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Day 13 : 誰か夕方っぽいタイトルを教えてくれ

「だってよ。」

石田が言う。事務所に差し込む光は緩い。ちなみに今の三猿の季節は夏か、春に差し掛かる頃である。筆者が一番好きな季節である。

「もう夕方やんけ。」

『三猿に時系列という概念はないのか。』
ハルがPパッドに文字を表示する。ちなみに、ハルはいつもどんなレイアウトでPパッドに文字を表示させているのか、気になっている方もいるかもしれない。ここで今、設定すると縦書きでできる限り巨大な文字をPパッドに表示させている、ようである。フォントも操作可能なので、多彩な表情で言葉を表示していることになる。(このような思いつきで設定するやり方を、ライブノベリングと筆者は勝手に命名する。横文字でかっこいい感じがとても良い)

「ストーリーという概念もないな。ついでにフィクションという概念もない。」
石田がいつものソファーに寝転がったまま言う。少々コイツは寝すぎである。しかし、「寝転がったまま言う。」と書けばいいので記述するのが楽なキャラクターと言えなくもない。

前回、朝の記述から急に夕方になっているが、筆者が夕方に小説を書いているのだから、小説の場面も夕方になっていいはずである。どうぶつの森と同じシステムが小説世界にも働いていると考えていい。とはいえ、季節まではリンクしていないが。

筆者の意識のままに小説を書いたらどうなるのだろう。(ここで、小説の記述的空間から、筆者の随筆的思考空間に文章が突入する。[しかし、こういったメタ的な記述をあえてするのも、この小説だからこそである。])

私は小説を書くのが苦手である。だから、メタ小説を書くことにした。というか、「小説」という既存の形式を無視して、自分が書ける小説っぽいものを書くことにした。それは、思いつくままに書けるものを書くことだ。

本来、小説というのはストーリーに沿って展開するが、書いた人がその通りにものを考えたとは限らない。むしろ、小説に従って小説世界に合わせて自分の思考をコントロールしていると思われる。だから、小説家は書斎に籠ったり、自宅とは別のマンションの部屋を借りたり、独身だったり、訳もなく散歩したりする。しかし、私は小説家ではなく、ただの「書く人」なのである。そうであるから、小説世界よりも私の身辺が優先される。本当は『三猿ベイベー』を書かずに一本エッセイを仕上げたくなるときもある。朝の場面を昨日は書きたいと思っていたが、今日は夕方の場面を書きたくなる。気まぐれで、時系列も無視される。人間の思考とはこういうものだ。

強いて言えば、私が書くことができるものとはこういうものだ。それに『三猿ベイベー』というタイトルをつけてみた。それだけだ。

私なりに考えてみれば、これはキャラクター付きのエッセイではないかと思う気がしてくる。三猿とそれを取り巻く彼らが強いキャラクターでいてくれるからこそ、「小説」世界が成立している。もし、彼らのキャラクターが、名前が、日ごとに変わっていったら……と想像する。それは短編集だろうか、それとも一つのストーリーとして認識できるだろうか。ちょっと想像してみる。それもそれで面白そうだ。

「はあ、夕食行くか。」

石田が、ソファーに寝そべったまま言う。少々こいつは寝すぎである。

「ん?」
舞がスマホから顔を上げる。舞がいつもスマホを見ているのは、無料で広報活動ができるのはSNSぐらいだからである。結局ネタを考える時間よりも、スマホを見ている時間の方が長い。とは言え、彼女のフォロワーは大して多くはない。

「おーい!」
トントン、と事務所のドアが叩かれる。光乃の声だ。

「なんやの。」
舞がドアを開けると、光乃が鍋を持ってドアの前に立っていた。朝に来ていた着物は着替えたのか、また違った柄のものを着ている。

「うふふ〜」
光乃は笑いながら鍋を事務所のローテーブルに置くと、また「コンロ持ってくるねー」と事務所を出て行った。するとまたしばらくして「おーい」と声がする。舞がドアを開けると、光乃がカセットコンロを持ってドアの前に立っていた。

