ここがロドスだ、ここで跳べ。
「ここがロドスだ、ここで跳べ。」
言葉の意味を検索すると、AKB48の4枚目のアルバムの解説が出てくるが(たくさん売れたアルバムだったらしい)「さっしーってすごいよね」とか、そういうフライングゲットな話がしたいわけじゃない。
話したいのは、人間関係におけるロドスの話。
どんな人間関係においても、また仕事においても、相手と慎重に距離を縮めるのは大事なことだ。いたずらに気分を害したいわけでもないし、込み入った話に軽々しく入って、こんがらがったりしたら目も当てられない。
でも、そればかりでいいのだろうか。
慎重に、慎重に、だけでは超えられない溝があるのではないか。
今日も職場でそんな話をしていた。
ある人との関わりについて、どうしたら距離を縮められるか、相手に納得してもらえるか、児童館、役所、学校、関係するそれぞれの立場から検討していた。
でも、どんなに論理的に話を詰めていっても、最後の最後のところで「どうなるか分からない」。僕らを含め関係者はみな、そこで立ち止まっていた。
そこに飛び込まなければ、解決されそうもない。
でも、そこに飛び込んだら、どうなるか分からない。
人と人との間には、しばしばそういう溝ができる。
僕は今日、その溝を跳んだ。
といっても、話していたのとは別の、ごく小さな溝ではあったけれど。
僕はさっき、ある子どもの態度について、気分を害すると分かっていて、ダメ出しをした。
彼ならその指摘に耐えられると思った。そして、僕にとってその指摘をすることは、ダメだと言いたいわけではなかった。
「その態度を続けていては、君の本当にできることが損なわれてしまうよ、もったいないよ。」
心から、そう言いたかった。
だから、言っても大丈夫だ。
そう信じていたつもりだった。
案の定、彼は話を聞くことに抵抗を示した。
話の途中で立ち去ろうとし、そこにある「自分を拒絶している」というメッセージを必死に探していた。
抵抗は思ったよりも強かった。
まったく自分のペースで話ができない。
「やっぱり。もう来るなっていうんだろ!」
彼は僕の言葉の一部を捉えて立ち上がり、児童館を出て行こうとした。
「違う!」と言って、僕は彼の前に立ちふさがり、もう一度「君ならできると思っている。もったいないと思っている」と繰り返した。
「分かったようなこと言うなよ」
彼はそう言い捨てて、立ち去っていった。まったくだ、と僕は思った。
一人、事務所に戻ってきて椅子に座り、同僚の顔を見たら、不覚にも泣きそうになった。
なんの涙かは分からない。聞いてもらえなかった寂しさとも思えない。でもどうしようもなく悲しい気持ちになったのだった。
「ここがロドスだ、ここで跳べ。」
この言葉は、イソップ童話から転じて「遠くの理想郷(ロドス)を語るのではなく、いま、ここで跳ぶ勇気が必要だ」という意味になったそうだ。
僕にとってこの言葉は、人と人との間にある溝を超えて、相手に触れにいくことを意味する。
涙がこぼれそうになりながら、事の顛末を語り、「彼、もうしばらく来ないかな」とスタッフ同士で話していたら、電話が鳴った。
彼だった。
彼は今日、ストレスが溜まっていたこと、明日も児童館に行くことを僕に話してくれた。
いままで、彼はそんなふうになると何週間も児童館に来ないことがあった。だから、それはとてつもない飛躍だった。
でも、それ以上に僕に電話をかけてきてくれたことが、まるで恋人のようにうれしかった。「うれしい。ありがとう」と僕は応えた。
And I will always love you...
と茶化したように、同僚が笑った。
「きもちわりぃよ」と言いながら、でもオレ、ちょっとホイットニーの気持ちわかるわ、と思った。
昨日、僕はこう書いた。
そういう人たちは、光り方が違う。笑っちゃうくらい、違う。
僕が見たNPOの世界には、僕のような自己満足タイプと本当に光っている人たちの二種類がいて、そのコントラストがとても面白かった。
僕が見たNPOで光っていた人たちは、ロドスを何度も跳んできた人なのだと思う。
それは自己満足のためにいる人には、理論的にありえない行動だった。
だって、跳ぶ前に計算したら、損しかないから。
そして、跳ばなくても誰もその人を責めないから。
僕が跳んだのは側溝くらいの小さなロドスで、光ってる人たちが跳んできたのは、たぶんもっと大きなロドスだったはずだ。
文字通り、壮絶な。
そして、そこには、僕がダメ出しをする前に「大丈夫」と確認したように、跳ぶことを許すための強烈な信念があったに違いない。
「ここがロドスだ、ここで跳べ。」
そういう信念のことを、人は「信仰」と呼ぶのだと思う。
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