「『病院の給食は、まずくて当たり前』との認識では、患者の状態は改善しない」後編
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*****令和5年6月1日(木)第159号*****
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「『病院の給食は、まずくて当たり前』との認識では、患者の状態は改善しない」後編
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※【以下、前号(本紙第158号)から続く】
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「基準栄養量を適切に改善することで、体重の減少を抑制することが可能だ」
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栄養量の改善前後における体重の変動について(橋本会長が運営する病院で)2015年から2016年にかけて取得したデータを示す。基準栄養量を適切に改善することで、体重の減少が抑制可能であることが分かる。
2015年、基準栄養量を1,500 kcalとして提供していた時期は、体重が増えた患者はわずかで、全体の3~4割ほどであった。一方で残りの6~7割の患者は、体重が減少してしまった。
これらの患者は、すでに急性期で体重が減った上に、さらに体重が減少してしまった。私たちはこの「原因」を探るため、NST(=患者に最適な栄養療法を提供することを目的とした、多職種により構成された医療チーム)も交えて「栄養量の適正化」を検討した。
その結果「1日あたり1,800 kcalぐらいを提供すべきである」との結論に至った。これは最低限度、体重維持に必要な量であり、さらに少しだけ体重を増やすためにも必要な量である。
また、個々の患者がどれぐらいのカロリーを必要とするかについても細かく計算した。その結果、体重が2~4キロ増えた患者の割合が6割ほどに上昇し、逆に体重が減った患者の割合が減少した。
しかし現在のところ「体重を維持する」にとどまっている。当院では2,000 kcalを目指しているが、少なくとも1,900 kcalは提供することを心掛けている。毎日200 kcalずつ増やすことで、体重は徐々に増え、筋肉も増えると考えられる。
一方で、リハビリを毎日行う場合には「これではカロリーが不足する」という課題が存在する。そのため、必要な1,800 kcalを提供することを考えた。しかし、一部の高齢患者から「こんなに多く食べられない」という声が上がった。
では、適切な栄養量を確保するためにどうしたらいいのか──。さまざまな工夫が求められる。
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「病院食は多くの場合『ダイエット食』と同等の栄養成分になっている……」
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全量の摂取が困難な患者に対しては、1品あたりの栄養量を増やす。また、食事回数を増加させる。例えば、1日の食事回数を3回から4回、5回に増やす。昼食から夕食までの間にカロリーの高い食品を摂取する。
また、胃瘻(いろう)を造設して栄養補給を行い、適切な栄養が摂取できるようになった段階で、それを抜去するという方法もある。これらは患者の栄養状態を改善するためのさまざまな工夫である。
食事の1品あたりのカロリーを増やすという手法は、病院でも容易に実施できるだろう。いずれにせよ、食事の工夫は欠かせない。食材の選択や調理法の改善が望まれる。病院食は多くの場合「ダイエット食」と同等の栄養成分になっている。
入院が肥満の解消につながり、20キロ以上の体重減少を経験した患者もいる。病院食しか摂取しなかった結果、体重が減少した例である。病院食だけなら、必ず痩せる。病院では食材を選んでいる。食材の選択によりカロリーが大きく変わる。
例えば、味噌汁の具を豆腐から油揚げに変えるだけでカロリーは約6倍に増加する。トーストをクロワッサンに変えると、カロリーは1.5倍になる。唐揚げやアジフライのような揚げ物は、病院食として不適当とする意見があるかもしれない。
しかし、これらの食材の調理方法をどうするかが、患者の栄養摂取において重要である。私は「ダイエット食」を提供する必要は全くないと考えている。油物でも全く問題はなく、それによって摂取カロリーが1.5倍や2倍になることもある。
こうした工夫により、患者には適切な食事を摂取して体重を維持してもらう、あるいは筋肉を増やして体重を増加してもらう必要がある。
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「食事が美味しくなければ、例え量が多くても、味の不満足さ等により食欲は低下する」
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摂食機能が向上しても、食事自体が魅力的でなければ摂取量は減少する。食欲を刺激する工夫が求められている。食事が美味しくなければ、たとえ量が多くて揚げ物が付いていても、その見た目や味の不満足さにより食欲は低下する=画像・日慢協BLOGより。
私たちの病院や、他にも努力している病院でよく耳にする声がある。それは「一生懸命に赤字を覚悟で、美味しい食事を提供しようとしているが、患者の食欲がないのは病気のせいではなく、食事が美味しくないからだ」ということだ。
美味しくない食事は食欲を奪い、それによって摂取量が減少し、結果的に低栄養に陥り、寝たきりの状態になる。病院は治療を提供する場所であるから、この状況は受け入れられない。施設であろうとも同様だ。
その原因は何か? 「提供されるメニューの栄養価が低い」ことが挙げられる。また、食事の提供が「サイクルメニュー」と呼ばれる形式であることも理由である。短期間で同じメニューが提供されるため「またこれか?」と感じることがある。
1週間もすれば、いつも同じものばかり食べているように感じる。その他の要因として、品数が少ないこと、食材費が安いことも挙げられる。安価な食材はその質が低く、鮮度も期待できない。
食事が「熱々」なら何でも美味しく感じるが、冷めてしまうとその美味しさも失われる。食器の問題も含まれる。このような状況を改善するために、食事に揚げ物を加える、油を加える、タルタルソースを使用するような工夫、メニューの種類を増やす──。
さらに、食材の質を上げるなどの試みが必要となるが、現状ではなかなか難しい状況である。なぜだろうか?
