数字でとらえる日本の香り文化。これまでと、これから。
立冬も過ぎ、冬の訪れを感じるこの頃です。最近ではなかなか見られなくなりましたが、源氏物語でも登場する藤袴が終わり、そろそろ寒椿がきれいな季節です。日本には美しく豊かな四季と自然があり、古来よりそれを愛でる香り文化が育まれてみました。
日本の香り文化は、仏教や花鳥風月など、インドや中国の渡来の文化に影響を受けながら、恵まれた四季や自然、そして平安貴族や武家の美意識によって独自に育まれてきました。この日本の香り文化の歴史について、少し振り返ってみたいと思います。
1.日本の香り文化の歴史
日本の香り文化の歴史は飛鳥時代に遡ります。この時代に仏教が伝来し、奈良時代には全国に広がります。仏教と共に渡来したのが、白檀や沈香などの香木です。正倉院宝物として収蔵されている蘭奢待も沈香(黄熟香)です。またインドや中国では仏像には白檀が使われおり、それらも渡来しました。
平安時代には、奈良時代の渡来文化から、公家や貴族を中心とした日本独自の国風文化が栄え、香粉末を混ぜ合わせ、練り上げたお香『薫物 (たきもの) 』が広がります。薫物の指南書といわれる『薫集類抄』には平安初期から中期までの薫物調合が記載されています。平安初期には賀陽親王(794~871)、藤原冬嗣(775~825)、滋野貞主(785~852)、源公忠(889~948)などすぐれた薫物の製作者があらわれます。平安王朝以降天皇家や貴族は薫物を独自に調合し、それぞれの調合書は『薫方秘要集』や『宸翰薫物方』にも記され、写本などが現存しています。
この時代の香りは、源氏物語にも登場するお部屋薫きとしての薫物や、衣類に香りを焚きしめる『薫衣香』など、今のルームフレグランスや香水のように使われていました。特に、平安末期に広がった『六種の薫物 (むくさのたきもの) 』は、日本の四季に合わせた香りの使い方として、現代にも受け継がれています。この時代の貴族たちの四季や自然を愛でる美意識は、現代の日本人の意識の土台になっているとも言えますし、1000年以前より、香りを日常に取り入れた生活文化は、世界的に見ても特筆されます。平安時代は『薫物文化』ととらえることができます。
その後、武家が実権を執るようになり、幕府が鎌倉に移ります。この時期に中国の北宋・南宗から花鳥風月の考え方や、禅宗などの様々な文化や工芸技術、そして唐物が渡来します。この影響もあり、この時代は一木を愛でる香木文化が花開きます。曹洞宗の開祖道元禅師も熱心に香木研究をしていたとされます。鎌倉時代末期に婆沙羅大名として活躍した佐々木道誉は、香木の収集家として百八十種名香を残しました。平安時代は『薫物文化』、鎌倉時代は『一木文化』とわかりやすく対比する事も出来ます。
その後、都は再び京都に移り、鎌倉武家文化と平安の公家文化が融合し、さらには北宋・南宗の文化や唐物を取り込み華やかな北山文化が生まれ、そしてそのアンチテーゼとして日本独自の侘びさびなどに通じる東山文化が生まれます。佐々木道誉の残した百八十種名香は足利八代将軍義政に受け継がれ、『香道』が生まれます。香道は公家の三條西実隆と、武家の志野宗信が始祖となり、その後御家流、志野流の二大流派として発展していきます。香道は『古今伝授』の役を三條西実隆が担っていたこともあり、和歌と香木が融合し、日本の文化や美意識が凝縮された芸道といえるかもしれません。そして、この2人によって『花散里』、『夕日雨』、『花たちばな』など六十一種名香が選ばれたと言われています。
室町末期には、伽羅、羅国、真南蛮、真那伽、佐曾羅、寸聞多羅の6つの香木の木所を体系化した『六国』が生まれます。そろって六国の名を見せるのは『香道秘書』(1594年)からです。この頃1575年には『香十』も香道具師として暖簾をあげることになります。
安定した時代の江戸時代には、さらに香道が体系化され、香りを識別する酸味、辛味、甘、苦、鹹味の『五味』の考え方が生まれ、『和漢香之記』(1471年)に記されています。そして四季の唱歌に合わせ香木を当てはめていく様々な組香が生まれました。冬には『初春香』、春には『都春香』夏には『菖蒲香』、秋には『星合香』などです。香道は庶民にも広がり、1700年代は香道が最も発展した時代でした。源氏物語を題材にした『源氏香』が生まれたのもこの頃です。大枝流芽、藤野専斎、江田世恭など優れた香人が活躍しました。江戸時代は『組香の文化』ととらえる事もできます。
その後明治時代になると、文明開化によって舶来の文化が珍重され、日本の文化や芸道は軽視されました。この時代、西洋から香料とアルコールを混合した香水が渡来し、一気に広がりました。1872年には日本初の洋風調剤薬局として『資生堂』が誕生します。その後は日本独自の香り文化というよりは、西洋の影響が強くなり、その関係性の中で新たな香りが生まれてきました。香水をお香に取り込んだ『香水香』などはその一例と言えましょう。明治以降は日本独自色と、西洋の文化や技術を取り入れながら発展していきます。従って東西の香り文化が融合した『融香の文化』とも言えるかもしれません。
2.数字でとらえる日本の香り文化
さて、日本の香文化史を振り返ると、『六種の薫物』、『六国香木』など「六」でくくられている事が分かります。何故「六」なのか。日本文化の中の「六」を問う歴史的視点から、日本の香り文化をとらえ直し、そして将来に向けて新たな香り文化を創っていく、そんな講座をオンラインで開催することに致しました。外来の香木だけではなく、日本の歴史や日常の中で使われてきた固有の『和香木』にも焦点をあてていきます。『日本の香力を識る。和の香文化史を香りとともに』。香りの歴史を新たな視座で体系的に学び、そして体験する機会となりますので、是非お気軽にご参加下さい。
YOU TUBE動画による講座案内
https://www.youtube.com/watch?v=TCAMl6lJsPM
3.『座香十オンライン講座 日本の香力の真髄を識るー和の香文化史を香りと共にー』
趣旨と特色
・日本の香文化1500年の歴史を4時代、4領域、4テーマに凝縮い、シリーズ構成した4回連続講座。
・なぜ『六種の薫物』、『六国香木』なのか。そして最終回は日本の和木に着目し『六樹和香木』の提案をいたします。
・各種の香木、薫物の香材と、電子香炉(リース)をセットして講座前にお届けします。聞いて、触れて、五感で感じて納得できる、新たな形のオンライン講座です。
講座・カリキュラム
第一回『和の香文化入門(仏教文化と香り)』
2020年11月22日(日) 14時~15時30分
・仏教と共に「香木」伝来。沈香、白檀とは?
