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蛹(さなぎ)の時期。

蝶はタマゴからイモムシになり、やがて、さなぎになって成虫の蝶になる。
このさなぎという時期は、とても不思議だ。

蝶はさなぎになると中で完全に静止して、食事もとらず、ドロドロのスープ状になるそうだ。このスープには幼虫の体のうち、一部の神経、呼吸器系以外の組織が溶けている。そして、そのスープが突然、羽化してあの蝶になるのだ。「完全変態」と呼ばれるこのメカニズムは、昆虫界でもまだ完全には解明されていないらしい。

幼い体を一旦細胞に至るまでドロドロに溶かし、新たな体に大改造する。
僕はこのようなさなぎの時期が、人にもあるのではないかと考えている。
少なくとも、僕にはあった。

その時期には、嘘みたいに何もかもがうまくいかなくなる。いままでうまくいっていたやり方がまるで通じなくなる。活動は停滞し、やがて止まってしまう。

とても焦るけれど、それは「いままでのやり方の応用では、この先は進めませんよ」というサイン。その時、人は人生からこれまでの自分を解体し、新たな自分を構築することを要請されているのだと思う。

たとえば、厄年というのは、人にとってのさなぎの時期なのかもしれない。厄災を通じてそれまでの自分を壊し、ドロドロに溶かして再構築する。それがうまくいくと、見た目さえ若返ったようになる。明らかにいきいきとする。

けれど、さなぎの時期というのは、非常に脆い。蝶の場合、さなぎはちょっとした振動のショックで死んでしまうそうだ。人だってうまくいっていないときは余計に繊細でややこしい。だから、その時期には、いつも以上に他者からの手助けが要る。

蝶にさなぎの時期があるのも、人に厄年のような時期があるのも、なんでなのかは分からない。もっとスムーズにいけばいいのにという気もする。

でも紆余曲折したことで育まれる豊かさってあって、知り合いを見回してみても、やっぱり苦労してきた人は人間が分厚い。

いつだってらくに、楽しく生きられればと思うのに、苦労によって鍛えられるのもまた人の性分なのだ。困ったものである。

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