ホ ラ ー 官 能 小 説 「 電 動 」【2/4】
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夫にバイブレータを見せられて数分後、わたしは全裸でベッドに身体を横たえていました。
性的な行為を前提に、夫にまじまじと全裸を見られるのはそれが初めて。
結婚してもう3ヶ月になるというのに、自分が全裸であるという事実、その姿を夫が、性欲をもって眺めているという事実が、わたしの羞恥に火をつけます。
何だか、ものすごくいやらしいことをしているような気がして、わたしの顔は熱くなり、思わずベッドの上で身をよじってしまいました。
両手で乳房を庇い、腰をねじって股間の茂みを夫の視線から隠します。
結婚前、荒れた生活をしているときに、お金で買われた男たちは、こんなふうに恥ずかしそうに振舞ったら喜んだなあ……などと思いながら。
「隠さないで」
夫が言います。
「でも……」
夫は手にしている、バイブレーターのスイッチを入れました。
バイブレーターは薄いクリーム色で全長20センチ、直径はだいたい4センチ半。
刀のように反り返った形状が、異様に生々しくわたしの目に映ったことを覚えています。
かつての買春時代に、客である男達の何人かにバイブレーターを使われたことはありました。
男たちは悦んでいましたが、わたし自身はそれほどいいものとは思えませんでした。
男達は、これを魔法の杖かなにかと勘違いしており、これを使用すると女は自動的によがり狂うと考えていたようです。
バイブを出し入れしながら、
「……ほーらこんなにずっぽり奥まで入ってる……」
「バイブを締め付けてるよ? こういうの、使われ馴れてるの?」
「ほら、ほら……こんなに感じて……もう本物が欲しくなった?」
などとAVから借りてきたような卑猥な言葉を投げかけてくる男たちを前に、わたしの心はどこまでも醒めていました。
しかし、今バイブレーターを手にしているのは、私の愛する夫です。
バイブレーターの振動音を聞いているうちに、わたしの膝から脚の付け根までの部分がだんだん熱くなってくるのを感じました。
夫とつきあいはじめて結婚まで半年。
そして、このセックス抜きの結婚生活をはじめて4ヶ月。
そのときはじめて気が付いたのですが、10ヶ月もの間、誰とも身体を重ねることのなかったわたしのなかでは、知らないうちにセックスへの欲求が手の施しようもないくらいに膨らみ、膿を出していたようです。
まるで夫を蝕み、奪っていった癌細胞のように。
バイブレーターの先端が、わたしの膝小僧にちょん、と触れます。
「ひっ……」
それだけでわたしの全身がわななき、体中に鳥肌が立つのを感じました。
夫はそのまま、バイブレーターの先端をわたしの肌に当てながら、ゆっくりと膝小僧から内股まで、線を引くように動かしていきます。
「……んっ……あっ……」
早くも、わたしの口から声が漏れました。
夫は何も言わず、バイブの先端でわたしの身体をなぞり続けます。 しかし内股までくるとお腹のほうに、おへその下あたりまでくると、乳房の間に、そして乳輪の周りを一週すると、首筋に……そんな風に夫は巧みにわたしを焦らし続けるのです。
一体、この人のどこにこんなえっちな部分があったのだろう、そう思うと、何故かますますわたしの身体は熱くなりました。
「あっ……やっ……!」
バイブの先端が、わたしの乳頭の先に触れたのです。
わたしはベッドの上で、ビクン!と身体をくねらしてしまいました。
と、夫の指がわたしの脚の間に分け入り、湿りを帯びた肉の部分を目指します。
「ん……んんっ……だ、だめっ……」
「……すごいよ、ものすごく濡れてるよ……」
夫が低い声でいいます。
いつもの優しい夫ではない、いやらしい夫がそこに居ました。
わたしは、これまで知らなかった夫のそんな一面を知り、悶えながらもますます夫のことが愛おしくなりました。
「ばかっ……」
照れ隠しに、そんなことを言ったように思います。
「もっと……気持ちよくさせてあげるね……」
夫の攻撃は少しずつ激しくなっていきます。
バイブレーターの振動によりそそり立った両方の乳頭を、夫の舌が交互に嬲りました。
「はっ……やっ……」
その間、脚の付け根ではバイブレーターが、蜜を溢れさせた裂け目の周りを行ったり来たりします。
