……?」

「ノーシ? ……脳死のこと?」

「そう、それ。国がゾーキ移植のために、ノーシ状態の人間を“死体”と認めるかどうか、って話になったとき、別に国がそれを認めた結果、ノーシ状態にある 人が国の都合でバラされて強引にゾーキを取られる、ってわけじゃないのに、ノーシ状態の人間を家族に持っている人は、ノーシを“死”と認めることに反対する。『うちの子供は“死体”なんですか!』って感じで……よく考えてみればヘンだよねえ? ……不合理だよねえ……?」

「……うーん……」

 こういう話題はあまり得意ではない。

「別に、あんたんとこのノーシの家族を、ムリヤリ誰かが長生きするための“材料”にしよう、ってんじゃないことくらいは、家族にもわかってるわけで しょ? ……つまり、家族の本心は、こうなわけよ……『うちの家族がノーシ状態なのに、他人がこの制度のせいで健康になるなんて許せない!』……って感じ」

「それは、どうかなあ? ちょっと、穿った見方じゃないか……?」

「ウガってないウガってない。じゃあ、何で日本には死刑制度があると思う? あんた、こっちなら想像できるでしょ? ……たとえばあんたが捕まって、裁かれて、死刑になったとしても……あんたに殺された人たちの遺族は、一瞬はスッキリするかもしれないけど、別にハッピーになれないよね? ……なんで遺族があ んたの死を望むのか、といえば……自分の家族が死んだのに、あんたが生きてるなんて許せないからよ」

 “あんた”のところでビシっ、とサダコに指を突きつけられた。

「でもみんながみんな……そんなに醜い心の持ち主ってワケじゃないだろ?」

「人殺しのクセに何キレイ事言ってんのよ……誰の心だって醜いわよ。特に、死んじゃって幽霊になると、それが剥き出しになる……これはホントだよ。幽霊ってつまり、透明人間と同じだからね。あたしやあんたみたいに、特別な人間にしか姿を見られない。そして幽霊のやることは、もちろん法律に問われるわけ でもないし、警察だって絶対に捕まえられない。完全な自由だよ。誰にも存在を知られず、好き勝手に振る舞える、ってのは、ほんとうに完全な自由。誰だって 生きてるときには、いろんなことに縛られてるでしょ? ……法律はもちろん、世間体や、家族とかに……でも、そんなのから一気に解放されたとなると、どうな ると思う? ……どんな酷いことだってやるよ。どんなに無意味で、理不尽で、不可解なことだってやるよ……自分が楽しければ、それでいいの。“死んでる”っ てことは幽霊たちにとっては不満なことだけど、生きてる連中にいやがらせして楽しむ、ってのは、幽霊の皆さんにとって、とーっても楽しいことなの。って か、唯一の楽しみなの。何だってやる……幽霊になってこの世をウロウロしてる奴なんて、結局みんなそういう奴なんだって…………あっ」

 と、サダコがピタリと口をつぐむ。

「どうした?」

「あんたの耳元で喚いてたオバサンが、あたしのこと睨んだ」

 そう言うと、サダコはケタケタと笑い始めた。

 周りの客やホール係たちは、さぞ楽しい話題で盛り上がっていると思うことだろう……まさか、殺人と、日本人の心の暗部と、幽霊の話題でここまで楽しそうに笑っているとは思うまい。

「それと……幽霊たちを他人に押し付ける、って話はどうつながってるの?」

 そろそろ核心に踏み込みたいとこだ。

「だから、幽霊さんたちにしてみると……ほんとは呪い殺す相手は、あんたじゃなくていいの。誰だっていいの。今は、あんたに殺されたから、あんたんとこ に出てきてるけど……あんたを呪い殺すことができたとしても、ジョーブツなんてするわけないよ。あんたを呪い殺すことができたとしたら……幽霊のみなさ んは、自分のパワーを認識する……自分が人を殺せて、しかも今、幽霊なんだから、誰に咎められることもなく、誰から罰を与えられることもなく、それを繰り 返せることに気づくわけ。だから、手当たり次第に生きてる人間を殺し始めるわけ……怖がらせてノイローゼにして、自殺に追い込んだり……朝のラッシュ時 に、駅のホームでどん、と誰かの背中を押したり……生まれたばかりの赤ん坊の息を止めたり……」

