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【日記】 こんな客がいた 〜がんばれ、息子さんよ〜


つい最近、私はチェーン店のカフェのバイトを初めた。

そして、今日こんなお客さんがいた。


机の上のど真ん中に置かれた青い紙。
あ…これ、模擬テストの結果表だ……
と、瞬時にわかる。私も数年前に受けたからだ。

上座にお父さんがドンと座り、下座にはお母さんと中学生ぐらいの息子さん。
息子さんは背中を丸めてじっと、お父さんの話を聞いている。
お父さんは、怒鳴り散らかしているわけじゃないが、確実に説教しているのがみてわかる。


なんでこんなところで説教なんか……
家でやればいいのに………


と、思いながらも、
私は覚えたばかりの中間バッシングというものをしにいかなければならない。
中間バッシングは、食べ終えた食器を片付けたり、お水のおかわりを提供する仕事だ。

私は、水と氷の入ったピッチャーを片手に、
そのテーブルに行くか行かないかとあたふたしていた。

そんな様子をみた店長が「迷うぐらいならいってきな」と背中を押し、
私はピリついた空気のなかに乱入する。


「おっ…お水のおかわりはいかがですか…?」


今まで話していたお父さんも黙り、一瞬シーンとする。

「あっ……じゃあ…」

と、お母さんは息子さんに目配せをし、息子さんは自身の空のコップを私に出した。

一滴も入っていない空っぽのコップ。

私は、コップにジャァーーと水を注ぎ、
なるべく音を立てないようにと気をつけながら、そっとコップを息子さんの前におく。

下を向いて黙っていた息子さんは、
私の方をみて、ぺこりと頭を下げた。

私も息子さんをみて、目にグッと力を込める。

がんばれ、息子さんよ!

と、思いを込めて見つめる。

そして、すぐに我に帰る。

「あ、では…失礼します」 

私は一歩下がって頭を下げ、そのまま店長のほうに足早に戻った。
お父さんは、私がいなくなったあとも、またすぐ口を開いて説教をしているようだ。

息子さんは、満杯になったコップに控えめに口をつけ、ごくりと飲んでいる。

説教は続いている。


私の想いは伝わったのだろうか。

いや、伝わろうが伝わらないが、
彼の空っぽのコップに水を注げただけで満足だ。


彼の喉は、いまきっと潤いでいるのだから。



カフェには、いろんなお客さんがくる。

いろんな人生を送ってきた人たちが、
今日のこの時間この場所にきて、
それぞれ何かを思いながらコーヒーを飲んでいる。

そう思うと、なんだか素敵だしロマンチックだ。


今は、覚えなきゃいけない仕事がいっぱいありすぎて、店にいるお客さんたちを優雅に見渡している暇はむろんないのだが…。
(仕事に慣れてきてもそんな暇はないか)

ただ、お客さんたちに安らぎの時間を与えられたら…と思う。


まだ、バイトは始まったばかり。

頑張って続けていきたい。





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