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宙空に言葉をほおる。
乗っている名鉄が堀田から桜あたりに差し掛かった頃、僕の左に座っているおじさんが急に話しはじめた。
「57分に着くから xirekdiw...」
携帯で話しているのかと思ったが、手にはなにも持っていない。まわりに知り合いもいない。おじさんは真っ直ぐ前を向いて、宙空に向かって話していた。
静かな車内に突然声がしたのでギョッとしつつ、「あ、この感じが "つぶやき" か」と思った。
ツイート(つぶやき)とはよく言ったもので、SNS に発信するときは、会って話すときや電話のときと違って、向こうに特定の誰かはいない。人の群れというか川のようなものを目がけて、でも誰にも届かない宙空に言葉をほおる。
そのほおられた言葉を誰かが見かけて「いいね」と反応したり、コメントを残したりする。その様子はやや釣りにも似ている。
これって、ずいぶん変な、というか、新しい交流のしかただと思う。
現実世界で行われたら、先の電車のおじさんのようにギョッとするようなことを、オンラインでは普通にやっているのだ。
とはいえ、僕よりもずっと若い10代、20代の子たちは、物心ついた時からそういう交流や言葉のやりとりが普通にある世代だ。彼らにとっての感じ方は、僕とはずいぶん違うんだろうと想像してみるが、その想像がもはや追いつかない。
ともあれ、そういう SNS とともに僕らは暮らしている。たぶんしばらくは切っても切り離せないのだろう。そう思うと、現代の僕たちというのは、まったく新しい人間関係の構築のしかたを模索させられているのではないか。そんなふうにも思えてくる。
ところで「ほおる」というのは、本来は「放る」でふりがなは「ほうる」が正しいのだけれど、あのぽーんと投げられる感じは「ほおる」の方が近い気がする。いや、ぜんぜん関係ないんだけど、これも宙空にほおってみただけ。
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