・仏の香とは?供香、焼香、塗香、合香、聞香とは?
・正倉院御物『蘭奢待』伝説とは?
・日本文化の中の「六」とは?
【香体験】香木沈香の聞香 (電子香炉リース)、焼香、塗香
第二回『六種の薫物入門(平安王朝の美学)』
2020年11月29日(日) 14時~15時30分
・王朝の雅び「薫物」とは?王朝文化の核として感嘆の広がり
・香で描かれた『源氏物語』、香が語る真実とは。
・『六種の薫物』とは?
【香体験】『六種の薫物』(電子香炉リース)
第三回『六国香木入門(室町後期からの香芸道)』
2020年12月6日(日) 14時~15時30分
・沈香、白檀と『六国』とは。
・伽羅、羅国、真那伽、真南蛮、寸聞多羅・佐曾羅を知る、感じる。
・『香道』とは?『組香』とは?その発展史。
【香体験】香木『六国』聞香 (電子香炉リース)
第四回『六樹和香木入門 (現代、そして未来への香の可能性)』
2020年12月13日 14時~15時30分
・和香木とは?歴史文化の中の和香木の発見。
・和香木『六樹』を知る、感じる。
・『六樹和香木』とは?
【香体験】『六樹』の聞香 (電子香炉リース
募集人数 20名
形 式 zoomを利用したオンラインライブ講座。当日ご都合が付かない
方はビデオ動画の受講も可(ライブ放映後1週間)
締め切り 11月16日(月)
講 師
【香文化史基幹講義】
稲 坂 良 弘 (香十元社長、香文化研究家)
早稲田大学演劇科卒業。劇団文学座、(財)現代演劇協会を経て、舞台、テレビの劇作、脚本家、CM制作に。1982年『香道米国公演 (於ニューヨーク国連ホール、コロンビア大学、UCLA等) 』をプロデュース。以降、国内外への香文化の発信活動に。テレビ、ラジオ出演多数。『香の伝道師』と呼ばれる。香老舗香十の元社長。現㈱日本香堂ホールディングス顧問。著書に『香と日本人』(角川文庫)
【和香木、精油研究講義】
谷 田 貝 光 克 (東京大学名誉教授)
東北大学理学部化学科卒業、同大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。米国バージニア州立大学科学博士研究員、メイン州立大学科学博士研究員。農林省炭化研究室室長、同森林総合研究所物活性物質研究室長、同森林科学科長、東京大学大学院農学生命科学研究科教授、秋田県立大学木材高度加工研究所教授、同研究所所長、香りの図書館館長を歴任。現NPO法人農学生命学研究支援機構理事長、グリーンスピリッツ協議会会長等
(受賞)
「日本農学賞」、「読売農学賞」、「香り環境賞」、「科学技術庁官賞」、「寺田寅彦記念賞」
(著書)
『文化を育んできた木の香り』、『森林の不思議』(現代書林)、『香りの百科事典』(編著、丸善)、『木のふしぎな力』(文化出版)、『ひとのくらしと香りを訪ねて』(フレグランスジャーナル社)
【香道・聞香】
丸山堯雪 (御家流香道師範)
実践女子大学卒業。御家流香道21世三條西堯山宗家に師事。若くして堯雪の名を頂く。後に22世三條西堯雲宗家、23世三條西堯水宗家に師事。米国、フランス、ドイツ中国等海外香席も多数。御家流香道柳水会師範として、「香道教室」、「座香十オンライン講座」講師。第一線の香道人として香文化の啓蒙活動に尽力している。
『座香十オンライン講座 日本の香力の真髄を識る』の申し込みは、Peatixにてお願いいたしております。1回から4回通し受講までお気軽にご参加下さい!
様々な香り体験ができる『座香十』の詳細は以下にてご確認下さい。
https://www.koju.co.jp/thekoju/index.htm
運営会社は創業445年の『香十』が行います。