スティールヘッドって何よ?
科学論文を釣り情報へ還元する第12回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集でいきたいと思います。
スティールヘッドはサケマスの釣り好きには憧れのサカナの一種と思いますが、その生態やニジマスとの違いがあまりよく知られていないサカナではないでしょうか。
日本国内では「本物のスティールヘッドは北海道でたまに釣られるだけ」と言われるほど、あまりお目にかかれない代物ですが、本当にそうなのでしょうか?
逆に最近では国内各地でも「スティールヘッド釣ったぞ!」という声も聴きますが、それが本当のスティールヘッドなのでしょうか?
こういった色々な疑問を少しでも解決できるよう皆さんに情報をお届けしたいと思います。
今回のテーマ:スティールヘッドって何よ?
この論文では、夏に遡上するタイプのスティールヘッド(サマーランスティールヘッド)の遡上してからの河川の利用方法について、特に越冬に注目した研究しています。
スティールヘッドって何よ?
スティールヘッドは一般にニジマスが海へ降りて戻ってきたサカナと理解されています。一方で、河川のみでその生活を完結するのがニジマスです。
ニジマスはそもそも淡水のサカナですが、海水にも適応出来ることから、淡水と海水を行き来することも可能です。
つまり、河川のみで生活するニジマス(陸封型)、一旦海へ成長のため飛び出し繁殖のために帰るニジマス(降海型、これが一般にスティールヘッドと呼ばれる)、そして普段から(エサ探しなどのため)河川と海を行き来するニジマス(両側回遊型)と、実は3種類存在する可能性があります。
サクラマスもそうですが、河川内の餌争いが激化し、群れの中や外敵との競争を避け、十分に成長してから繁殖を進めるため降海するというのが、降海型の基本的な考え方です。
今回は海へ成長のため飛び出し繁殖のために帰るニジマスを「スティールヘッド」と定義してお話を進めます。
では、ニジマスとスティールヘッドの見分け方に違いはあるのでしょうか?
スティールヘッドの見分け方でよく言われるのが、頭の上が濃いめの黒色で、銀毛ベースで、かつ黒い斑点が少ないという特徴です。
こちらの方の記事で大変くわしく考察されていますので一見の価値があります。
https://ameblo.jp/salmonpilot/entry-12452820749.html
しかし、なかなか難しいですよね。
銀毛(スモルト化)は海水へ適応するサケマスでみられる現象ですが、
これ自体は、海へ降りなくても起きてします個体も結構多くいます。
例えば、河川で生まれ湖で生活するニジマスは、湖を海と想定し(勘違いし)銀毛するものも多くいます。
河川と海を行き来する両側回遊型ニジマスであっても銀毛しているでしょう。
ちょっとわかりづらいですが、これは私が以前釣った湖のシルバーバックのニジマスです↓↓
このように、正直、日本では見分けがつきにくいというのが答えかもしれません。
これは日本国内ではニジマスが海へ降り、川へ戻ってくるというのが、定説化されていないからだと考えます。
「スティールヘッドなどいない」と言いたいわけではなく、サケやサクラマスほど資源量的にスティールヘッドが少なく、
我々が一見して「これはスティールヘッドだ!」と確信をもって言えるほどスティールヘッドが存在していない、というのが理由です。
ではなぜ、日本にスティールヘッドが少ないか?
これについては最後にまわします。
サマーラン?ウインターラン?
以前の記事のように、サケやサクラマスの河川回帰はある程度1つの型におさまります。
しかし、スティールヘッドの場合、河川への帰り方は複数あるようです。
1つ目が、春~秋に河川へ遡上し、そこで一冬越して、春に産卵する「サマーラン」と呼ばれるスティールヘッド。
2つ目が、秋~冬に河川へ遡上し一冬越してサマーラン同様に春に産卵する「ウインターラン」のスティールヘッドです。
また、このサマーランの中でも春早めに遡上してそのまま繁殖へ参加してしまう「スプリングラン」というスティールヘッドもいるらしく、
大きくわけても3種類になります。
しかも、サケやサクラマスと違い、ニジマス(スティールヘッド)は1回の繁殖で生涯を終えるわけではなく、10年前後の寿命で何度も産卵する多回産卵のサカナです。
(多回産卵のスティールヘッドは1回で終えるサカナと比べ、最大3倍以上の子孫を残すと言われています)
そのため、春の産卵場には上記の3種類だけでなく、2回目以降の繁殖をむかえるニジマス(スティールヘッド)や河川のみで生活した陸封型のニジマスが加わるので、なかなかのカオスな状態です。
なぜ、こんなに違うパターンの遡上行動になったのでしょうか?
