赤ちゃんっぽくなくなってきた。
「なんか、赤ちゃんっぽくなくなってきたね」
と言ったら、妻も同じ印象を持っていた。
最近、赤ちゃんが赤ちゃんっぽくない。
3歳から5歳くらいまでの少年の顔に変わった気がする。
動物行動学者 コンラット=ローレンツは、ヒトや動物の赤ちゃんの特徴を「ベビースキーマ」としてまとめている。たとえば、
といった特徴が「赤ちゃんらしさ」を示すそうだ。
そういう意味ではまだうちの子は赤ちゃんど真ん中だ。
上に挙げたどの特徴にもあてはまる。
それでもなんとなく、どことなく、前とちがう。
前の赤ちゃんよりも強さやたくましさが出てきて、時には強情さ、頑固さに見えるときすらある。僕らも赤ちゃんだということを忘れて、普通にイラッとしたりする。
何度も書いたことだけれど、はじめて赤ちゃんに会ったときには「よそから来た」「宇宙(おそら)の子」という感じがしていた。
弱々しくて、かわいくて、なんとか命を守らなければという気持ちでいっぱいだったし、授かりものだという意識も強く、愛情を注ぐことに使命感も感じた。
いまでもその愛情は変わらないはずなのだけれど、たとえば、ハイハイしてドアの角にゴンと頭をぶつけても動揺しなくなった。ベビーバスの中で立ち上がってしまうのを「おりゃ」と制するときにも、風呂上がりにバスタオルで髪を拭くときにも前よりザツになったと思う。
それはもちろん慣れたということだろうし、もうちょっと丁寧に接した方がいいという話なのかもしれないけれど、同時に赤ちゃんの変化を知らず知らず感じ取って「大丈夫」と感じている面もあると思う。
「前はどんなだったかなあ」と思って顔をのぞきこんでも、うまく思い出せない。一見なにも変わっていないようにも思える。この顔が赤ちゃんなのは明らかだからだ。
それでもなにかが変わったように思う。おむつを換えたり、ミルクを飲ませたり、揺らして寝かしつけたりする毎日の中で、いつのまにか現れて、いつのまにか消えていったものがあるような気がする。
それは握り締めようと思っても流れる水のようにすり抜けていくものなので、どうすることもできない。なのだけれど、こうしてふと変化に気づいてしまったとき、つい前の赤ちゃんに会いたくなってしまう。