個性派ぞろい!布をまとった木目込人形の招き猫―ニッポンのヒャッカ第17回―
エナメルの皮やスエード、プリント柄の生地が、ぷくっとした丸みのあるボディによく似合う。パッチリと丸くて大きな瞳は、愛らしさと癒しのまなざしそのもの。
大きな鈴はまるでアクセサリーのよう……。
10センチほどの小さな体ながら抜群の存在感を放つその正体は、柿沼人形店が手がける江戸木目込人形の「招き猫」だ。
そもそも招き猫といえば、陶器のつるんとした質感がほとんど。
布でつくられた招き猫は少ない。
現在、東京に5社ほどある木目込人形の工房の中でも、江戸木目込人形を手がける柿沼人形では、昭和25年の創業以来、現在3人の伝統工芸士が手づくりで人形製作にあたっている。
もともと雛人形五月人形など、節句人形を長年手がけてきた柿沼人形だが、伝統技術を生かしながら、「多くの方が江戸木目込人形を手にする機会を増やしたい」という思いから、まったく新たな木目込人形の制作に挑戦、誕生したのが、この招き猫シリーズだ。
柿沼人形の木目込五月人形
招く手に引き寄せられるように、一目見た瞬間、誰もが心を奪われてしまう招き猫たち。その生みの親でもある柿沼人形の、常務であり伝統工芸士の柿沼利光さんは言う。
「元は京都で始まった木目込人形が江戸で量産されるようになり、地域の名がつき『江戸木目込人形』と呼ばれるようになりました。人形の原型となる型は粘土でつくるので、独自性を出しやすいのが木目込人形の特徴です」
粘土での原型づくり
もともと木目込人形とは、人形のボディに筋を彫り、その人形をぴったりとすき間なく布で包み込み、布の端を筋に押し込むことからその名がついた。胴体の形がそのまま人形のフォルムになるので、原型を粘土でつくることで違いを出しやすく、人形の個性を生み
出すことができるという。
型から抜いて乾燥させ、筋を入れ……一般的なものでも完成までには、少なくても2、3週間はかかる。
「土台に筋を入れる『筋彫り』は、どのように布を包むかを決める重要なポイントです。下地がしっかりしていないと、いくら上に布をかぶせても処理が難しくなります。
筋の入れ方でも出来栄えに大きく影響します。その為、どこに筋を入れれば綺麗に表現できるか、出来上がりを想像しながら筋彫りを行います。」
見えない部分に手間がかかっているのも、木目込人形ならではと言える。
木目込作業の様子
招き猫の丸みのある部分の木目込作業
同じ型でも生地でまったく「別人」に!
一方で見える部分。
人形に着せる生地でも、さまざまな表現ができる。
「うちには100種類以上の型がありますが、さらに生地の組み合わせで、いろいろな表現ができます。特に節句人形の場合は、十二単など、着物の重ねを表現しますから、重ね技法で繊細さを表現したりする場合もあります」
同じ型でも生地次第で、まったく印象が違う人形ができると柿沼さんは教えてくれる。
生地選びの様子
「木目込みで特に難しいのは丸みのある部分です。
いかにしわのないように布を処理するかで出来映えが変わります。招き猫の手の部分などがそうですね。溝には糊をひいていますが、金糸が織り込んである布などは固いため、綺麗に仕上げる上では神経を使います」
生地でさまざまな個性を表現できるだけに、布は西陣織をはじめ、各産地の一級品を使用したり、加工が難しい革なども使うなど、こだわりも惜しみない。
人気の招き猫シリーズの猫たちも、ハイカラなスエードの衣装をまとう子もいて、同じ型でも、まったく「別人」。個性豊かなかなりのオシャレさんたちである理由にも納得する。
しかも、衣装の色においては、赤は「生命力・無病息災」、黒は「魔除け・厄除け」などのように、「風水」の意味も込めているという。
招き猫たち。色によってさまざまな風水の意味を持つ
加えて、猫たちの顔は、とにかく今ドキ。
なかにはまるで‟まつエク”をしたような、目力のある美人さんっぽい子もいれば、かわいい男の子のように見える子も。
聞けば目はスワロフスキー、鈴はパワーストーンを取り入れているものもあるというから驚く。
小さいから並べても邪魔にならないし、何しろ金運、幸せパワーは強力そうで、見れば見るほどコレクションしたくなるから、海外でも人気だというのもわかる。
こうしたデザインセンスはどこから生まれるのだろう。
「デザインは、たわいもない会話からアイディアやヒントを得たりしています。
人形はあげる方、もらう方、その人形とともに育つ方などがいる場面に飾られるものですよね。そうした方々のことを考えると、雑な仕事は絶対にできない。
私たちの人形が、癒しや和みの場にいることが、やりがいです」と柿沼さん。
ギフトにも好まれる理由は、型くずれしないことなど、扱いやすさもあるだろう。
しかしそれ以上に、招き猫はもちろん、包まれた布からぬくもりが伝わる木目込人形たちの穏やかな雰囲気に、誰もがほっこりとするからに違いない。
幸せのシチュエーションに佇む姿こそ、柿沼人形の木目込人形たちには一番似合うのだ。
柿沼人形:公式サイト