これはニジマス(スティールヘッド)の発生起源に由来しているようです。
例えば、アメリカのオレゴン州Willamette川にはWillamette Fallsというなかなか立派な滝があり↓↓(画像はWikipediaより)
この上流を起源とするニジマスは、一度海へ降りるとこの滝を上って戻ってくる必要があります。
そうなると、河川の流量が多く高低差少ない冬から春に一気に登る必要があります。
つまり、雪代を利用して、一時期に遡上&繁殖してしまうウインターラン(スプリングラン)が誕生するということになります。
一方で、サマーランは、早いものだと産卵前年の春から夏に遡上を開始し、約11カ月は河川に滞在します。
繁殖直前までのエネルギー蓄積をすることを考えると、餌の確保には海に居た方がメリットが多いはずで、その点ではウインターランに分があります。
しかし、最大1,500km以上を遡上し、自分の生まれた河川上流域の支流へ帰ることを考えると、サマーランのように前年から遡上し、様子をみながら産卵場を探索するという作戦もあり得るわけです。
このように多様な遡上戦略を持つのおかげで、
様々な河川へ適応し、生息域を拡大させたのかもしれませんね。
北米の河川では、だいたいの河川でサマーラン主体かウインターラン主体かに分かれそうですが、どちらも遡上する河川もたくさんあるそうで、年から年中、引きの強い大型のスティールヘッドの釣りが楽しめる河川も存在します。
ちなみに、この論文では支流で越冬するスティールヘッドの方が、支流に入らずプールや本流域で越冬しようとするスティールヘッドより、生存率が20%ほど高いことを明らかにしています。
この差は、漁業や釣りといった人間活動が冬の期間は支流にまでは及ばないため、産卵場に近い支流で越冬するスティールヘッドの方が生残率が高いことを示しているのかもしれません。
それにしても、年中スティールヘッドを楽しめる河川があるなんて、本当に羨ましい限りです。。
日本のスティールヘッド事情は?
ではなぜ、日本ではニジマスはポピュラーなのにスティールヘッドが少ないか?という疑問を考えて終わりたいと思います。
これには歴史と日本の生態系が深く関わっているのではないかと考えます。
ニジマスは明治初期にアメリカから移入されます。もちろん食用目的です。
これが全国的に広まり、もともと環境的に適応しやすい北海道などではすぐに自然繁殖が可能になったと言われています。
ニジマス自体は割と獰猛な性格で大型化しやすいため、移入された当初から日本国内の河川の生態系ではかなり優位な立場になります。
しかも、原産国の北米に近い環境(特に北海道など)が日本にあったのでその適応は割と簡単であったと想像できます。
その結果、河川内で十分餌を確保でき、わざわざ海へ降りる必要がなかったのかもしれません。
オホーツク海沿岸のカラフトマスやサケの定置網漁では、年に数本はスティールヘッドとみられるサカナが漁獲されると聞きます。
サケやサクラマス、カラフトマスは腐る程見ている漁師さんですから、
同じサケマスでも明らかに違うのは、ハッキリとわかるそうです。
サイズも60cmは軽く越しており、中には80cmクラス以上のスティールヘッドも珍しくないそうです。
こんなことから考えると、本物のスティールヘッドは日本にも存在はする。しかし、数は圧倒的に少ない。そして、釣れると間違いなくデカいと言えます。
考えられるのは、ニジマスの魚影が濃く、競争が激しい河川ほどその確率が高いということでしょうか。
明日はスティールヘッドの実際の回帰率や生存率についてご紹介したいと思います。
また次回お会いしましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?