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スティールヘッドの生存率はいかほどか?

科学論文を釣り情報へ還元する第13回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集、今日はその2日目です。

今回のテーマ:スティールヘッドの生存率はいかに?


今回ご紹介するのはこちらの2本です。
Evans, A. F., Hostetter, N. J., Collis, K., Roby, D. D., & Loge, F. J. (2014). Relationship between juvenile fish condition and survival to adulthood in steelhead. Transactions of the American Fisheries Society, 143(4), 899-909.

Romer, J. D., Leblanc, C. A., Clements, S., Ferguson, J. A., Kent, M. L., Noakes, D., & Schreck, C. B. (2013). Survival and behavior of juvenile steelhead trout (Oncorhynchus mykiss) in two estuaries in Oregon, USA. Environmental biology of fishes, 96(7), 849-863.

今回の2本論文では、スティールヘッド(ニジマス)の稚魚から成魚までの生存率はどのくらいなのか?、そしてスティールヘッドの稚魚の生存には何が関わっているかを調べています。

前回の記事で、スティールヘッドの生態やニジマスとの違いを整理しました。
今回はスティールヘッドのように海へ降りるニジマスってそもそもどのくらい生き残るのか?
また、何が原因で死んでしまうのか考えていきたいと思います。

スティールヘッドはどれくらい生き残る?

結論から言うと、稚魚から成魚になり遡上して帰ってくる確率は最大で3%だそうです!

す、少ない…!!

1本目の論文では2本の川の上流で稚魚を捕獲し、PITタグと呼ばれる極小のタグをつけ放流しました。
そして、1~3年後海から河川へ戻ってくるスティールヘッドのうち何パーセントにタグが付いているかを調べています。

この方法で4年間継続して調査したところ、戻ってきたスティールヘッドは0.6~3.2%で、平均すると2%弱とわかりました。

スティールヘッド(ニジマス)の抱卵数は、40~50cmクラスで2000~5000粒と考えると、
そのうち、海へ降りスティールヘッドとなってちゃんと帰ってくるのは、1尾の親から最大100尾くらいと考えられます。

もちろん、ニジマス原産国の北米の話ではありますが、これを多いとみるか少ないとみるかは人によって意見が分かれるところかもしれませんね。
(なお、残りは全て成魚にならず死ぬわけではなく、陸封型のニジマスとしてきちんと成長する個体もいます)

今回の論文の中に、スティールヘッドの回帰率が高くなる要因も書いてありました。

それが、出水が多い年です。
雪解け水(雪代)や雨量、ダムの放水など多く、いわゆる渇水になる期間が少なく十分な河川の水量が担保されると、その年の回帰率が高まる可能性があるようです。

どこで死んでしまうのか?

さて、稚魚から成魚になって帰ってまでどこで死亡する確率が高いのでしょうか?

2本目の論文では、どこで死ぬのかを調べるために、河川内で10~20cmの銀毛(スモルト化)したスティールヘッド幼魚を捕獲し、発信機を装着して再度放流してその行動を追跡しました。

銀毛している個体のみを利用していることから、海水適応の準備段階にあるニジマス≒スティールヘッドと考えることができます。

その結果、追跡したスティールヘッド幼魚の大部分(最大約90%)は、河川下流の河口域まで到達しました。

しかし、その河口域で最大50%以上が死亡したことがわかりました。

河川の下流~河口域の死亡率を合計すると、全体の死亡率の70~80%を占めます。

つまり、銀毛して海へ降りる準備ができたスティールヘッドは、ほとんど河川の中〜上流では死亡することがないが、海へ降りる瞬間の河口域で相当数が死んでしまうのです。

驚くことに、河口域へ到達したスティールヘッド幼魚全体の河口滞在時間は、平均1日未満とわかっています。

この1日に満たない期間にスティールヘッドたちに何があったのでしょうか?

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原因の大部分はコイツラにあるそうです↑↑(写真はWikipediaより)

そう、みなさんご存知、ウミウアザラシです。
彼らは河口域で降りてくるスティールヘッド幼魚を、大群で待ち伏せし、一網打尽に捕食してしまうそうです。

今回調査している2つの河川の河口域でもミミヒメウ(ウミウの仲間)とゼニガタアザラシが、大量に生息していることがわかっています。

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また、カナダの河川の記録では、↑↑のように河川の最下流付近で、こんな風に一列になってサケマス稚魚の群れを待ち伏せしていることが報告されています。

ほとんど人間の漁に近いというか・・何というか、これはやられちゃいますよね・・・

この他にも、スティールヘッド幼魚期のコンディション、例えば疾病とか寄生虫によって死亡する可能性があり、
疾病を患った幼魚は遊泳力も低下しますから、より捕食されやすく、死亡する確率がかなり高まると言えるそうです。

今回の論文では、流量が多いとスティールヘッド幼魚が河口域を通過しにくくなることも示しています。

例えば、降雨で流量が多くなり濁度の高まると、捕食者側には影響がなくても幼魚の回避能力は低下するのでは?と言っているのです。

つまり、濁りが捕食者のウやアザラシの目くらましになるかと思ったら、そうではなくて逆に逃げれなくなるということのようです。
そもそも、流量が多いと幼魚のような小魚の遊泳能力では逆らえなくなる可能性もありますしね・・・・・。

降海する幼魚には流量が多いと良くないようですが、遡上する成魚には流量は多い程良い、ということが言えそうですね。

さてさて、今回はスティールヘッドの生存率などをみていきました。


そもそもスティールヘッドとして海から川へ帰ってくるサカナは結構少ないんですね。。

しかも大部分が海へ降りる直前までに死んでいたなんて・・・・・。

うーん、スティールヘッドやっぱり釣ってみたいけど、そもそもスティールヘッドとして戻る確率はかなり低いですね~日本ではさらに難しいかな~~。


次回はスティールヘッドの迷走(迷入)について考えていこうと思います。
それでは、次回お会いしましょう。

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