「コンロぐらいだったら、片手で持ってドア開けられるやろ!」
と舞は一応ボケを拾っておく。

光乃はまた、ニコニコしながら鍋の準備を始める。
「この事務所何があるかわからないからさぁ〜、火を使ったら爆発したりして。」

「フラグめいたことを言うな。」石田が寝転がりながら、本当に心配しているのかチラチラと光乃の様子を見る。

『念の為、防御態勢』ハルが、Pパッドを盾のように体の前に立てかける。

「だから、フラグっぽいことすんじゃねえよ。」石田が体を起こしてハルに突っ込む。

光乃はカセットコンロに火をつけようとするが、「カチッ、カチッ」と何度も音を立てても火がつかない。

「ちょっ、お前本気で事務所爆発させに来たのか?」

「違うよ〜。三猿が爆発オチだったら大ブーイングよ。」

「それこそ、炎上。」
ボクが横から余計なことを言う。

「ちょっしゃあないなぁ、アタシがやるで。」
なかなか火をつけられない光乃を見かねて、舞が代わる。

「だからフラグっぽいことをすんじゃねえよ。」石田が文句を言いながらヒヤヒヤと見守る。舞は、コンロのスイッチをカチカチといじる。しかし、一向に火がつかない。

「無理や、ハルちゃんやってみ?」

『了解。ここは俺に任せろ。』

「だから、フラグ……」

ハルは長い手をPパッドの傍から伸ばす。防御態勢のまま、カセットのスイッチを回す。しかし、一向に火がつかない。

『次は、ボク』

「はぁ?」
ボクはゲームの手を止めて、カセットコンロを操作する。しかし、一向に火がつかない。
「次、団長でしょ。」

石田に目線が注目する。
「お前ら……。」
「どうぞ。」

光乃がコンロを回して、石田の方にスイッチを向ける。石田はワナワナと怒りを眉間に浮かべてコンロのスイッチを回す。

カチッ、と音がすると、青い火がゆらゆらと光を放って浮かび上がった。

「普通につくのかよ!」
「わあ〜」
光乃が拍手をして立ち上がる。
「ベタすぎひんか?」
舞は頭を掻きながら鍋をセットする。
「いいのよ、ベタな逆は人類の共通財産だから!お皿取ってくる。」
光乃はドアの方に駆け寄って、また事務所を出て行った。
「今度はちゃんと自分でドア開けろや!」


しばらくして、光乃が片手で持てる量の皿を持って「おーい!」と事務所のドアの前で叫んだことは言うまでもない。

と言うわけで三猿の夕餉のシーンを記述してみたのだが、一向に話が進まない。なので、ここで便利な小説的技法「回想」を使わせてもらう。回想、とは言うまでもなく時系列を飛躍させる手法である。夕食を食べているシーンでも、メタ的な記述で場が白けたとしても使える。

鍋が開いて、白い湯気が立ち登る。色とりどりの具がしんなりして鍋の出汁をよく吸っている。

「美味しそう〜」光乃がまた拍手をして、みんなの分をとりわけ始める。光乃が鍋将軍になるのは特に、三猿の主張が強いメンツにとっても異論はないようである。天然な彼女をコントロールする方がめんどくさいようである。

とりわけられた具を食べながら、舞は回想する。(くどいようだが、小説的技法としての回想である。)

いつの間にか、三猿と光乃、この事務所の空気に馴染んでいるのを感じる。ついこの間までは、こんな場所で自分がふざけて、ツッコんで、鍋を一緒に食べていることなど想像できなかった。

初めて会った光乃は、世間離れしたただのお嬢様に見えた。石田はサングラスをかけているただのニートか、ヤクザのなり損ない。ボクは学校に行かずにひたすらゲームをしている不登校の少年。ハルはコスプレが好きな不思議な少女。そんなふうに見えた。

『お前、何しにここに来たんだ?』

石田と舞のファーストコンタクトはお世辞にもいいものではなかった。

「ツッコミにきたんやで、暇やから。」

舞は、ポケットから丸めたチラシを出して、石田の目の前で広げる。
そこには、『世界を変えたい奴募集。』と書いてあった。

「アンタ、本当に世界なんて変えられると思っとるの? アハハ」
舞の嘲笑を、石田はソファーに座ったまま、ただ聞いていた。

「アタシね、笑いで世界を変えられるって思ってたんや。」
舞は勝手に来客用のソファーに倒れ込むように座った。その時は、二日酔いで、寝不足で、体も頭も重かった。使い込まれたソファーに体を預けた瞬間、ソファーに蓄えられた空気が抜け出た。

そのとき、自分がどこか夢の世界にいるのではないかと錯覚した。

だから、舞は、ただ話した。


……続く。

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たくみん
最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!