「恐ろしいなあ……」

 理解できない話でもない。
 とくにわたしには。

「そう、みんなあんたと同類だよ」

 サダコが満面の笑みを浮かべた。
 そのとき、ぞろりと歯が剥き出しになる。

 
 そのきれいな歯並びは、あの少女に似ていなくもなかった。

 つまり、こういう事だ。

 自分が呪い殺される前に、誰かに怨霊を押し付けて、人を呪い殺すことの楽しさを幽霊たちに教えてやる。

 そうすれば、幽霊たちは無差別に人を呪い殺すことに取り憑かれ、自分を殺した奴を呪い殺すのを忘れる……そういうことらしい。

「でも、ちょっと待てよ。それってあまりにも……幽霊の連中ってのは間抜けすぎやしないか?」

「幽霊ってのは間抜けなんだよ……おっと」サダコが手を差し出してわたしの背後に呼びかける。「おばさん、気にしないでね……何もあんたのことだけを言って るんじゃないから。ところであんた、なんでそんなおばさん殺したの?」

「うーん……なぜかな……殺しやすかったから……かな」

「はあ」

「一緒に飲もう、つったら簡単についてきたし、独身だったし、身寄りもないようだし……まあ、そういうことになるかな……」おれは背後が……特に耳元が 気になって仕方がなかった。「なあ、まだおばさん、君のことを見てるのか?」

「うん、見てるよ。えらく怒った顔で……」

「ぞっとするよな」

「してないくせに……まあいいいや。あんたは殺す相手に対しては別にこだわりがないみたいだけど、それと同じよ。殺しやすい相手を狙って、殺す。幽霊だっ て、呪って効果がある人を狙って、呪う……たとえば、霊感が強かったり……特に臆病だったり……精神が不安定だったり……そういう人のほうが、自分たちの 存在を感じ取ってくれるし……追い込みやすいでしょ。子供のいじめと 同じよ」

「はあ……」荒唐無稽な話ではあるが、それなりに筋が通っていそうな気もする。「今、おれのうしろにいるオバサンや……この前、君と一緒にいるときに おれの後ろにいた舌出し女なんかも……実は、そんな感じってこと?」

「もちろん。だってあんた、その人たちのこと、ちっとも気にしてないでしょ。幽霊だって、怖がってくれないんじゃ……存在意義ないじゃん。あ、幽霊に“存在意義”ってのもヘンか」

「なるほど……幽霊のほうも自分に関心が向かないとなると、つまらない、ってことか」

「そ。ヤクザやウヨクダンタイや暴走族や、痴漢と同じ」

 確かに……理屈は合っている。

「その方法を使えば、確実に幽霊は追い払えるってことだね?」

「“確実”ってこんな話でオカシイと思わない? ……まあ、たいていは……いけると思うよ。さっそく試してみたら? ……今、あんたの後ろにいるオバサン とか、この前の“仲間由紀恵”さんとかに……」

 わたしにしてみれば、周りをうろついたり、たまにわたしを驚かそうとする類の幽霊どもは、どうってことはない。

 しかしまあ、試しにこいつらを誰 かに押し付けてみて、効果のほどを見てみる、というのは悪くない。
 せっかく、サダコにもそれなりの情報料を払う羽目になったわけだし……

 ああ、充分に試し てみる価値はある。

「でも……“噛みつき少女”のほうに、効果あるかな? ……あいつは露骨に、おれに襲いかかってきて、おれを傷つけた……たぶん、おれのことを殺そうと 思えばいつでも殺せるんだろう……手ごわそうだよな」

「さあ?」サダコが首をかしげる。「でも、やってみなきゃわかんないじゃん」

「あいつだけなんで、ほかの幽霊とは違うんだろう? 特に強い霊だ、とかそういうのか?」

「ちょっと待ってよ……あたし、別に“幽霊博士”じゃないんだからさ。何でもわかるわけじゃないよ」

「じゃあいいや……きみ個人的には、何でだと思う?」

 気がつくとわたしのジョッキも空になっていた。
 お代わりを注文する。
 サダコは横を向いて煙草を吹かしながらしばらく考えていたが……

 やがて何かひらめいたらしく、わたしに向き直った。

「わかった! ……その子の生前の性格の問題だよ」

「へ?」

「恐ろしく執念深くて、残忍で、陰湿で、陰険で、人が苦しむのを見て喜ぶタイプ。たぶん学校じゃあ、いじめっ子のリーダーになってるようなタイプ。そのま ま大人に成長したら……わざと三角関係を作って、男が揉めるのを楽しむタイプ。同僚にたちの悪い借金を肩代わりさせて、破滅させるタイプ。自分のせいで何人の人間がハメツしたり自殺する羽目になっても……ちーっとも気にしないタイ プ……そんな感じなんじゃない? ねえあんた! たまたまとはいえ、いいことしたね! ……あんたのおかげで、その子に死に追いやられるはずだった人間の何人かが、確実に助かったよ!」

