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江戸っ子の粋を染めあげた「梨園染」の手ぬぐいーニッポンのヒャッカ第15回ー

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「うちはもともとゆかたの染め生地屋でした。そのため、うちの手ぬぐいの生地は他の手ぬぐいと違って、ゆかた仕様の、丈夫で目が細かい生地なのです」

 ここは日本橋。
 手ぬぐいとゆかたの製造卸の老舗で、「梨園染」と呼ばれる染物ブランドを手がける戸田屋商店だ。
 「梨園」とは歌舞伎界を示すことば。「梨園染」というネーミングは戸田屋商店のオリジナルだが、手ぬぐいとゆかたと歌舞伎が、いったいどんな関係があるのだろう。
 その答えを話してくれたのは同店の宮川さんだ。

「弊社は日本橋で創業以来、この地に根づいて商いをしてきました。江戸時代初期の日本橋は歌舞伎小屋などもあり、庶民のエンターティメントの町として賑わっていました。周辺には役者たちも多く暮らしていました」

 歌舞伎は江戸っ子が一番大好きだった大衆芸能。その風情をいかしたゆかたの反物を扱う戸田屋商店が、その生地の特徴と染め物屋としての技術を生かして編み出したブランドこそ「梨園染」だったのだ。

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戸田屋商店のゆかた生地。反物を扱うことは手ぬぐいの製造にも共通している


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梨園染の特徴は両面が表として使える「注染」という技法。手作業で熟練の職人が手がけるため、仕上がりも風合いもぬくもりがある


それを知って梨園染の手ぬぐいを見ると、なるほど違いがよくわかる。
「ゆかたの生地は目が細かいため、絵が鮮明に染め上り、とても綺麗です。生地の幅も通常の手ぬぐいが34センチのところを、うちは37センチ。幅が広いため、柄の構図にも変化をつけやすい利点もあります」

 さらに、こだわっているのは色だと宮川さん。
「当時、奢侈禁止令にて贅沢を禁止され、派手な色を使えなかった江戸っ子は『四十八茶百鼠』と言われるように、茶色だけでも48色、灰色においては100色以上も違いを持っていたというほどお洒落でした。派手ではなく、見せびらかすこともせず、でも遊び心があって凝っている…。そんな江戸っぽさを今でも大切にしています」

 江戸っ子気質が残る日本橋は、多くの人が集まる拠点だったからこそ、地元でない人も受け入れ、よそ者扱いしない心意気があると宮川さんは教えてくれる。
 デザインにしても、戸田屋商店の手ぬぐいは実に幅広い。例えば刃物の鎌と丸い輪の絵に平仮名の「ぬ」を並べて「かまわぬ」と読む判じ絵は、江戸っ子の大好きだったモチーフ。そうした伝統の図案もあれば、童話の世界を表現した絵画のような一枚絵まで、広げてみるだけでワクワクしてくる。

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「かまわぬ」は江戸っ子のシャレが効いた歌舞伎ゆかりの伝統的なモチーフ



手ぬぐいの遊び心で暮らしを彩る

「掛け軸に手ぬぐいを吊るして鑑賞する『飾り手ぬぐい』という商品は、昭和20年代後半に発案されたようですが、当時、反物を切って2枚に縫いつなげた『のれん』を生み出した弊社は、手ぬぐいを飾って楽しんでいただくことにも注力してきました」

 高度経済成長期に入り、団地が増えるにつれ、部屋の間仕切りや棚隠しなどに重宝されたのが「のれん」だったという。のれんに最適だったゆかた生地に美しい絵柄を染めて、見て楽しむ飾り手ぬぐいが誕生したのも、季節を感じる暮らしを大切にしてきた日本人のライフスタイルが、狭い日本家屋の中でも息づいていたからだ。

「弊社には昔のアーカイブ(図案)もたくさんデータ化されていますので、そうしたモチーフに新たな息吹を吹き込んで新デザインを製作する場合もあります。うちは生地から型紙づくり(彫り)、染めまで職人たちが手作業で行っていますので、同じ柄でも色合いや風合いが違うのです。使うほどに味わいが出て、唯一無二の手ぬぐいになるのでしょう」と宮川さん。

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季節感を出したデザインもさまざま。これは雛道具が愛らしい春の手ぬぐい

 なるほど。
 手ぬぐいというシンプルな長方形の布が生み出す世界は、使い手のアイディア次第で楽しみ方が無限に広がるアイテムだと改めて気づく。さっそく一枚選んで、手ぬぐいへの知識がまったくない外国人がどんな楽しみ方をしているのかなど、調べてみたらおもしろい使い方のヒントがあるかもしれない。
 宮川さんは、手ぬぐいを知らない若者が加工して蝶ネクタイにするなど、身に着けるファッション小物にアレンジしたことに驚かされた経験があるとのこと。自由な発想で使えるからこそ、例えば、物を包む場合でも、どんな包み方をするかインスピレーションで工夫できるのが手ぬぐいの醍醐味なのだろう。

「手ぬぐいは究極のエコグッズなのです。まず肌に優しい綿100%の天然素材です。そして昔の手ぬぐいはもとより、ゆかたさえ、ほとんど残されていない理由は、捨てる所がないから。おむつ(一反の六分の一が語源)や、雑巾などに使われ、最後はボロクズになり、火を焚く材料として使い切ってしまえるからです。
 いつの時代にも愛される伝統と革新を大切に、これからも日本橋の老舗として『江戸の町人の粋な遊び心』をDNAとして受け継ぎ、後世につなげていきたいと思っています」


戸田屋商店:公式サイト

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