あふたーだーく
街にはリズムがあって、それが果てしなく感じられるときがある。耳鳴りが凪いでからふたたび鳴り始めるその間のことでもある。
誰かが日本語でないことばを話す。僕はそれに耳を澄ませる。
リズム
故郷の街ではすべてが透明だった。そこでは空に無数のビニール傘が浮いている。嵐のあとには跡形もなく消え去った。最初からなにもなかったかのように。
雨がふれば数インチの川があちこちにうまれる。僕らはその川を越える。誰かがそれを越える。僕にはそれがわかる。島国の甘い匂いがする。それは日常であって、いずれ乾期が来る。僕にはそれがいつなのかわからない。廂の陰の野菜たちの予感だけがある。それが来ることは既に決まっている。ただそこに街がある。
日が暮れる。
野良犬がいた。彼らは下を向いてなにかを探している。彼らは人群れに入り込んでいく。
電灯のそばにいる人は透けていた。その人はじっと地面を見つめたままでいる。影は重ならない。空は電光に照らされている。
老人が目を閉じて歌っていた。片手をこちらに差し出したまま、微かに動くこともない。
遠雷
部屋に戻ると、そこには僕がいた。僕はベッドに横になり、寝息を立てている。胸がしずかに上下する。
僕はゆっくりと椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?