 またサダコがケラケラと笑い出す。
 こっちはとても、調子を合わせて笑う気にはなれない。

「そういうのが……幽霊になると……マズいじゃないか。おれにとっては」

「なかなか手ごわいと思うけど……死にたくないならやるしかないじゃん?」

「ううむ……」

 困った。
 問題はそいつだ。あいつは手ごわい。
 ほかの幽霊は、本来ならどうでもいい。

「まあ、あんたを慰めるわけじゃないけど……案外、スンナリ行くかもよ」

「優しいね。慰めてくれるんだ」

 おれはサダコにもう一杯飲むように勧めた。

「ありがと。まあその子は、あんたとほとんど同じ性格なんじゃない? あんたもそうだったでしょう? 子供の頃から残忍で、陰湿で、陰険で、人が 苦しむのを見て喜ぶタイプだったでしょ? いじめられたことなんて、ないでしょ? 人をいじめたことしか、ないでしょ? だから今、そんなふうに成長しちゃったんでしょ? ……その子も今は殺されたばっかりであんたに執着してるかもしれないけど、矛先をちょっと変えてあげたら、ダレカレなく無差別に 呪って、歯型をつけまくったり殺したりするのに、すぐに夢中になっちゃうよ」

「……そうかな?」

「きっとそうだよ……って言っとくわ」

 サダコのジョッキがやってきた。わたしももう一杯、ビールを注文した。

「で、具体的には、どうすれば幽霊たちを他人に押し付けられるんだい?」

「聞いて笑っちゃダメだよ」ビールの泡に口をつけながら、サダコがクスクス笑う。「かなーりロマンチックだから。それに、あくまでウチのおばあちゃんが 言ってたことだから」

「笑わないよ」

 もちろん、笑う気分ではなかった。

「まずは、その人が死んだ場所……つまりあんたがその人を殺した場所にもう一回行く」

「はあ」

 それは簡単だ。
 毎回同じ場所だから。

「そして、殺した人のことを思い出す」

「うん」

 それも簡単だ。
 ご親切にもみんな、幽霊になって自分の顔を見せつけに来るのだから……。

「さらに、その人のことを思い出しながら……を流す。これをスポイトか何かで吸い取って、塩水と混ぜる……そして、それを幽霊を押し付けたい人に飲ま せる……これだけ」

「それだけ? 涙? 塩水?……塩水ってのは、どれくらいの割合の塩水? 食塩でいいわけ?」

「そのへんは、テキトーでいいんじゃない?」

「はあ………」

 わたしは椅子の背もたれに、ぐったりと身を預けた。
 なんというか……これは……“金運を呼ぶブレスレット”レベルの話だ。

 効果のほどがどうこうと言うより……あまりにもバカバカしい。

 そして……わたしにとっては致命的な問題がある。

「……その」サダコに聞いた。「きみのおばあちゃんは、その方法を試してみたのか?」

「うん。うちのおばあちゃん、恐ろしいほどキョーレツな霊に呪われてたからね……一人は知らない若い女。あと、先に死んだおじいちゃんにも……理由は教えてくれなかったけど」

「君のおばあちゃん……二人から呪われてたのか?」

「さあね。詳しいことは子どもだったから知らない……まあ、あんたに比べりゃ、どーってことない数でしょ?」

 確かにまあ……それはそうだ。

「で、おばあちゃんは、“おまじない”を実践したわけだ……誰に押し付けたの?」

「あたしのお母さん」

 サダコがそう言って、軽くゲップをした。

「えっ」

「嫁姑モンダイでね。いろいろあったんじゃない? お母さん、今も精神病院にいるよ。たぶん、一生出られないんじゃないかなあ……まあ、あたしもお母さ んのこと、キライだったからいいんだけどさ」

「はあ………」

 効果のほどに関しては……
 サダコの話を信用するならば……少しは期待できるような気がしてきた。

 しかし、やはり致命的な問題は残っている。

 
 わたしは物心ついてからこの方、一度も泣いたことがないからだ。


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