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【2023年10月17日、福島取材その2 中間貯蔵施設エリアの海岸へ】

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<続き>

 出発予定の朝8時半、鵜沼さんにダイニング大川原が閉店していたことを伝えると、ショックを受けていた。「双葉町で居酒屋でもはじめようか」と話していた鵜沼さんにとって、東電社員と帰還者を合わせて1600人はいる大熊町でも3年持たなかったというのは、かなりショックだったようだ。

 鵜沼さんの運転で双葉町役場へ。9時前には到着し、そこで入域許可証を受け取る。ここでは、9時半に東京新聞の山川さんと東大名誉教授の鈴木譲さんと待ち合わせることになっていた。少し時間的に余裕があったので、役場の人に、6月には解体され更地となっていた寺内前阿弥陀堂がどうなったか聞いてみた。「教育委員会が管轄です」ということで、教育委員会の方へ。

 「寺内前の霊園近くの阿弥陀堂が解体、再建されたと思うんですが、本尊である阿弥陀如来坐像がどうなっていたか、知っている人はいますか?」

寺内前阿弥陀堂(2021年10月)

 寺内前阿弥陀堂は、2020年に初めて見た。かつての浪江の國玉神社のように、斜めに傾いたまま、何とかワイヤーで固定されてかろうじて倒壊せずに建っていた。ネットで調べてみると、創建807年の1200年以上の歴史を持つ建物で、震災前は観光名所の1つとして双葉町のパンフレットにも掲載されていた。にもかかわらず、震災後はその存在はどのメディアにも取り上げられず、僕も目の前を通って初めてその存在に気付いた。本尊の阿弥陀如来坐像について聞いたのは、2012年の調査では「現況は不明」とされていたからである。

 教育委員会によれば、阿弥陀堂が解体された折に中に入っていたものは全て双葉中学校に運び込まれ、新山城址の麓にある自性院がそれを管理しているという。教育委員会では把握出来ておらず、自性院の方に聞いて欲しいとのこと。ただ、自性院さんも帰還したわけではないので、いついるかはわかりません、ということだった。

 「再建したっけ?」と教育委員会の方が首を傾げていたが、何故そうした反応があったかは午後になって知ることになる。

 とりあえず、いつか自性院に行かなくてはと思いながら外へ出ると、ちょうど山川さんが双葉駅前に着いたところだった。鈴木譲さんは後からたらちねの人と一緒に来るという。そこで初めて、いわきの市民測定室たらちねの水藤周三さんも来ることを知った。5人全員が一台の車に乗り込み、バリケードで各々が身分証を提示して中へ。身分証を提示すれば誰でも入れるわけではなく、事前に申請が必要だ。

 双葉町民、東京新聞記者、東大名誉教授、市民測定室スタッフ、言うだけ番長の絵描きが揃って何をするかというと、中間貯蔵施設エリアの細谷海岸にて、海水と地下水を採取して測定しようという企みだ。その場所は、爆発した1Fの1号機からは北に約2km、6号機からはわずか1.3kmしか離れていない。1Fの南側では東大の小豆川勝見さんが地下水の測定などを行なっているが、おそらく北側では、ここが最も1Fに近づける海岸だろう。

福島第一原発の排気筒が見える。「倒壊の恐れ」がいわれ、デマだデマじゃないと不毛な空中戦がネットで繰り広げられたが、結局「倒壊の恐れ」があり、短く切断された。遠隔操作で全て行う予定だったが、うまくいかずに人力でやらざるを得なかった。
減容化施設。ここで様々なものが燃やされ、「減容化」される。
汚染水タンク。
汚染された木々。こうしたものも全て「放射性廃棄物」だ。しかし、原発敷地境界でのこの有刺鉄線の物々しさよ。
ここを進めば…

 ここに来るのは今回が5回目だったと思うが、3回目(2020年)に訪れた時と比べて、もっと1Fに近いところまで行けるようになった。新しくテトラポッドを運び込むために、ダンプでも近づけるように道が作られ、以前よりも2、300mほど南に行けるようになった。岸壁のすぐ側にも行くことが出来、そこからは地下水が浸み出していた。ここがそうなったというのは何ヶ月か前に知っていたが、9月5日に改めて自分で見て、ここで海水と地下水を採取して測定したらどうかと思い付いたのだった。

1Fが見えてきた。この日はとても天気が良く、今まで以上に大きく見えた。
左に見えるテトラポッドを運び込むために、崖が削られ、より1Fに近づけるようになった。

 20リットル入るポリタンクを5人で手分けして運びながら、岸壁を見て少し驚いたことがあった。9月5日に来た時と比べて、一部の崖が大きく崩れていた。あれから40日ほどの間に、この地域に大きな地震は来ていない。記憶では、震度3程度の地震が2回くらいあっただけだ。つまり、その程度の地震で崩れるほど、この崖は脆いということだ。今、こうして地下水を採取しているときに地震が来たら…日常的に起きうる震度3程度の地震でここまで倒壊するのであれば、もしかしたら死ぬかもしれない、と少し恐怖した。

2023年9月5日の1Fから2kmの崖。
2023年10月17日の1Fから2kmの崖。わずか40日ほどで崩壊が進んだのがわかる。

<続く>


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