物忘れ日記 ときどき猫とか本とか映画とか:Vol. 8 無声映画観賞会

月に一度のお楽しみ。7月の「無声映画観賞会」の演目の一つは、その愛らしい姿から「アメリカの恋人」と呼ばれたメアリー・ピッグフォード主演の『雀』。1926年の作品である。メアリー・ピッグフォードは、リリアン・ギッシュと並ぶ、創成期の映画界で活躍した女優。そして、最も成功した女優の一人である。

映画の舞台は、町からかなり離れた沼地のそばにある農園。ここで暮らすグライムス夫妻には息子が一人いて三人家族のように見えたが、実は、密かに9人の孤児たちを農園で働かせていた。孤児たちには満足に食事も与えられず、冷徹なグライムスに監視されながら、つらい毎日を送っていた。そんな日々に希望をもたらしてくれる人。それが、孤児たちの中で年長のモリー、演じるのはメアリー・ピッグフォード。モリーは、母親のように孤児たちの面倒をみながら、常に神様の存在を伝え、明日へ希望をつなげ、日々を送っているのだった。

驚くべきは、10代のモリーを演じるメアリー・ピッグフォードがこのときすでに30歳を過ぎていたということ。演じることが女優の仕事とはいえ、違和感がまったくない。もともと、154cmという小柄な体格ということもあるが、セットで使われる家具をわざと大きくしたり、孤児たち以外の共演者には体格がいい人を選んだりという、10代の少女に見せるトリックもあったらしい。


モリーを演じるメアリー・ピッグフォード(もちろん、左です)

今回も、活動写真弁士・澤登翠さんの語りを堪能した。上の写真でメアリー・ピッグフォードが抱っこしているのは、身代金目当てに誘拐されてきた裕福な家庭の赤ちゃん。この赤ちゃんの声を、実に表情豊かに、生き生きと語られたのには感心した。

それにしても、グライムス夫妻の農園のすぐそばにある底なし沼は、不気味のひとこと。なにもかもを飲み込み、ひきずりこんでしまう。まさに、出口のない不幸の連鎖。愛情の欠片もない日々を象徴しているようだった。そして、この救いのない底なし沼は、現代のアメリカにも存在している。

救いのない、不気味な底なし沼こそが「もしトラ」を生むのではなかろうか。

やはり、現代に続く問題や状況にリンクする何かを見せられるのが、名画の名画たる由縁であり、製作から100年近く経っても上映される理由だろう。

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