スティールヘッドの遊泳能力は最強?
科学論文を釣り情報へ還元する第17回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集で、今日はその6日目(最終日)です。
今回のテーマ:スティールヘッドの遊泳能力は最強?
今回で一旦スティールヘッド特集を終えたいと思いますので、最後はスティールヘッドを含めたサケマスの仲間の遊泳能力について比較した論文をご紹介します。
Reiser, D. W., Huang, C. M., Beck, S., Gagner, M., & Jeanes, E. (2006). Defining flow windows for upstream passage of adult anadromous salmonids at cascades and falls. Transactions of the American Fisheries Society, 135(3), 668-679.
河川に設置された人工設備を遡上させるため魚道を作ることが一般的ですが、どういった魚道が遡上するサケマスの仲間に適するのかを調べています。
特にこの論文でピックアップしたいのは、河川へ遡上するサケマスの仲間6種ギンザケ、カラフトマス、シロザケ、ベニザケ、マスノスケ(キングサーモン)、そしてスティールヘッドの遊泳能力を整理した点です。
スティールヘッドの遊泳能力最強説
まず、この6種の遊泳能力をまとめたのが下記の表です。
ストレスフリー速度(Sustained velocity)は、サカナが疲労することなく、長時間正常に遊泳できる速度です。
通常速度(Prolonged velocity)は、15秒~200分にわたって維持できる速度です。
最高速度(Burst velocity)は、15秒以内は維持できる最高速度で、主に滝や魚道など速い流速帯を登る際に利用する速度です。
なお、ストレスフリー速度や通常速度は日本では巡航速度として整理され、最高速度は突進速度と書かれることもあります。
(以前の記事でサクラマスやシロザケについても一部記載しています)
ご覧の通りで、調べたサカナの体長や条件に多少の差はありますが、スティールヘッドはどの速度を見ても、他の5種に比べ速いことがわかります。
また、ジャンプ力(最高到達点)もスティールヘッドが群を抜いていて、1回に3m以上のジャンプが可能です。
ここから、どんなことが考えられるでしょうか?
スティールヘッドは今回のサケマスの仲間の中では最も上流で繁殖をする種の一つです。
上流域まで遡上するには、他の種に比べかなりたくさんの障害を乗り越えなければならないことが予想されます。
そのため、速い流れを長時間遊泳するのに適した代謝構造をしている可能性がありますよね。
実際、単発的に障害を乗り越える最高速度だけでなく、ストレスフリー速度や通常速度に関しても速いことがそれを物語っています。
それにしても、最高速度は秒速8m以上かつジャンプ力3m以上ですから、もしフッキングしてもファイト中は大変そうだなと思うばかりです。。
興奮が冷めやりませんね!!!!
サケマスの仲間の進化と遊泳能力
サケマスの仲間の遊泳速度の差は、上流域で繁殖する順とだいたい一致していて、
今回の6種でみると、より上流で繁殖する順にスティールヘッド>ギンザケ>マスノスケ>ベニザケ>カラフトマス≒シロザケとなるようです。
スティールヘッドのように上流域で繁殖するサカナがいる一方で、カラフトマスやシロザケ、ベニザケは割と下流で繁殖に臨みます。
そうなると、下流で繁殖するサカナが超えなければいけない障害は上流に行くサカナよりも各段に少なく、その分のエネルギーを繁殖に回すことができます。
遊泳能力(速度)で比べるとシロザケやカラフトマスは劣る部分もありますが、その分を繁殖へ回すことで進化を進めた可能性がありますよね。
今回の筆者は、過去の回遊履歴(回遊期間、過去に遭遇した障害物、水質条件など)が、魚の障害物を通過する能力の影響しているのではないかと考えているようです。
また、水温などの周辺環境が遊泳速度に影響を与えている可能性もありますよね。
過去の研究では、ニジマスの最高は温度に大きく依存しないそうですが、カラフトマスは、繁殖行動のサイクルへ移行するにしたがって遊泳速度が低下することが報告されています。
さてさて、今週はスティールヘッド特集と題して、6日間進めてみました。
もし見逃した回があれば、是非後ほどご覧くださいね。
下記にリンクを貼っておきます。
第一回:スティールヘッドって何よ?
第二回:スティールヘッドの生残率はいかほどか?
第三回:スティールヘッドの回帰と迷入
第四回:スティールヘッドを釣る人の満足度
第五回:スティールヘッドが好む水温?
第六回(今回):スティールヘッドの遊泳能力は最強?
ご要望がありましたら、何か特集を考えてみたいと思いますので是非コメントいただければと思います。
それではまた次回お会いしましょう。