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導かれし者。

おととい亡くなった祖父の通夜と告別式が終わった。身内だけのやわらかなお葬式だったのでとてもリラックスしていた。火葬場はやっぱりすこしつらかったけれど。

葬儀でお経をあげてくれたお坊さんは「お導師様」と呼ばれていた。祖母はお寺の娘なので、お導師様も親戚だった。昔からの付き合いだけれど、この時ばかりは豪華な法衣。門出を祝う、といったら妙かもしれないが、そんな感じがした。

そういえば、お導師様のお経は抑揚がついて歌みたいだった。あとはたえずお香の香りがしていた。歌と香りは祖父が導かれていく世界にも届くらしい。

棺に花を飾ると祖父のまわりは実に華やかになった。らくになってこれからいいところへ行くんだなという感じがした。実際、祖父の顔は故人にしては珍しいくらいにこやかだった。

その祖父と僕は昨晩、葬儀会館にふたりで泊まった。なんとも妙な気分の一泊。害をなすことなんてあろうはずもないのに、空調のボォーッという音や製氷機が氷をつくるゴトッという音にいちいちビビった。「おやすみ」と顔を見て挨拶をするときにはゴメンだけど背筋がゾワッとした。起きたら面白いけど、ちょっと怖いなと思ってしまって。

時間は飛んで、火葬場で最後のお別れをする間際、祖母が急に「ふるさと」を歌いはじめた。

うさぎ 追いし かの山
こぶな 釣りし かの川
夢はいまも めぐりて
わすれ難き ふるさと

係の人が扉を締める準備をしていたところだったので、つい「空気!」とつっこみたくなったが、いやいや、これはこちらが優先。祖母と母と叔母が歌った「ふるさと」は、祖父との最後の対面に見えない花を添えた。

それにしても、なんでこの歌だったのかな。
でも、最期にとてもふさわしいように感じられた。

今日の博多はどしゃ降りの予報。式の最中もずっと雨が降っていたけれど、火葬場を出ると雨脚は弱まっていた。空はもう明るくなっている。

灰色だけれど明るくなっていく空。帰りのタクシーのフロントガラスにぽつ、ぽつと細かい雨が落ちて、なんだか泣き笑いみたいだな、と思った。

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澤 祐典
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