
仁王とミルキーウェイ。
昨夜の失敗は、夜の離乳食後にオムツ替えをし忘れたことだった。
赤ちゃんは食事中に ”気張って” いたので、食後の時点でオムツを替える必要があったのだけれど、そのことを忘れて、授乳→ミルク→寝かしつけへと進んでしまった。
最近は授乳クッションに乗せて気持ち悪くない程度に振動を与えながらミルクを飲ませ、そのまま「バインディ」(寝かしつけのための上下動)に移るという新技「ミルキーウェイ」を開発し、昨晩もそれがうまくいっていた。「スムーズにいったなあ」と満足感すら感じていたのだ。
ところが、である。寝かしつけから目覚めた後のオムツ替えは修羅場になる。目覚めた赤ちゃんはおっぱいを求めて泣くが、おっぱいをあげるとそのまま寝てしまう。おっぱいをあげずにオムツ替えをすると、より激しく泣くことになる。
深夜2時頃、妻はその状態に陥った。号泣する赤ちゃんを必死になだめながら「大」の処理をし、オムツを替え、それから寝かしつけに移ったのだけれど、時すでに遅し。泣くことですっかり目覚めてしまった赤ちゃんは無邪気に遊びはじめてしまった。
その時点で助けを求められた僕は眠い目をこすりながら途方に暮れた。どう見てもしばらく寝そうにない。新技「ミルキーウェイ」をかけてもおそらく外されてしまうだろう。
あれこれ試した挙句、結局、妻が寝て、僕が赤ちゃんと対峙することになった。時刻は午前4時。赤ちゃんは満面の笑みで遊んでいる。ふだんより上機嫌なくらいだ。寝る気配はない。
僕は意を決して「ミルキーウェイ」をかけることにした。勝算は薄い。まだ遊びたい赤ちゃんは当然のごとく、技から逃れようと激しく身をよじる。
いつもだったら仕方ないともう一度遊ばせる場面だが、時刻は午前4時。ここで僕は心を鬼にして「ミルキーウェイ」をかけ続けた。かわいい技の名前だが、心の中心には仁王様がいた。「いまは寝る時間であり、遊ぶ時間ではない」という不都合な真実を全身全霊で赤ちゃんに伝えるようにして、僕は授乳クッションで跳ね続けた。泣きながら抵抗する赤ちゃん。心が痛む。
それでも、しばらくすると抵抗を続けていた赤ちゃんの体の力がすっと抜け、すうすうと寝息を立てはじめた。そのまま20分ほどいっしょにいて、授乳クッションから抱き上げ、ふとんに寝かせる。すこしむずかったが寝付いてくれた。
時刻は午前4時30分。たった30分とは思えない濃厚な時間だった。
あのとき、強引に「ミルキーウェイ」をかけたのがよかったのか、僕には分からない。けれど、これから先の人生においても同じように自分が壁となって「これをすることはできない」と伝える役になるのだなあと思った。心に仁王様を宿して、行く手を阻む存在に。
それが父性というものかもしれない。
正直、ちょっといやだな、と思ってしまった。
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