「んんんんっ…………」
夫は器用にもバイブを持っていないもう片方の手で、濡れた中にわたしの快楽の中枢器官を探り当てました。
「はあっ…………あああああっ!!」
思わず近所に聞こえそうなくらい大きな声を出してしまいます。
「ほら……ここ……?」
夫が耳元で囁きながら、先端を的確に捉え、まるで蜜を塗り混むようにして動かします。
「……いやっ…………ああっ……ああっ……だ、だめっ……そ、そんなっ……」
わたしはほとんど泣きそうな声を上げました。
「…………君は、こんなにいやらしかったんだね」
夫が耳元で囁きます。
「……あ、あ、あなただって……」夫の顔を恨めしく睨みつけながらも、わたしの口からは新たな嗚咽がこぼれ落ちます「あっ……やっ……いい……」
「いい……?」
「うっ……うんっ……んっ…………んんんっ」
恥ずかしくて死にそうだったけど、わたしは顔を縦に振っていました。
「……これを、入れて、欲しい?」耳を舐めるように近づけられた夫の口が、いやらしい言葉を囁きます。「……ねえ、入れて……欲しいの?」
「……うっ……くっ……い……れ……入れてっ……」もはや泣き出しそうなわたしは、夫に訴えました「おねがいっ……入れてっ……」
「しょうがないなあ……いやらしい子だ……」
夫はそう言うと一旦、わたしから離れました。
そして、わたしの足下まで移動し、わたしの膝を立てます。
これまでの経験上、夫が何をするつもりなのか、即座に察したわたしは思わず大きな声を出しました。
「い、いやっ! ……そ、それだめっ!」
しかし夫は強い力でわたしの両膝を左右に開きます。
いつもは性的なことに淡泊で、柔和な夫が、いやらしく蜜を溢れせたわたしの裂け目をまじまじと見つめています。
わたしは、まるで生まれて初めて男性にその部分を見られたときのように、いやそのとき以上に、燃えるような羞恥を全身で感じました。
「お……おねがいっ……み、見ないでっ……」わたしはまともに夫の顔を見ることもできず、蚊の鳴くような声で言いました。「……ねっ、ねえっ……は、恥ずかしいからっ……お願いっ……」
「……きれいだ……」
そう呟くなり、夫はわたしの脚の付け根に顔を埋めます。
「い……いやあっ……!」
夫の舌先が先端を探り当てるより早く、わたしは甲高い声を上げて背を弓なりに反らせました。
夫はいやらしい水音を立てながら、溢れ返っていたわたしの蜜を舌ですくい、また塗り込め、吸い上げます。
わたしは自分が、恥知らずなほど大きな声を上げていることに気づき、思わず自分の手の平を噛んでそれを必死に押さえ込みました。
あっという間に、わたしは絶頂まで追いつめられましす。
せり上がってくる炎のような快感を、自ら解放しようとしたその瞬間、夫の口がわたしの裂け目から離れたのです。
「あっ! そ、そんなっ……ああっ……」
わたしは追いすがるように夫に手を伸ばしていました。
夫にこんな意地悪でいやらしい部分があったなんて……そしてこんなにも、わたし性的な快楽を求めていたなんて……わたしの頭はぼーっとして、もはや理性を失っていました。
「……お願い…………それ…………入れて……」
わたしの指は、いつの間にか蠢動するバイブを指さしていました。
夫はいやらしい笑みを浮かべると、わたしの両脚をさらに開き……先端を濡れそぼった入り口に、ちょん、と当てます。
「……はううっ!」
バイブレーターの振動がまるでわたしを串刺しにするように、脳天まで駆け上がりました。
腰がさらに深い挿入を求めて、円を描くように動きます。
「……いやらしい……いやらしいよ……」と夫「いやらしい君は……もっと素敵だよ」
「……はや……くっ……いれ……てっ……」涙が一滴、目の端からこぼれ落ちるのを感じました。なぜなのかは、今でもよく判りません。「……おね…………がいっ……」
ゆっくりとバイブの先端が侵入を始めました。
わたしの内側が、性器を模して作られたその人工物をきつく締め上げます。
「……も、もっとっ……お、奥……ま……でっ……」わたしはバイブの侵入を助けるように、主人の手に腰を押しつけていました。「はっ…………はやくっ…………はやくっ……!」
「いくよ……」
「ふうっ!!!」
バイブレーターが一気に奥まで挿入されます。
