七月の蝉

雲を染める夕陽が記憶にあるものよりもずっと濃かった
夏が来ていた

目線を下げると、アスファルトに蛙のひからびた死体が落ちていた
風は生ぬるく、手に提げたビニール袋は夕光を吸収してオレンジ色になった

風はぬるく
ゆっくり通りすぎる
僕はシャツの襟元に汗がしたたり落ちるのを感じた

街路樹を通りすぎると、反応した一匹の蝉が音を立てて飛び立った
蝉はクリーニング屋の大きな看板の裏に飛び込んだ
あたりは虫の声と車の行き交う音で溢れていて、その蝉がまた鳴き始めたかどうかは分からなかった

ライトを付けた車が一台、道を行き過ぎたが、他の車はまだ灯りをつけていなかった

コンビニで買ったアイスクリームの袋から浮き出た水滴がビニール袋にはり付いていた
僕はその水滴を指で掬った
水滴は僕の体温でぬるくなった
僕はその指を口に含んだ
おはじきの味がした
涼しかった

アスファルトの上に、蝉の死骸があった
油蝉が、脚を上向きにしてたおれている
僕はサンダルの底でその油蝉を踏んだ
枯れ枝を踏んだような音がした
さっき飛んでいった蝉のことを思い出した

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?