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「食事療養費として病院が受け取る金額は25年間、変化なく一銭も増えていない……」
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2017年の調査時点で(橋本会長が経営する病院の)給食部門はすでに赤字であった。近年、人件費の増加や物価高騰により、栄養部門の改善は限界に達している。現在の食事療養費(640円/食)は、過去25年間で変化していない。
1998年には1日1,920円とされており、これを3つの食事(朝・昼・晩)に分けると1食あたり640円となる。1998年から現在まで食事療養費は1円も増えていない。一方で、患者が自己負担として支払う金額は診療報酬ごとに100円ほど増え続けている。
現在、1食当たりの自己負担は460円となっている。1994年は1日600円、つまり1食200円であった。これにより、現在は食事に関する自己負担が200円から460円へと倍以上に増加している。
しかし、それとは対照的に食事療養費として病院が受け取る金額は25年間、一切変わっていない。すなわち、病院が受け取る金額は25年間で一銭も増えていない状況である。
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「食事を改善する原資が不足。食事療養費の増額により、食事の改善を実現したい……」
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栄養管理は、寝たきり防止のための重要な施策である。摂食機能を強化するだけでなく、栄養量と食欲の改善のために、食事療養費の増額が必要である。寝たきりになることを避けるためには、適切な栄養摂取が不可欠である。
また、脱水状態も避けなければならない。高齢者が「栄養失調の状態で、元気であること」は考えにくい。そのため、栄養と水分の摂取は必須であり、これが不足していると適切な運動もできない。
食事は健康維持の根本であり、その改善に向けた取り組みが求められる。回復のための栄養管理としては、必要なエネルギーと栄養を十分に提供することが必要である。リハビリによる運動量と、体重減少による栄養需要を満たす必要がある。
さらに、摂食機能の強化も重要な要素である。摂食能力は近年、診療報酬や介護報酬で摂食機能の訓練に関する加算などを通じて、一定の配慮がなされている。しかし、食事療養費については改善されていない。
食欲を増進するためには、美味しくて見た目も魅力的な食事の提供が求められる。必ずしも豪華なものではなく、美味しいお味噌汁や焼き魚、煮物といったシンプルな食事でも十分である。
しかし食事を改善する原資が不足している。味気ない冷凍野菜などの提供は食事への意欲を低下させ、寝たきりにつながる。私たちは「食事療養費の増額により、食事の改善を実現したい」と考えている。栄養管理の実現に向けて、食事療養費の増額をお願いしたい。
◇─[おわりに]───────────
日慢協はこれまで、14年間の長期に渡って武久洋三氏が会長職を務めてきました。弊紙もこの間の約9年、武久前会長に記者会見等でお世話になりました。現在の橋本会長は、その武久前会長からの「指名」で昨年6月、会長職に就任しました。
その「指名」の理由について、武久前会長は「以前、橋本先生に声をかけてもらい、新築した施設を見学させて頂いたが、各所に施されている『利用者への気遣い』や、その『発想力やアイデア』に感服した」
「橋本先生にはぜひ、日慢協の会員の皆さんの先頭に立って頂き、医療関係の団体で『初』となる女性のトップに就いてもらいたいと思った」等と説明しました。今回の会見の内容はまさに、武久前会長が指摘した内容を具現化した事例だと思いました。
お恥ずかしながら弊紙では、都合により今回の記者会見には出席できず、日慢協のBLOGをみて「ぜひ、記事にしたい」と思いました。それは「利用者の立場にたった、改善策の提案」だったからです。
今後とも弊紙は、日慢協や橋本会長が発するメッセージに注目してまいります。そして、弊紙の読者の皆さんが「最適な介護を、自分で選ぶ」ために参考となる情報を、一つでも多くお届けしたいと思っております。
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