『もやい.next』展、まとめ。
「有料」とありますが、基本的に全て無料で読めます。今後の取材、制作活動のために、カンパできる方はよろしくお願いします。
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『もやい.next』新聞記事まとめ
『もやい.next』終了しました
『もやい.next』展は、8月21日に終了しました。来てくださった方、気にかけてくださった方、ボランティアに来てくださった方、関わった方々全ての人に感謝したいと思います。ありがとうございました。
もやい展終了後、8月24日に発熱、25日に発熱外来にて新型コロナウイルス感染が判明しました。それから療養期間を経て、今は症状は軽いものの、後遺症と思われる症状に悩んでいます。そのため、レポートが遅れました。レポート自体は遅れましたが、その分、夢の中にいるようだった2週間のことが整理出来てきたように思います。
期間中は展示会場近くに合宿所を借り、2週間に渡って社会とは隔絶された空間で過ごしました。展示会場に出勤し、夜は合宿所でみんなで酒盛り。裏方で手伝ってくださった浪江から避難中の堀川文夫さんと今野寿美雄さん、朗読劇を行なった南相馬から避難した井上美和子さん親子、そんな方々と、横浜でありながらどっぷり福島に浸かって過ごした感じがします。
今回の『もやい.next』の、特に見どころと思った点を紹介します。
『next世代』との融合
まず一つは、「next」の文字でわかるように、震災当時子供だった若い世代の作家の参加です。最も若い作家は2000年生まれ、小学校5年生の時、福島県国見町で被災しました。
当時中学生で、浪江町から避難した作家も参加しています。南相馬出身で、震災後、福島の海を描き続けてきた若い作家もいます。福島出身ではないものの、子供の頃に東日本大震災を体験し、ニュース映像などが強烈に残っている作家も参加しています。それぞれがそれぞれの切り口で震災と向き合ってきました。そうした若い世代が、これまでのもやい展作家に加わったことは、とても大きなことだと思います。
会場は1階と2階の2フロアに分かれ、next世代とシニア世代とで分かれるような形になりました。1階のnext世代は、メッセージ性の強いものから極私的なものまで、僕から見るととても新鮮な感性を感じました。その中に、主宰の中筋純さんの強烈かつ美しい写真とインスタレーションが、いいアクセントとして溶け込んでいたと思います。
再現された富岡第二小学校
1階には、2020年に解体されてしまった富岡第二小学校2年2組の教室が再現されました。
また、教室の様子を再現するだけでなく、担任であった「まさみ先生」を探し出して取材を行なったところも良かったと思います。先生は福島県内にいますが、今も夜ノ森の桜は見ることが出来ないといいます。原発事故により、修了式も出来ずに全国に散らばってしまったあの時の子供たちは、今どこにいるのか。この展示をきっかけに、何か同窓会のような形へ繋がっていけば素晴らしいと思うのですが。
全長5mの回遊するクジラ
1階には小林桐美さん制作の巨大な和紙の鯨が登場しました。全長5mの鯨を天井から吊るし、周囲を坂内直美さんが描いた南相馬の海で埋め尽くし、鯨が常磐の海を回遊しているかのような空間を生み出しました。
これはアイキャッチとして最高で、しかも強烈なメッセージ性があったと思います。「汚染水放出反対」。この地球は人間だけのものではない。人間の勝手で、これ以上この地球を汚してはならない。海は生命の源であって、ゴミ捨て場ではない。
お客さんへの説明の中で、気を使って「処理水」と話す仲間に、「ここでは汚染水って言っていいんだよ」というと、ホッとしたような表情を見せたのが強く印象に残っています。
シニア世代によるハードコアな2階フロア
2階はシニア世代の空間となりましたが、1階に比べてハードコアだったと思います。next世代の表現よりもより直接的な作品の数々は、いつものもやい展のような強烈な熱量を発揮していたようにも思います。濃かった。
黒く塗りつぶされたフレコンバッグに込められた想い
2階の濃い作品の中でも、ジャスミンこと金原寿浩さんの、全長20mはあろうかというフレコンバッグの仮置場を描いた作品は、ハードコアなフロアの象徴でした。そしてその真っ黒に見えるフレコンバッグの中には、牛やランドセル、町の記憶である祭りの山車など、町民の財産だったものが描き込まれています。大切な財産が、原発事故によって「放射性廃棄物」とされてしまったのです。その切なさ、悲しさを、金ちゃんは浪江町出身の歌人、三原由起子さんの短歌と重ね合わせて表現しました。
会期が残り2日となった8月20日に、金ちゃんの作品と三原さんの朗読と歌、ファン・テイルのギターとが融合し、素晴らしいパフォーマンスアートへと発展しました。
『木霊』
その先には、中筋純さん、安藤栄作さん、金原寿浩さん、僕の4人のアーティストが共演した「木霊」の空間がありました。原発事故後、泣く泣く浪江町の自宅を2019年に解体した堀川文夫さん。そしてその敷地に残った大楓が、ついに今年のGW明けに伐採されることとなりました。
「木霊」のブースで上映されていた、中筋純さん撮影制作のムービー。
4人のアーティストが、現場に足を運んで実際にこの楓とふれあい、そしてそれぞれの作品が出来上がりました。何も示し合わせてないのに、見事に共演出来たと思っています。
避難指示解除された土地は、住んでいなくても固定資産税が課せられます。今は減免措置があって6分の1の金額で済んでいますが、それも時が経てば通常に戻ります。先祖代々の大切な土地を取っておきたいが、住まないのに固定資産税を払うことは、子供たちの世代に負債を残すことになります。それを避けるためには、土地を売らなくてはなりません。しかし宅地として売るためには、その土地を更地にしなくてはなりません。行政は、放射能で汚染された家の解体費用は負担しても、門扉や庭木などの解体、伐採の費用は出してくれません。つまり、土地を手放すためにお金が要るのです。更地にした後も、その土地の草取りなどの管理は自分でするか、お金を払って管理会社にやってもらわなくてはいけません。土地が売れるまでは、それがずっと続きます。その土地を国か東電が買ってくれ、そうお願いしたところ、「放射能で汚染された土地は買えない」と言われたそうです。汚染したのは誰なのか! 誰が、先祖代々の大切な土地を、住めない土地にしたのか!