バイブを締め上げるわたしの内側から、快楽の蜜が止めどなく流れるのと同時に、わたしの目からも熱い涙が流れました。
これまでに数え切れないほどの男と身体を重ねてきたわたしでしたが、そうした中で、これほどまでの快楽を感じたことはありません。
肉体の快楽と精神の悦びが、これほどまでにはっきりと結びついたことはありません。
笑わないで下さい。
これが私たちの初夜だったのです。
夫のバイブの使い方からは、わたしの肉体への気遣いを感じました。
それは、わたしの快楽だけを考えた献身的なものでした。
夫はわたしにさまざまな体位を取らせ、バイブレーターでわたしを愛しました。
夜明けまでに、わたしは7回、絶頂を迎えました。
■
昼の間のままごとのようなささやかな夫婦の生活に、バイブレータによる夜の生活が加わり、わたしははじめて夫と、完全な夫婦になれたような気がしました。
恐らくバイブレータを発明した人は、男の勝手な征服欲だけを満たすことだけを考え、このいかがわしい代物を産みだしたのでしょう。
しかし、わたしはその名も知らぬ発明者に感謝しています。
世界中に居る、わたしたちのような何千、何万の男性のインポテンツに悩む夫婦が、カップルが、この発明のおかげでお互いの愛をさらに深いものにすることができるのですから。
くれぐれも笑わないでください。
これはわたしの本当に正直な気持ちなのですから。
わたしと夫は、人類の英知が産みだしたこのバイブレーターというすばらしい道具を得て、毎夜のように愛し合うようになりました。
昼間は、まるで中学生カップルのような二人。
その二人が、夜にはこのバイブレーターを用いて、まるで獣のように愛し合うのです。
しかし……。
そんな幸せは長くは続きませんでした。
何故なのでしょう?不幸な運命というものは、幸せが最高潮に熟れ、完全に成就するのその瞬間を待っていたかのように、襲いかかってきます。
性器としてはもう男性の役割を失っていた夫の身体の奥で、その病は密かに進行し、あっという間に夫の命を奪っていきました。
病名は前立腺癌……。
皮肉としては出来過ぎの病でした。
発見されたときには夫の癌はもう手のつけられないほど進行していました。
唯一良かったのは、夫があまり長く苦しまずに逝ったこと。
充分にお別れをすることはもちろん、わたしの心が夫が死につつあることを受け入れるよりも先に、夫は逝ってしまいました。
わたしは文字通り、夫が残したこの家に取り残されてしまいました。
未亡人という言葉は、非常に残酷な意味を持つ言葉です。
ほんとうに愛する人を亡くした者がひたすら待ちわびるのは、自らの死によって愛する人とあの世で再会を果たすこと。
わたしにはもう何も考えられませんでした。
人とも会わず、ほとんど外出もしない日々が半年ほど続きました。
しかし人間というのは不思議なものですね。
そんな風に心はこの世界との絶縁のみを求めていても、身体はひとりでに生きようとします。
時間が来ればお腹も空くし、ご飯を食べればトイレにも行きたくなる。
毎日お風呂に入らないと、身体も汚れて気持ち悪くなる。
服は毎日着替えないといけないし、着替えたなら洗濯もしなければならない。
汚れてきた部屋に居ると気が滅入ってくるので、部屋の掃除もしなければならない。
そんな風に勝手に生き続けようとする身体が、半ば強制的にわたしに“生活”を再開させました。
こんなにも悲しいのに、こんなにも寂しいのに、それでもわたしの心を裏切って生命を維持し続けようとする身体が、本能が、憎らしくて仕方がありませんでした。
そんな日々を送っていた、ある夜のことでした。
わたしはいつものように、誰も居ない家で、お風呂に入っていました。
しんと静まり返った家の中は、わたしの寂しさに拍車をかけます。
お風呂から上がっても、ベッドに戻っても、もう夫はいないのです。
わたしがその絡みつくような孤独を洗い流すように、シャワーを浴びていたその時、わたしの身体に、奇妙な感覚が走りました。
「……………………えっ?!」
左の乳首に、見えない“何か”が押しつけられました。
そして、その“何か”が、小刻みに振動を始めたのです。
【3/4】につづく
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