様々な葛藤を経て、堀川さんは大楓を伐採する決断をしました。そんな堀川さんの想いを、写真家と彫刻家、造形作家、絵本作家の4人で表現できないか、大楓が浪江のあの土地で生きた証を残せないかーーそうして出来上がった空間が、「木霊」でした。
僕は4/30と5/1に、大熊、双葉を取材し、その時に浪江の大楓も取材してきました。写真を撮り、直接触り、木の鼓動を感じ、簡単なスケッチもして、身体中で感じて制作にあたりました。今回の「もやい.next」に出した作品の中で、最も自信を持って見せられるのはこの作品です。これが、中筋さんの映像、安藤さんの彫刻、金原さんのデッサンと融合して、この空間は素晴らしいものになったと思います。
チェルノブイリと福島
そんな「木霊」の空間を経て、チェルノブイリの子供たちの絵、そして今回のもやい展招待作家、ウクライナ出身のMariko Gelmanさんのブースが一番奥に登場します。
この空間は、最初は左側のスペースには真っ白で何もありませんでした。ワークショップを終えた後、その紙が貼り出され、暗い絶望から未来への希望へと続く空間が表現されました。
Mariko Gelmanさんは、母親の胎内にいるときにチェルノブイリ原発事故が起き、被曝しました。子供の頃から体調不良が続き、周囲からは精神病とみなされ、入退院を繰り返したといいます。20歳の時に甲状腺疾患が原因であることを知り、24歳で摘出手術を行いました。そんなウクライナでの入院生活をヒントに生み出されたのが、「Transparency」という作品です。病院で眺めていたガラスブロックの中に、自分が生涯飲み続けなければいけないホルモン剤の殻を入れて、「目に見えにくい障害」を表現しようとしたといいます。その作品は、ウクライナ国内で病についてなかなか語ることが出来なかった人々の声を引き出すキッカケとなりました。
Mariko Gelmanさんの作品は現在ウクライナのキエフにあり、戦争のため持ち出すことが出来ません。そこで、7月末に来日し、日本で新しく「Transparency Japan」を制作することになりました。もやい展主宰の中筋純さんの写真や、Marikoさんの写真、薬の殻、そして、昨年甲状腺がんを発症し手術をした福島出身の子からのメッセージ、薬の殻を詰めました。もやい展の直前に、Marikoさんとその子は直接対面しています。そして、もやい展の会場にも足を運んでくれました。
「原発は悪くない」
展示期間中、Marikoさんのブースに掲げられたワークショップでの作品に、「福島第一原発は何にも悪くない 悪いのは地震」という言葉が書き込まれました。目撃した人によれば、それは子供に見えたと言います。原発事故が起きたとき、彼はおそらくまだ幼稚園にも上がっていなかったと思います。それから、どんな経験をし、何を学んで、どんな思いでこれを書いたのか。話をしてみたかったです。少なくとも、彼はこの展覧会に足を運んでメッセージを残しました。それは素晴らしいことです。
また、「会社員」と書かれたアンケートには、今関心を寄せてるのは「家族の幸せ」とした上で、「原発再稼働賛成派」と書かれたものもありました。この人とも、誰も言葉を交わしていませんが、話をしてみたかったと思います。関心を寄せている「家族の幸せ」が原発事故によって壊された時にどう思うのか、話し合ってみたかったと思います。ただ、ここまで見にきてくれたこと、それには本当に感謝しています。
横に広がる「もやい」
今回の『もやい.next』は、お盆という時期や新型コロナウイルスの蔓延もあって、来場者数はこれまでと比べても圧倒的に少なかったです。横浜市教育委員会、横浜市芸術文化振興財団、神奈川新聞、ウクライナ大使館など様々なところから後援を受け、多くの新聞社やテレビ局が報道、そして関西テレビの密着取材を受けたにもかかわらず、話題になった割には来場者数はイマイチでした。
しかし、ここまで書いてきたように、ただの美術展ではない、多くの強いメッセージが込められていたと思います。そもそももやい展とはそういう展示なのだけど、それでも今回は特に社会へ向けたメッセージ性が強かったと思います。
もやい展と、小児甲状腺がんに罹患した子とを繋いでくれたのはOur-Planet-TV代表の白石草さんであり、Mariko Gelmanさんとを繋いでくれたのは、イベントで「ほんじもよぉ語り」を披露した南相馬から避難した井上美和子さんと関西テレビの宮田輝美Dでした。もやい展が、いろんな縁を繋いでじわじわと横に広がっていくことを実感しています。
もやい展終了後の脱力感、そしてLong Covid、つまりコロナ後遺症の影響もあって、1ヶ月以上が過ぎた今でも虚脱状態が続いています。通常運行に戻せるまでもう少し時間がかかりそうですが、これからも福島と関わり続け、原発事故が解決するときまで(つまり死ぬまで)描き続けようと改めて感じました。
皆さま、本当にありがとうございました!
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